尿失禁(尿もれ)

女性の3〜4人に1人は経験するといわれている尿もれ。医学用語では尿失禁といいます。尿失禁には原因によって、いくつか種類があり、その治療法もそれぞれ異なります。

よく質問で「どんな状態になったら、治療を開始した方が良いのでしょうか?」と聞かれることが多いです。
この答えは「尿もれや、おしっこの近いのがいやだ、すっきり治したいと感じるようになったら」です。

目安は、1週間に数回も尿もれがあったり、頻回にトイレに行くようになったらです。まずは信頼できる専門医を受診されると良いでしょう。
尿もれとの別れは、一歩を踏み出す勇気です。

尿失禁の種類

尿失禁の種類には、1. 腹圧性尿失禁、2. 切迫性尿失禁、3. 溢流性尿失禁、4. 機能性尿失禁 があります。

1. 腹圧性尿失禁(SUI)

重い荷物を持ち上げた時、走ったりジャンプをした時、咳やくしゃみをした時など、お腹に力が入った時に尿が漏れてしまうのが腹圧性尿失禁です。尿が溜まっているときに起こり、「チョロッ」と、尿がもれるのが特徴です。通常は、大量にもれることはありません。女性の4割を超える2000万人以上が悩まされているといわれています。おしっこの通り道である尿道を支えている筋肉(骨盤底筋)が傷み、ゆるんでいるために起こります。尿道を支えている筋肉(骨盤底筋)がしっかりしているときには、腹圧がかかっても尿もれは起こりませんが、ゆるんでいると、尿が漏れてしますことがあります。加齢や出産を契機に出現することがあります。重い物を持つ仕事や便秘による排便時の強いいきみ、喘息や花粉症なども骨盤底筋を傷める原因になるといわれています。

腹圧性尿失禁の治療

1) 保存療法
軽症の場合は、骨盤底筋体操で尿道のまわりにある外尿道括約筋や骨盤底筋群を強くすることで、改善が期待できます。残念ながら緩んだ骨盤底筋を強くするお薬はありませんので、腹圧性尿失禁に対してお薬はあまり効きません。骨盤底筋体操は膣や肛門を締める動きで骨盤底筋を収縮させて鍛える方法です。効果が出るには最低でも3ヶ月継続することが必要ですが、副作用もなく、お金もかからないのでまずは試しにやってみましょう。また、肥満の方や最近急に太った方は、減量することも必要です。

→骨盤底筋体操の方法はこちらから

2) 手術療法
保存的療法では改善しない場合は手術の適応となります。ポリプロピレンメッシュのテープを尿道の下に通してぐらつく尿道を支える「TVT手術」または「TOT手術」は、体への負担が少なく、手術時間は15分程度で改善率も90%と有効です。お腹を切るのではなく膣のところを7mmくらい切開して行います。手術して翌日におしっこの管を抜いて、早い方では翌々日に退院できます。

incontinence02.jpg→手術の詳細はこちら

2. 切迫性尿失禁(UUI)

本来膀胱は広がることで、おしっこを溜め、縮むことでおしっこを出す役割をしており、これらは脳からの指令でコントロールされています。しかし、何らかの原因により、この働きが上手くいかなくなると、自分の意思にかかわらず膀胱が勝手に縮み、膀胱が暴走している状態となってしまいます。この状態を尿意切迫感(急に尿がしたくなる)といい、我慢できずに漏れてしまうことを切迫性尿失禁と言います。また、尿意切迫感を主症状とする症候群を過活動膀胱といい、過活動膀胱で起こる尿漏れを切迫性尿失禁といいます。トイレが近くなるために、外出中や乗り物に乗っている時など困ることが多くなります。本来は脳血管障害などによりそのコントロールがうまくいかなくなった時など原因が明らかなこともありますが、多くの場合、特に原因がないこともあります。男性では前立腺肥大症、女性では膀胱瘤や子宮脱などの骨盤臓器脱も切迫性尿失禁の原因になると言われています。

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切迫性尿失禁の治療

過剰な働きを抑える抗コリン薬というお薬を使います。お薬による治療は症状によって薬の種類や量を調整することが必要となりますので、専門の医師とよく相談することが大切です。また、飲水コントロール、骨盤底筋訓練、尿意があっても少しがまんする膀胱訓練などの行動療法を併用していきます。しかし、薬による治療では改善しない切迫性尿失禁もあり、今まではこのような尿もれを治療するのは困難でしたが、今ではいくつかの専門的な治療が可能になっています。難治性の尿失禁でお悩みの方は当センターへご相談ください。

→膀胱訓練の方法はこちらから

※腹圧性尿失禁と腹圧性尿失禁は合併することもあり、『混合性尿失禁』と呼ばれます。

3. 溢流性(いつりゅうせい)尿失禁

尿が出しにくいことが原因で、残尿が膀胱からあふれて、ダラダラと漏れてしまうのが溢流性(いつりゅうせい)尿失禁です。男性では前立腺肥大症や前立腺癌、女性では子宮脱などで尿道が開かなかったり、膀胱の収縮する力が低下することで尿が出しにくくなります。ほかに、直腸癌や子宮癌の手術後などに膀胱周囲の神経の機能が低下してしまっている場合にもみられます。残尿があると溜まった尿が細菌で汚染されすくなって尿路感染症が起こりやすくなったり、腎臓から膀胱への流れが妨げられることで腎不全となることもあるため、早めに医師に相談することが肝心です。

【治療】尿道を狭くしている原因に対しての治療が必要で、前立腺肥大であれば前立腺を小さくする薬や手術を行います。頻尿治療剤の投与をおこなえば症状は悪化することが多く、薬物での治療は困難で、多くの場合手術や間欠導尿などが必要です。

※間欠導尿:1日に3?6回程度、カテーテルを尿道から膀胱に入れて、その都度尿を取り除くこと。

4. 機能性尿失禁

排尿機能には問題はなく、身体運動機能の低下や認知症など精神機能の低下と、トイレまでの物理的な距離など環境が原因でおこる尿失禁です。たとえば、歩くことが困難でトイレに行くまでに間に合わず漏らしてしまう、認知症のためにトイレで排尿することが理解できない、といったケースです。この場合、リハビリや介護や生活環境の見直しを行うことで改善がみられることもあります。

尿失禁の診断

尿失禁を治療するためには、「どのタイプの尿もれなのか」を各種検査の結果から診断することが必要です。

診断は、まず問診を行い、どのような時に尿が漏れるのかを細かくお聞きします。1回の排尿量、1日の排尿量、漏れる量、排尿時間と間隔等を伺い、必要に応じて排尿日誌を数日つけてもらいます。いつごろから、どのような症状があったのか、妊娠・出産歴、服用薬、既往歴、職歴、生活習慣(便秘、コルセット等の使用)なども伺います。実際に診察室に入ると、緊張して症状をきちんと訴えられないという方もいますので、受診前に上記を簡単にまとめておくとスムーズです。

ほとんどの場合、検尿とパッドテスト、超音波による残尿量測定といった身体に負担のない検査で診断がつきます。必要に応じて尿道から膀胱の中に細い管を入れて膀胱の機能を調べる検査、骨盤底筋群の筋肉の動きを調べる内診などを行います。原因を特定するために脳や脊髄の画像検査を行うこともあります。

失禁の原因となる疾患を正しく診断することが大切です。漏れを感じたら、症状の軽いうちに受診することをオススメします。

1)排尿日誌
数日間の排尿状態を記録して頂きます。どのような時に尿が漏れるのか、1日の排尿回数や1回の排尿量、尿意切迫感などから、尿失禁の原因を推定して、その後どのような検査が必要かを分析する資料になります。

→排尿日誌をつけてみる。

2)内診・超音波検査
内診台にて、膣の中に入れる超音波と会陰(膣の表面)からの超音波の検査を行い、尿道の過可動や骨盤底筋の動きを確認します。

3)膀胱・尿道内圧測定
尿道から膀胱に細い管を入れて、その管から水を少しずつ入れて膀胱や尿道の圧力を測定します。尿をためる時や排尿する時の膀胱の圧力を測り、膀胱や尿道の機能に異常がないか調べます。

4)尿流量測定
機械のついたトイレに排尿して頂き、排尿の勢いと時間を測ります。

5)残尿測定(超音波検査)
排尿後に膀胱内の尿が残っていないかを超音波で調べます。

亀田メディカルセンター ウロギネ・女性排尿機能センター

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このサイトの監修者
亀田総合病院 ウロギネ・女性排尿機能センター センター長 野村 昌良
【専門分野】ウロギネ(泌尿器科と婦人科の中間にあたる分野:骨盤臓器脱、尿失禁)、排尿障害(間質性膀胱炎、過活動膀胱など)