舟木先生がILAと関連領域について発表
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目領域について抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、軽微な間質性陰影(ILA)に関連する臨床研究を進める当科部長代理・舟木佳弘先生が、ILAと関連領域の最新アップデートを概説しました。
今回のポイントとして、ILA研究を進めるうえで鍵となる「何を異常として数えるか/数えないか」の線引きを、最新のステートメント・用語集・分類基準・ガイドラインに基づいて整理しました。
取り上げた文献とハイライト
1) ILAの最新ステートメント(Podolanczuk, Am J Respir Crit Care Med. 2025)
- ILAの定義:胸部CTで認める非依存性(=重力効果ではない)・両側性の肺実質異常で、肺区域(上・中・下×左右=計6区域)の5%以上に及ぶすりガラス影、網状影、肺構造の改変、牽引性気管支(細気管支)拡張、蜂巣肺を含む。
※従来(2020年のポジションペーパー)の定義にあった「偶発的な発見であること、高リスク群(例:膠原病患者)を除外する」は撤廃された。 - ILAに“数えない”ものの明示:非気腫性嚢胞、小葉中心性結節、PPFEの所見はILAの「5%」に含めない。放射線後変化など、ILAでもILDでもない状況がありうる点も整理。
- 「ILAではなくILD」になる基準(いずれか1つを満たせばILD):
症状(呼吸困難/咳嗽を臨床的にILDと判断)、生理(FVC/TLC/DLCOの下限未満やPPFの基準を満たす)、画像(線維化が全肺容積の5%超、経時的進行、UIP/probable UIP、線維性HP、線維性NSIPの主要パターン)、病理(同主要パターン)。 - 推奨:肺がん検診CTでのILA/ILD評価、膠原病成人・家族性肺線維症の第一度近親者のスクリーニング、ILAを有する患者の症状・肺機能の評価、2–3年毎のCTフォロー。
2) 胸部画像の用語集(Bankier, Radiology 2024)
- Fibrosis(線維化):肺の修復機転の総称であり、肺実質が結合組織に恒久的に置換され、リモデリング・構築改変・容積減少を来す状態。牽引性(細)気管支拡張や、場合によっては蜂巣肺を含む。
- Honeycombing(蜂巣肺):典型的に胸膜直下に集簇する境界明瞭な嚢胞性構造。従来は複数層が要件だったが、現在は他の線維化所見が併存すれば単層でも可。
- Architectural distortion(構造改変):正常な肺の解剖学的構造が局所的あるいはびまん性に破綻し、気道・血管・間質の異常な偏位や断裂を示す所見。通常は肺容積減少を伴い、線維化性肺疾患でしばしば認められる。
- Bronchiectasis(気管支拡張):不可逆的な気管支拡張。慢性炎症、先天性要因、より中枢の気道の慢性感染や閉塞に続発しうる。慢性化していない場合は、bronchial dilatationと記述。牽引性(traction)と名付けるのは線維化の文脈に限る。
- Reticular pattern(網状影):交差する線状陰影の集合で、網目状に見える所見。
- Ground-Glass(すりガラス影):背景にある気管支や血管構造を完全には隠さない程度の吸収(濃度)上昇領域。非特異的な、CTの分解能以下で肺胞気を完全には置換しない異常過程(例:液体/細胞成分による肺胞の部分充填・血流増加・線維化の初期、腺癌のlepidic pattern、これらの組み合わせ)。本来CTでのみ用いる用語。正しい認識には深吸気・薄切スライス(≤1.5mm)が必要。
- Consolidation(実質性陰影):肺胞内の空気が排出され、液体や他の物質に置き換わることで生じる肺実質の吸収(濃度)上昇。形態学的な記述語であり、原因となる病態の性質を示すものではない。
3) 間質性肺炎の新分類(Ryerson, Eur Respir J. 2025)
- 対象は特発性に限定せず、好酸球性肺炎・肺胞蛋白症なども包含。
- 主座が間質か肺胞かでinterstitial disordersとalveolar filling disordersに大別。
- 画像・病理パターンごとに一次性(特発性)/二次性を整理。新たにAMP(Alveolar Macrophage Pneumonia)とBIP(Bronchiolocentric Interstitial Pneumonia)を提唱。
- 画像・病理パターンとしてのHPパターン表記は削除され、BIPに含まれるようになり、AIPの病名は削除され、secondary/idiopathic DADへ、DIPの病名はAMP(Alveolar Macrophage Pneumonia)に。
- 「分類不能」はUnclassifiable patternとCombined pattern(例:NSIP+OP, UIP+PPFE)に分割。
- 今後の国際的議論が続く見込みで、まだ解釈に注意を要する。
4) 肺癌における放射線誘発肺障害の診断と治療(Ruysscher, Radiother Oncol. 2025)
- “Radiological changes(照射後画像変化)”と“Radiation pneumonitis(放射線肺炎)”と“Radiation recall pneumonitis(照射想起肺臓炎)”を定義
- 照射後画像変化は、胸部放射線治療後、多くの症例で経時的に出現する「所見」。無症状ならCTCAE上 Grade 1 pneumonitis に相当し得るが、症状と相関しないことも多い。1–6か月では GGO/consolidation、6–12か月では 容積減少・牽引性気管支拡張など線維化像が前面に。
- Radiation pneumonitisは時期・症状・既往・画像を総合し、感染/心不全・COPD増悪/肺塞栓/薬剤性肺障害/腫瘍進行などを厳密に除外して成立する「病名」。症状は完了後1–6か月に出ることが多い。照射野に厳密に限局していればRPを強く示唆。ただし野外/対側に及ぶこともあり、併用療法下では解釈が難しい。画像異常を完全に囲む“最小等線量線”は概ね ≥27 Gyという報告がある。PET/CTは腫瘍進行の鑑別に有用。
- Radiation recall pneumonitisは既照射野に遅発する放射線誘発肺障害で、放射線後に投与された全身薬剤が契機。照射終了からRRP発症までの期間は幅広く、照射と薬剤の間隔が短いほど重症化しやすい。化学療法・免疫療法・標的薬・ワクチンなどで報告があり、明確な線量閾値や患者/疾患リスク因子は未同定。
- 治療フロー(免疫療法なし):Grade 1は高用量吸入ステロイドを考慮、Grade 2は経口PSL 0.5 mg/kg/日(≥40 mg)×2週→次の4–6週で漸減+ニューモシスチス肺炎予防、急速悪化/PS不良やGrade 3は入院+PSL 1–2 mg/kg/日IVから開始。
5) Post-COVID-19の残存異常の扱い(Yoon, Radiology 2025)
- COVID後の残存異常はILAへカウントしない点を確認。
- 罹患後2か月を過ぎても呼吸器症状が続く場合はCTを推奨。COVID-19罹患後に残存する陰影を覚知することで、既存の軽微な変化の悪化やILDと判断することを避ける。
フロアからは「新分類をMDDでどう使うか」「分類が新しくなった理由は診断の正確性なのか治療薬なのか」「病変範囲の定量化にAIが活用できるか」「COVID後の残存影の鑑別疾患として何が挙がるか」など、活発な議論が交わされました。
舟木先生は、 2025年4月に当科に着任されました。これまでの経験を活かし、びまん性肺疾患を中心に、診療・臨床研究・若手育成に取り組んでいます。
参考文献
- Podolanczuk AJ, et al. Am J Respir Crit Care Med. 2025;211(7):1132–1155.
- Bankier AA, et al. Radiology. 2024;310(2):e232558.
- Ryerson CJ, et al. Eur Respir J. 2025; Aug 7:2500158.
- Ruysscher DD, et al. Radiother Oncol. 2025;207:110837.
- Yoon SH, et al. Radiology. 2025;316(1):e243374.
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患