過活動膀胱とは、急に起こる我慢出来ないような強い尿意(尿意切迫感)を主症状とする症候群です。正常な膀胱は脳からの指令によってコントロールされていますが、過活動膀胱では何らかの原因により膀胱がコントロールを失ったような状態となり、少量の尿で膀胱が過剰に収縮してしまい、我慢出来ないような強い尿意切迫感が急激に起ります。そのため、トイレが近くなったり(頻尿)、就寝後何回もトイレに起きたり(夜間頻尿)、強い尿意によりトイレにたどりつくまでに我慢が出来ずに尿が漏れる(切迫性尿失禁)などの症状を伴います。
症状と原因
上記のように、強い尿切迫感や、頻尿(昼に8回以上)、夜間頻尿(夜間に1回以上)、切迫性尿失禁が起こります。原因は様々で、脳血管障害、パーキンソン病、多系統萎縮症、認知症などの脳の神経の病気や、脊髄損傷、多発性硬化症、脊髄小脳変性症、脊髄腫瘍、頸椎症、後縦靭帯骨化症、脊柱管狭窄症などの脊髄の神経の病気があります。しかし、神経の病気がなくても、前立腺肥大症に合併したり、加齢による膀胱機能の変化や、明らかな原因疾患がない(特発性)場合もあります。
診断・検査
まず、 問診や簡単な質問用紙を使って症状を把握します。 尿検査や超音波検査などの検査によって、感染症(膀胱炎など)や尿路結石、前立腺肥大症、がんなどの膀胱の特殊な病気の存在が除外されれば、過活動膀胱と診断して治療を始めます。
過活動膀胱の診断や重症度を評価するには「過活動膀胱症状質問票」を使用します。自分でもチェック出来るので、受診前に一度やってみることをお勧めします。
質問3の点数が2点以上で、全質問の総合点数が3点以上であれば過活動膀胱と診断されます。
総合点数が5点以下は軽症、611点は中等症、12点以上は重症と判定されます。
治療
治療には 1. 薬物治療と 2. 行動療法を併用して行なっていきます。
1. 薬物療法
(1)抗コリン薬
膀胱の収縮を抑えて、尿意切迫感も改善するお薬です。このお薬は、膀胱の筋肉をゆるめ、膀胱が勝手に収縮してしまうのを抑えて、尿を溜められるようにします。副作用は口が渇く(口渇)や便秘、ものがかすんで見える、めまいなどがあります。閉塞隅角緑内症の方には使用できません。
(2)β3受容体作動薬
尿を溜める際に膀胱の広がりを促進するお薬で、尿意切迫感も改善します。口渇や便秘の頻度が低いと言われています。
2. 行動療法
(1)生活指導
1日の尿量に合わせて過剰な水分摂取を控えたり、カフェインの摂取を控えるなど、日常生活を見直すことは頻尿・切迫性尿失禁の改善する上で大切です。また切迫性尿失禁を予防するには、外出時などは少し早めにトイレに行く、予めトイレの場所を確認しておく、時間に余裕を持って行動するなどの工夫をしていきましょう。また、高齢者などには脱ぎやすい服にする、トイレの場所を近くする(寝室の変更やポータブルトイレの使用)など、環境を整備することも有効です。
(2)膀胱訓練(おしっこを溜める練習)
膀胱訓練は少しずつ排尿間隔を延長することにより膀胱容量を増加させる訓練法です。前述のように尿漏れしないためには早めにトイレに行く工夫も必要ですが、おしっこが溜まっていない状態で過度にトイレを気にするようになると膀胱がおしっこを溜めれない状態になってしまうため、おしっこを膀胱に溜める練習も必要です。具体的な方法としては、まず排尿日記をつけて自分の排尿パターン(尿量・頻度・間隔など)を知り、排尿計画を立てましょう。排尿計画は短時間から始めて、徐々に15〜60分単位で排尿間隔を延長し、最終的には2〜3時間の排尿間隔が得られるように訓練をすすめます。
(3)骨盤底筋体操
骨盤の底にある筋肉を鍛える体操で、腹圧性尿失禁だけでなく、切迫性尿失禁にも効果があると言われています。骨盤底筋体操は最低でも3ヶ月は継続する必要がありますが、副作用がないため安全です。最初は正しい骨盤底筋の収縮をさせることができない患者さんが大変多いです。当ウロギネセンターでは専従の理学療法士がマンツーマンで骨盤底筋体操の指導を行い、正しい収縮を身につけて頂きます。
3. 手術療法
過活動膀胱の治療はまず生活指導(水分の取り方、便秘の改善、減量、今飲んでいるお薬の見直しなど)、行動療法(尿意切迫感を少しだけ我慢する)を行い、その後、飲み薬による治療を行います。しかしこれらの治療でよくならない場合、以下の治療法を試みます。
(1)ボツリヌス療法
膀胱の筋肉を緩める薬(A型ボツリヌストキシン)を膀胱壁に直接注射する治療です。過活動膀胱や切迫性尿失禁の患者さんで、通常の薬物療法を行なっても効果が無い、また薬剤の副作用のために治療継続出来ない場合に行われます。米国や欧州など世界で広く行われている治療で、日本では国内の治験を経て2020年4月に健康保険が適応となりました。
詳しくはボトックス療法の特設ページにてご解説いたします。
(2)仙骨神経刺激療法(SNM)
電極を埋め込み、会陰部や骨盤を支配する仙骨神経に電気刺激を行う治療です。海外ではこのような治りにくい過活動膀胱に対して以前より仙骨神経刺激療法(SNM)が行われていましたが、日本でも2017年9月から健康保険を利用して治療出来るようになりました。この治療は過活動膀胱だけでなく、便失禁、また排尿困難を伴う低活動膀胱にも有効で、全世界で約25万人の排泄障害の患者さんに治療が行われています。SNMは行動療法や薬物療法といった通常行われる治療を少なくとも12週間継続しても頻尿や、尿失禁が改善しない場合、また副作用などで治療の継続が困難である患者さんが適応となります。
詳しくはSNM手術の特設ページにてご解説いたします。