伊藤先生が閉塞性細気管支炎に関して勉強会で発表されました
当科では毎週木曜日の朝、各医師が持ち回りで今注目している領域について、抄読会形式でレクチャーを行っています。
今回は、当科部長の伊藤先生に閉塞性細気管支炎(Bronchiolitis Obliterans;BO)に関するショートレクチャーをしていただきました。
伊藤先生は、以下の2つの代表的なレビュー論文を取り上げ、肺移植後および造血幹細胞移植後に発症する「閉塞性細気管支炎症候群(Bronchiolitis Obliterans Syndrome;BOS)」について、病態の理解から最新の治療選択肢まで、実臨床に即した視点で概説されました。
- Obliterative Bronchiolitis(N Engl J Med. 2014 May 8;370(19):1820-8.)
- Bronchiolitis obliterans syndrome after lung or haematopoietic stem cell transplantation(ERJ Open Res. 2022 Jul 25;8(3):00185-2022.)
<BOとBOSについて>
閉塞性細気管支炎(BO)は、気管支の上皮に炎症や線維化が起こり、気管支が狭小化する疾患です。1985年にEplerらが提唱したBOOP(Bronchiolitis obliterans with organizing pneumonia)は主に肺胞管および間質における炎症性病態と、気道内腔でポリープ状に増殖した線維芽細胞を特徴としており、臨床的にも病理学的にもBOとは異なるため、のちに特発性器質化肺炎(COP)に診断名が変わっています。肺移植後および造血幹細胞移植後に発症するBOは、Bronchiolitis obliterans syndrome(BOS)と呼ばれ、移植関連合併症として知られています。
特に肺移植後のBOSは、慢性拒絶反応(host-versus-graft)の表現型であり、診断には以下のような条件が用いられます(ERJ Open Res 2022より):
<原因と画像所見の特徴>
BOSの原因は多岐にわたり、有毒ガス吸入(マスタードガス、塩素ガス、ジアセチル)や自己免疫疾患(特に関節リウマチ)、感染後(アデノウイルス、麻疹、マイコプラズマ)などが知られています。
特に肺移植後のBOSは5年で50%、10年で70%が発症するとされ、発症後の予後は不良で、2年生存率は約45%、5年で13%と報告されています。
CT画像上は、すりガラス影に乏しいことが特徴で、呼気CTにおけるエアトラッピングが診断の鍵となること、肺機能検査で異常が出る前に検出される場合もあることから、呼気CT撮影の重要性について強調されました。
組織診断については、TBLBの診断率の低さやVATS生検の侵襲性を踏まえ、TBLC(クライオ生検)の有用性を紹介されました(Sadowska-Klasa A, Respiration. 2025;104(4):264–271)。
<BOSの治療戦略:病態に応じたアプローチ>
BOSの治療は、その病態形成における免疫学的背景を理解したうえで行う必要があります。
■肺移植後のBOS
- 慢性炎症や拒絶反応(host-versus-graft)が主体
- 治療選択肢として、
- 免疫抑制薬の調整(タクロリムスなど)
- アジスロマイシン、モンテルカストなどによる気道炎症の制御
- 効果不十分な場合は再移植も検討
■造血幹細胞移植後のBOS(GVHD-BOS)
- 全身性GVHDの一環(graft-versus-host)として生じる
- 治療は主に
- 全身性ステロイド
- FAM療法(フルチカゾン+アジスロマイシン+モンテルカスト)
- JAK阻害薬(ルキソリチニブなど)
いずれの病態においても、慢性炎症が持続することによる線維化が病態進展に大きく関与しており、現在は抗線維化薬(ピルフェニドンなど)の有効性を検討する臨床試験が進行中であることも紹介されました。
伊藤先生は当科の間質性肺炎診療の中心的存在であり、間質性肺炎専門外来の運営を担うとともに、病院内外の交流において重要な役割を果たしています。
このサイトの監修者
亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓
【専門分野】
呼吸器疾患