引導を渡す
専攻医1年目の高畠先生のポートフォリオでした。
ADL自立し、夫と2人暮らしをしている92歳の女性。来院3か月前から下腿浮腫や体重減少が出現しました。かかりつけでCT検査を行い、膵臓癌が疑われましたが、本人・家族ともに精査希望はなく、確定診断の検査はしない方針となっていました。徐々にADLが低下し、左上肢の動かしにくさや歩行困難が出現したため、救急外来を受診しました。脳梗塞の診断で入院となり、高畠先生が入院担当医として関わることになりました。患者さんの家族と関わる上でこれまでの経緯を外来のカルテで確認すると、病状について「患者には未告知、長男には告知済み」と記載がありました。後日高畠先生から家族について確認すると、長男さんから「膵臓癌疑いについては本人ががっかりしてしまうので病名告知はしないでほしい」との訴えがありました。患者さん自身の意向について高畠先生が直接聞いてみましたが、患者さんは「家でお父さんと過ごしたい」と訴えるだけで告知についての希望はありませんでした。ここで高畠先生に本当に告知しなくて良いのか、本人の意思決定が置き去りになってしまうのではないかという葛藤が生じました。転帰先にも関わるため面談の場を設けましたが、やはり本人の希望はなく、家族の意向に沿いたいと考えていたため、家族と相談した上で未告知のまま療養型病院に行く方針になりました。しかし、状態が急変し、入院17日目で亡くなりました。
Discussion pointでは、本症例では家族が本人を納得させられていましたが、それができないときにどんな対応が望ましいかという質問が挙がりました。それに対しては患者とよく話す、またライフレビューを行って患者の意思を推定すること、家族を当事者の位置において考えてもらうなどが出ました。さらに家族の中で重要な決断を誰がどう決めてきたかなど、家族システムのアセスメントの必要性についての意見も出て、考察がさらに深まりました。
高畠先生が葛藤しつつも患者さんとその家族に真摯に向き合った症例だったと思います。お疲れ様でした。
このサイトの監修者
亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男
【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学