肺炎における呼吸器ウイルスの関与

日常臨床で肺炎を診療する際、呼吸器ウイルスの中で意識するのはインフルエンザウイルスがまず思い浮かびます。
しかし、近年、RT-PCR法を用いて網羅的な呼吸器ウイルスの検出が可能となり、肺炎についての報告も増えて来ております。

今回、肺炎における呼吸器ウイルスの関与についてまとめました。
呼吸器ウイルスは主に、インフルエンザウイルス、RSウイルス、パラインフルエンザウイルス、アデノウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス、ヒトメタニューモウイルスについて検討されています。

1 肺炎におけるウイルスの検出頻度

・市中肺炎で主に鼻咽頭液を用いた検討では、19-31%[1],[2],[3]、ICUへ入室した重症市中肺炎で鼻咽頭液と下気道検体を用いた検討で、49%の症例で検出されたと報告されています[4]。また、院内肺炎でも鼻咽頭液と下気道検体を用いた検討で、22%の症例でウイルスが検出され、季節性はその地域のものに一致していました[5]。

ウイルスは、肺炎症例において少なくない頻度で検出されると言えます。

2 下気道への影響

・鼻咽頭液より下気道検体でウイルス検出例が1.8倍多く、一般的に上気道炎の原因と考えられるライノウイルスでも下気道検体からの検出が多かったと報告されています[4]。

・また、インフルエンザウイルスの存在下で肺炎球菌の気道への定着、侵入が起こりやすくなり[6]。ライノウイルスの存在下で気管支上皮細胞への肺炎球菌の定着が増えます[7]。

・以上のようにウイルスは下気道にも影響を与え、細菌感染を起こしやすくしますが、下気道検体は採取が困難な場合も多く、また、個々の症例ではウイルスがどの程度病態に関与しているのか、分からないことが多いのも事実です。

3 細菌との混合感染で重症度や死亡率が高くなるか

・重症市中肺炎では、細菌との混合感染で細菌単独よりも、重症度が高かったが、死亡率には差がなかったという報告があります[4]。

・院内肺炎のICU入室例では、ウイルスのみ、細菌のみ、ウイルスと細菌が検出された群で、重症度および死亡率に差がありませんでした[5]。

・一方で、細菌単独よりもインフルエンザウイルスとの混合感染で重症度が上昇し(死亡率の記載なし)[8]、ライノウイルスと肺炎球菌の混合感染で重症度が上昇したという報告があります(死亡率の記載なし)[2]。

ウイルスや混合感染する細菌の種類によっては重症度が高くなる可能性はありますが、現時点では混合感染によって重症度や死亡率が高くなるかは議論が分かれています。

4 ウイルススクリーニングの意義

・老人福祉施設でウイルスのRS集団発生がおき、そのうち肺炎での死亡事例もありました[9]。他にも老人保健施設などでウイルスの集団感染の事例の報告が複数あります。

・成人に対しインフルエンザウイルス以外の治療薬が存在しない現在は、治療のためのスクリーニングは必要ありません。施設内感染予防の観点からはスクリーニングよりも、標準予防策の徹底の方が重要と思われます。

肺炎における呼吸器ウイルスの関与

参考文献) 
1. CHEST 2008; 134:1141-1148.
2. Thorax 2008;63:42-48.
3. CHEST 2010;138:811-816.
4. ClinInfect Dis 2014;59:62-70.
5. PLoS ONE 2014; 21;9:e95865.
6. ClinMicrobiol Rev 2006;19:571-582.
7. J Infect Dis 2003;188:1928-1930.
8. Intern Med 2007; 46:953-958.
9. IASR Vol. 34 p. 208-209.

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患