【開催報告】藤本大智先生をお招きし、「Lung Cancer Symposium in Boso」を開催しました
2025年8月27日(水)、兵庫医科大学病院呼吸器内科 講師の藤本大智先生をお招きし、「Lung Cancer Symposium in Boso」をハイブリッド形式にて開催いたしました。
当日は当科専攻医の川上先生より当院における高齢者肺がん診療の紹介の後、藤本先生より「高齢者肺癌診療+肺障害臨床研究」と題したご講演をいただきました。
Session 1:当院の高齢者肺癌診療について(川上先生)
川上先生からは、2023~2024年に当院で新規診断された肺がん患者さんが約200名で、そのうち75歳以上が半数を占め、全国の傾向と同等であることが示されました。
当科における肺がん診療の特徴として、
- TKIやICI単剤は外来で導入
- 化学療法を含む治療は全例入院で導入
- 医師・看護師・薬剤師・緩和ケアチーム・リハビリ・がん相談支援センター・管理栄養士を含む多職種連携
が紹介されました。
まとめとして、
- 75歳以上の症例は増加傾向にあること
- 年齢のみで治療を制限せず、ICIを含む薬物療法も選択肢にしていること
- PS、併存症、通院手段、家族支援などを総合的に評価して治療方針を決定していること
- 入院導入、治療日誌、多職種連携で安全な薬物療法継続を支援していること
が強調されました。特に「遠方からの通院が前提となるため、副作用マネジメントが重要である」との指摘が印象的でした。
Session 2:高齢者肺癌診療+肺障害臨床研究(藤本大智先生)
藤本先生からは、高齢者肺がん診療における考え方と臨床研究の知見が紹介されました。
まず「高齢者と若年者で治療を区別すべきか」という問いを立てられ、JCOG高齢者研究ポリシーを引用し、明らかにfit、明らかにfrailではなく、その中間にある“曖昧な層”こそ臨床的に最も判断が難しいと指摘されました。
加えて、臨床試験のサブグループ解析に過度に依存することの危うさについても言及されました。BMJの報告を紹介しつつ、
- 全体で有効性が証明されていない治療を「一部で良好だから」と解釈することは科学的に不適切である
- サブグループ解析は偶然の可能性が高く、誤解を招きやすい
といった点が示され、「全体に効かない治療は効かない治療であり、一部が良さそうに見えても、それで治療を変えることは害を正当化するリスクになる」というのが藤本先生のメッセージでした。
その上で主要な臨床試験を高齢者データに基づいて解説されました。
- KN407(Sq, Pembro):全体では有効性を示したが、高齢者ではOS HR 0.99(95%CI 0.40–2.47)と明確な効果は示されず。
- KN189(Non-Sq, Pembro):75–84歳のサブセットでOS HR 2.09(95%CI 0.84–5.23)とむしろ不利な傾向。
- IMpower130(Non-Sq, Atezo):75–84歳でもOS HR 0.54(95%CI 0.27–1.05)と良好な傾向。
- CA031(Non-Sq, Cb+nabPTX vs Cb+PTX):nabPTX併用群が有効性・忍容性ともに優れていた。
扁平上皮癌(Sq)については明確なエビデンスが限られており、PD-L1発現に基づいた治療選択の重要性が指摘されました。一方、非扁平上皮癌(Non-Sq)については上記の試験結果も踏まえ、PD-L1発現別に整理した治療方針が提示されました。
これらのデータから、高齢者を若年者と同じではなく「別に考える」視点も必要であり、その観点ではNon-Sqに対するCb+nabPTX+Atezoが高齢者において有望な選択肢の一つとなり得るとまとめられました。
薬剤性肺障害に関する臨床研究
続いて、薬剤性肺障害に関する研究成果が紹介されました。
まず、irAEによる肺障害は肺がんで最も多くみられ、他の癌種に比べ圧倒的に多いことが示されました。
藤本先生ご自身の報告(Sci Rep 2023)では、発症時Grade 1–2の症例は比較的予後が良好である一方、Grade 3–4で発症した症例では約半数が死亡に至り、重症度が明確に予後に影響することが示されました。
さらに、ASCO(2021)、ESMO(2022)のirAEガイドラインについても紹介されましたが、これらは症例集積に基づいて作成されており、介入研究が存在しないという限界が指摘されました。
その文脈で、藤本先生がASCO 2025で発表されたPROTECT試験(ICI関連軽症肺障害に対するステロイド投与期間を検討した初のランダム化比較試験)が紹介されました。
この試験は「3週間の短縮でも安全に治療できるのではないか」という仮説で実施されましたが、結果は逆で、3週群は治療成功率が低く(66.0% vs 84.3%)、再燃率も高い(41.1% vs 24.1%)というものでした。従来ガイドラインで推奨されてきた6週間投与の妥当性が改めて裏付けられたことが示されました。
印象に残ったポイント
- 高齢者では「年齢」ではなく「frailty・vulnerability評価」に基づいた治療選択が重要
- サブグループ解析の結果を鵜呑みにせず、全体データを踏まえた解釈が必須
- 高齢者を別に考える視点からは、Non-Sqに対するCb+nabPTX+Atezoが有望な選択肢の一つとなり得る
- irAEによる肺障害は肺がんで最も多く、重症度により予後が大きく異なる
- PROTECT試験により、軽症肺障害に対しては6週間のステロイド投与の妥当性が裏付けられた
藤本先生には昨年に引き続き、鴨川までお越しいただきました。ご多忙のなか、鴨川までお越しくださり、改めて深く御礼申し上げます。ぜひまた来年もご講演を賜りたいと思います。
また、会場およびオンラインでご参加いただいた先生方にも、心より感謝申し上げます。
本講演会が、皆さまの日々の診療に少しでもお役立ていただければ幸いです。
※会場で撮影した写真です
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患