APROCCHSS

post19.jpg【論文】
Annane D, Renault A, Brun-Buisson C, et al; CRICS-TRIGGERSEP Network. Hydrocortisone plus Fludrocortisone for Adults with Septic Shock. N Engl J Med. 2018 Mar 1;378(9):809-818. doi:10.1056/NEJMoa1705716. PubMed PMID: 29490185.

【Reviewer】Ryohey Yamamoto

【Research Question】

  • Septic shockに対してハイドロコルチゾン+フルドロコルチゾンは臨床的アウトカムを改善するか
  • Septic shockに対してDritrecogin alfa(activated)(活性化プロテインC)は臨床的アウトカムを改善するか(※このRQはDAAが2011年に市場から撤退するに至り検証されず終了した)

【わかっていること】

  • 敗血症にステロイド投与は有効か?
  • Septic shockは感染による制御されない宿主反応であり、その結果生命を脅かす、循環・細胞・代謝の以上を引き起こす1)
  • 短期の死亡割合は45〜50%と言われ2)、生存者の50%は続発する認知機能低下を伴う3)
  • 早期の循環・呼吸の蘇生と適切な抗菌薬投与以外にsepsisに対して効果を示した治療はない4)
  • ヒト活性型プロテインC、drotrecogin alphaは当初sepsisに対して生存の益を示したが、引き続く臨床研究ではその効果は示されず、商品名Xigrisは市場からその姿を消した5,6)
  • 経験的、臨床的エビデンスにより、sepsisは視床下部ー下垂体ー副腎系を狂わせ、コルチゾール産生や細胞での利用を阻害すると考えられている7)
  • ステロイドは重症感染症に対して半世紀に渡り使用されてきた。
  • しかしながら、多くの研究で利益と害のバランスが検証されたが依然としてコントラバーシャルである。
  • SR+MAでは生存の益があるとする研究8)やないとする研究9)が存在する。
  • 臨床医のプラクティスに異質性があるが、1/3の臨床家はステロイドが効くと信じ、1/3は効かないと思っている10)
  • これらは2つの大きなRCTで異なる結果が出たことが原因かもしれない11,12)
  • これらの研究では循環動態に良い影響を与えているが、一方では生存の益が報告され、一方では生存の益は示されなかった

【わかっていないこと】

  • 敗血症にステロイドは本当に効くのか

【仮説】

  1. Septic shockに対してハイドロコルチゾン+フルドロコルチゾンは臨床的アウトカムを改善する
  2. Septic shockに対してDritrecogin alfa(activated(活性化プロテインC))は臨床的アウトカムを改善する
    ※ただし2の仮説はDAAが販売中止となり途中で打ち切りになる

【PICO】
P:ICU入室7日以内で、septic shockが確実か疑わしいと診断され24時間以内の患者

Inclusion Criteria:

  • Septic shockの定義
    1. 臨床的 or 微生物学的に感染と証明
    2. 連続した6時間以上で各臓器のSOFAスコア≧3が少なくとも2臓器以上
    3. sBP>90mmHg or MAP>65mmHgを保つために昇圧剤が最低6時間以上使用(NOA、Ad or その他の昇圧剤が、≧0.25mcg/kg/min or ≧1mg/hr)
  • 組入前に本人 or 権利者から同意取得できる(Deferred consent も可)

Exclusion Criteria

  • DAAのための除外:出血の高リスク(7日以内の手術、消化管出血が6w以内、慢性肝疾患、3ヶ月以内の外傷、頭蓋内腫瘤、脳梗塞、3ヶ月以内の頭部外傷、3万以下の血小板減少、DVT予防以外で抗凝固の適応、臨床家が判断し出血のリスクが有る)
  • DAA・ステロイドに共通した除外:妊娠中、哺乳中
  • その他の除外:Palliative goal、一ヶ月以内に死亡が予期、コルチコステロイド30mgを1ヶ月以上、DAAアレルギー、社会保険がない

I:ハイドロコルチゾン50mg q6hr+フルドロコルチゾン50μg/day
 DAA 24μg/kg/hr 96時間
C:プラセボ投与
O:90日全死亡

【期間】2008/9/2〜2015/6/23(DAAが市場から撤退したため2011/10/15〜2012/3/12、副作用の懸念のため2014/7/22〜2014/10/7まで中止)

【場所】フランス34施設

【デザイン】多施設二重盲検プラセボ対照群4群並行2×2ファクトリアルRCT

  • 事前プロトコルの有あり
  • 倫理委員会の承認:あり
  • 同意:事前の書面のIC
  • 資金:公的資金が補助
  • ランダム化の方法:Webベースの中央割付、ブロックランダム化(サイズ8)、4群割付
  • 隠蔽化の有無:あり
  • マスキングの有無と対象者:患者、介入者、評価者、データ解析者がマスキング

【N】1241

【介入】
<DAA>
24μg/kg/hrをラップされたバッグから96時間静注。経皮的手技か手術がある場合2時間前から中止、出血がないことを確認し1か12時間後に再開
<コルチコステロイド>
ハイドロコルチゾン50mg q6hr+フルドロコルチゾン50μg錠剤を経鼻胃管から朝投与を7日間、減量なく中止

【対照】
プラセボ投与

  • DAA:0.9%NS
  • ハイドロコルチゾン:マニトール、リン酸2Na、リン酸Na
  • フルドロコルチゾン:マイクロクリスタリンセルロース、珪酸Mg、シリカ
  • 区別がつかない用にチェックして使用

<共通>

  • ランダム化前に血清コルチゾールを測定、コルチコトロピン試験を250μgで施行(30分、60分値)※サブグループ解析のため
  • 治療の均質化のためにプラクティスはSSCG 2008に従う
  • 血糖は4時間毎に測定し≦150mg/dlになるようにコントロール
  • 培養後に広域抗菌薬投与
  • オープンラベルのステロイド、NSAIDS、DAA、ATIII、その他の抗凝固薬は使用しない
  • 抗血小板薬は臨床医の判断に委ねる
  • 最初の24時間での難治性の低酸素を除き、筋弛緩薬は使わない

【主要評価項目】90日全死亡

【副次評価項目】

  • ICU死亡
  • 28日、180日退院割合
  • Withhold/Withdrawの方針になった患者の割合
  • 昇圧剤使用期間
  • Vasopressor free day alive at 28day, 90day
  • SOFAスコア<6(Organ failure)になる期間
  • Organ failure free day alive at 28day, 90day
  • 人工呼吸期間
  • Ventilator free day alive at 28day, 90day
  • ICU free day alive at 28day, 90day
  • Hospital free day alive 28day, 90day
  • 90日までの重複感染
  • 新規敗血症
  • 新規septic shock
  • 消化管出血
  • ICU退室時、90日、180日の神経学的異常(認知機能障害、筋減弱)

<定義>

  • ショックからの離脱:MAP≧60mmHgが昇圧剤終了後≧24時間持続
  • 重複感染症:ランダム化後48時間以上経過した後に起きたもの
  • 新規の敗血症:新しく、微生物が証明されたエピソード
  • 新規のseptic shock:最初のエピソードが治癒した後におきたseptic shock
  • すべての副作用は事前に規定して測定(Table S13, S14)

【サブグループ解析】

  1. ノンレスポンダー(コルチコトロピンテスト(250mcg)30分、60分値で9μ/dl以下)
  2. 市中肺炎
  3. ARDS

【解析】

  • サンプルサイズ計算:90日死亡を45%と見積もり10)、DAA、コルチコステロイドによりARR 10%としてα=0.05、Power 95%で2×2ファクトリアルデザインのために必要なサンプル数を一群320人、合計1280人と計算
    ・2011年にDDAが市場から姿を消したため、コルチコステロイドとプラセボの2群比較に変更。
  • 中間解析:400人時点
  • ITTの有無:あり
  • 感度解析:なし

【結果】

  • フローダイアグラムの解釈(フォローアップ、除外)
    1671人をスクリーニングし、430例が除外(25.7%)、1241例がランダム化された。除外理由が記載されていないのは51名。脱落率2.8%
  • 集団特性(内的妥当性・外的妥当性):群間はほぼ同等
    年齢は66歳程度、男性65-7%、内科系患者が81%で、緊急Opeは15%。SAPSII56、SOFA11程度、Lac4強、NOA平均値1μg/kg/min程度使用(Ad10%程度で2.0mcg/kg/min, Vasopressinは0-0.2%の使用)し市中感染症が75%程度であった。感染のfocusは肺(6割)、尿路(2割弱)腹部(1割)で人工呼吸は9割使用。初回の抗菌薬投与は適切に行われていた。なお、sepsis-3を満たすのは68%。ランダム化時点の輸液の中央値はクリスタロイド1523±1172ml、コロイド814±872mlであった。
  • アドヒアランス:96.2%
  • 主要評価項目: プラセボ群49% vs.コルチコステロイド群 43% (RR 0.88; 95% CI 0.78-0.99; P=0.03)

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  • 副次評価項目
    28日死亡割合
     39% vs. 34% (RR 0.87; 95% CI 0.75-1.01; P=0.06)
    ICU死亡割合
     41% vs. 35% (RR 0.86; 95% CI 0.75-0.99; P=0.04)
    院内死亡割
     45% vs. 39% (RR 0.86; 95% CI 0.76-0.98; P=0.02)
    180日死亡割合
     53% vs. 47% (RR 0.89; 95% CI 0.79-0.99; P=0.04)
    90日時点のWithhold/Withdrawの方針
     9% vs. 10% (RR 1.07; 95% CI 0.77-1.49; P=0.69)
    Vasopressor-free days at 28 days
     Mean 15±11 vs. 17±11 (P<0.001)
     Median(IRQ) 19(1-26) vs. 23(5-26)
    Ventilator-free days at 28 days
     Mean 10±11 vs. 11±11 (P=0.07)
     Median(IRQ) 4(0-21) vs. 10(0-22)
    Organ-failure-free days at 28 days
     Mean 12±11 vs. 14±11 (P=0.003)
     Median(IRQ) 12(0-24) vs. 19(0-25)

    Weaning from ventilator Fig2,S3,S5
    サブグループ解析:ノンレスポンダーを含め有意差なし
    Adverse Events
     ・ステロイド群で高血糖が多い (RR 1.07; 95% CI 1.03-1.12; P=0.002)
     ・他有意差なし

【Strength・Limitation】

  • Strength
    ・ミネラルコルチコイドフルドロコルチゾンを加えた
    ・重症度の高い集団を組み入れることができた
  • Limitation
    ・DAAとハイドロコルチゾンの潜在的な相互作用は不明

【論文の結論】
Septic shockに対してハイドロコルチゾン+フルドロコルチゾンは90日全死亡割合を改善する

  • 飛躍していないか
    していない

【批判的吟味】
<内的妥当性>

  • ランダム化、隠蔽化、マスキングがしっかり行われている
  • 長期ハードアウトカム
  • 意図した集団が組み入れられている
  • 治療のアドヒアランスも保たれている
  • 出血リスク患者を除外しているため副作用は小さく見積もられている可能性がある
  • 副作用の評価方法が不明
  • Fragility Index 3

<外的妥当性>

  • 多施設だがフランス単一国(過去研究をみてもフランスの敗血症死亡率は高く重症度だけの問題かというと疑問)
  • 組入終了まで7年を要しており治療の変遷がある(一方でこの7年で死亡割合に大きな変遷はないTable.S11)
  • 2008年SSCGが治療の基準になっており、2018年のICUに即していない可能性
  • 除外基準が多く、外的妥当性が低い可能性
  • NOA 0.25μg/kg/minで組入始めると中央値で1μg/kg/minとなる集団が適応可能集団であり、実臨床では希な可能性
  • 7年間34施設で1241例なので一施設あたり年間5人程度
  • ハイドロコルチゾンは間欠投与
  • フルドロコルチゾンを使用している

【Implication】
Septic shockに対するハイドロコルチゾン+フルドロコルチゾン投与は

  • 28日死亡は改善しないが90日全死亡、ICU、院内、180日死亡を改善
  • 特に90日死亡に関してはARR6%、RRR%、NNT17
  • ショック離脱を2日早める
  • 人工呼吸期間を短縮
  • SOFA<6になるまでの期間が短い
  • Vasopressor free day alive, Organ failure free day aliveが延長
  • 副作用は高血糖のみ増加

とAnnaneらもにやける、思惑通りの結果。一方で そもそもAnnaneらはノンレスポンダーで有意差がつくはずと2002年の研究を報告しているが、今回はノンレスポンダーでは全くと言っていいほど差はなかった。この点でコルチコトロピンテストのことはあらためて忘れてしまってよいだろう。

Discussionがイケてないなどの論文の体裁はNEJM?といった感じでADRENALと比べると見劣りするが RCTとして良くデザインされた研究である。Primary Endpointである90日死亡のFragility Index 3で、有意差はあるものの信頼区間の幅もギリギリ0を超えたといった所である。この結果を鑑みるとHDCを使用する集団がずれることでその効果は容易に失われるかもしれない(ADRENALと同様死亡に差はなくなる)。
HDCがARR6%、RRR12.5%の治療効果があることが真だとして、どういった集団に適応すべきかが問題である。重症度が高い集団にHDCの恩恵があると考えられるが、「時間」と「カテコラミンの容量」が鍵となるのではと考えている。これに関しては改めて記事をまとめたいと思う。

【本文サイト】http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1705716

【もっとひといき】

【引用】

  1. Singer M, Deutschman CS, Seymour CW, et al. The Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 2016;315:801-810.
    Medline
  2. Shankar-Hari M, Phillips GS, Levy ML, et al. Developing a new definition and assessing new clinical criteria for septic shock: for the Third International Consensus Definitions for Sepsis and Septic Shock (Sepsis-3). JAMA 2016;315:775-787.
    Medline
  3. Annane D, Sharshar T. Cognitive decline after sepsis. Lancet Respir Med 2015;3:61-69.
    Medline
  4. Rhodes A, Evans LE, Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: international guidelines for management of sepsis and septic shock: 2016. Intensive Care Med 2017;43:304-377.
    Medline
  5. Lilly announces withdrawal of Xigris following recent clinical trial results. Indianapolis: Eli Lilly, October 25, 2011 (https://investor.lilly.com/releasedetail2.cfm?ReleaseID=617602).
  6. Sherkow JS. Patent law's reproducibility paradox. Duke Law J 2017;66:845-911.
    Medline
  7. Annane D. The role of ACTH and corticosteroids for sepsis and septic shock: an update. Front Endocrinol (Lausanne) 2016;7:70-70.
    Medline
  8. Annane D, Bellissant E, Bollaert PE, Briegel J, Keh D, Kupfer Y. Corticosteroids for treating sepsis. Cochrane Database Syst Rev 2015;12:CD002243-CD002243.
    Medline
  9. Volbeda M, Wetterslev J, Gluud C, Zijlstra JG, van der Horst IC, Keus F. Glucocorticosteroids for sepsis: systematic review with meta-analysis and trial sequential analysis. Intensive Care Med 2015;41:1220-1234.
    Medline
  10. Bruno JJ, Dee BM, Anderegg BA, Hernandez M, Pravinkumar SE. US practitioner opinions and prescribing practices regarding corticosteroid therapy for severe sepsis and septic shock. J Crit Care 2012;27:351-361.
    Medline
  11. Annane D, Sébille V, Charpentier C, et al. Effect of treatment with low doses of hydrocortisone and fludrocortisone on mortality in patients with septic shock. JAMA 2002;288:862-871.
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  12. Sprung CL, Annane D, Keh D, et al. Hydrocortisone therapy for patients with septic shock. N Engl J Med 2008;358:111-124.
    Medline

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このサイトの監修者

亀田総合病院
集中治療科部長 林 淑朗

【専門分野】
集中治療医学、麻酔科学