伊藤光先生が「6 Competencies(医師に必要な6つの能力)」について勉強会で発表!
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで注目している領域について、抄読会形式のレクチャーを行っています。
今回は、東京ベイ・浦安市川医療センターで研鑽を積み、医学教育に深い知識を持つ伊藤光先生に、「6 Competencies(医師に必要な6つの能力)」について発表いただきました。
6 Competenciesとは?
6 Competenciesとは、米国卒後医学教育認定評議会(Accreditation Council for Graduate Medical Education:ACGME)が1999年に提唱した、医師が身につけるべき6つの能力のことです。
- Medical knowledge(医学的知識)
- Patient care(患者ケア)
- Interpersonal and communication skills(対人・コミュニケーション能力)
- Professionalism(プロフェッショナリズム)
- Practice-based learning and improvement(診療経験から学び,生涯向上していく能力)
- System-based practice(多様な環境・システムに順応して診療する能力)
これらは、ベッドサイドや振り返りミーティングなどで指導医と研修医が一対一で話し合い、フィードバックを重ねることで伸ばしていくことが求められます。
Medical Knowledge ―「仮説・検証・行動」のサイクル
まず取り上げられたのはMedical knowledgeです。
根拠のない経過観察や検討の放置を避け、
- 「仮説 → 検証・行動 → 再び仮説」
という思考のサイクルを意識すること。
また、急変は「予期された変化」か「予期しない変化」かを区別し、予測可能な変化には事前の対応策を考えておくことの大切さが強調されました。
Patient Care ― SDM・ACP・医療倫理
次に重点が置かれたのはPatient careです。
ここには以下が含まれます:
- SDM(Shared decision making:共同意思決定)(Lu & Nakagawa 2020, Kudelka 2000, Fryer-Edwards 2005)
- ACP(Advance care planning:事前ケア計画)(Heyland 2017, Korfage 2017)
- 医療倫理の4原則(自己決定権の尊重、善行、無危害、正義)
- Medical futility(医学的無益性)(Schneiderman 1990)
近年、IC(Informed consent)からSDMへと移行してきており、高齢化社会では意思決定能力(CURVES)の評価も重要とされます(Chow 2010)。
またACPの場面では、
- 「どのような生活に戻りたいか」という治療のゴール
- 「死ぬよりもつらいと感じる状態」や「救命よりも緩和を望む状況」などの許容できない状態
を共有することの大切さが示されました。
さらに、医学的無益性には
- 生理学的無益
- 質的無益
- 量的無益
の3つがあることも学びました。
その他のCompetencies
今回の発表では、上記2つに加えて以下の4つについても概要が紹介されました。
- Interpersonal and communication skills(対人・コミュニケーション能力)
- Professionalism(プロフェッショナリズム)(Wilkinson 2009)v
- Practice-based learning and improvement(診療経験から学び,生涯向上していく能力)
- System-based practice(多様な環境・システムに順応して診療する能力)
今回は特にMedical knowledgeとPatient careに重点が置かれましたが、6つの能力をバランスよく伸ばしていくことの重要性が強調されました。
Take Home Message
伊藤先生からのまとめとして:
- 医師として働ける喜びを感じながら、常に6つの能力の向上を目指すこと
- 得意な人から学び、不得意を伸ばすこと
- 自分の強みを見つけ、楽しみながら伸ばしていくこと
が挙げられました。
伊藤光先生は2025年4月より当科に着任されました。これまで培われた豊富な経験を活かし、特に集中治療領域でリーダーシップを発揮されています。さらに、急性期から慢性期、そして終末期に至るまで、幅広い呼吸器診療を一貫して担える体制を目指し、日々研鑽を積まれており、今後の活躍がますます期待される先生です。
参考文献
- Lu E, Nakagawa S. A “Three-Stage Protocol” for Serious Illness Conversations. Mayo Clin Proc. 2020.
- Kudelka AP. SPIKES: A Six-Step Protocol for Delivering Bad News. Oncologist. 2000.
- Fryer-Edwards K. Approaching Difficult Communication Tasks in Oncology. CA Cancer J Clin. 2005.
- Heyland DK. Defining Advance Care Planning for Adults: A Consensus Definition. J Pain Symptom Manage. 2017.
- Korfage IJ, et al. Definition and recommendations for advance care planning: an international consensus supported by the European Association for Palliative Care. Lancet Oncol. 2017.
- Chow GV, et al. CURVES: A Mnemonic for Determining Medical Decision-Making Capacity. Chest. 2010.
- Schneiderman LJ, et al. Medical Futility: Its Meaning and Ethical Implications. Ann Intern Med. 1990.
- Wilkinson TJ, et al. A Blueprint to Assess Professionalism: Results of a Systematic Review. Acad Med. 2009.
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患