「答えのない教科書」

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緩和ケア

キーワード

死生観、PCCM、緩和ケア

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本日のポートフォリオ発表会は後期研修医2年目の田坂先生でした。発表は「あなたの中で患者さんにとっていい死とは何ですか?」という質問から始まります。田坂先生は、今まで担当医としてその人の人生を想像し、「なんとなく」支援し、なんとなく「いい死」であったと考えてきたそうです。そこでふと、「なんとなくいい死でいいのか?」という疑問が浮かびました。そこから「いい死」とは何か?という疑問が浮かび、その疑問について考えを巡らせていきました。

患者にとっての「いい死」はその特性上評価することは不可能です。Good Death研究では患者の周りの人にとっての「いい死」を研究されています。そこから、患者本人にとっての「いい死」とは何かを推測することは可能です。患者にとっての「いい死」は誰にもわからない中で、患者やその家族と共通の理解基盤を作りながら可能な限り推測していくことが重要であると田坂先生は話します。

次に、患者にとっての「いい死」を家庭医として如何に支援していけばよいのか、という話題に移ります。それには家庭医の基礎でもある患者中心の医療の方法(PCCM)、全人的苦痛などの枠組みに当てはめることである程度可能だろうと田坂先生は考察されます。その中で田坂先生が自身に足りなかったと考察されるのは、Good Deathの10の概念の全ては意識できていなかったことであり、人生の最期を迎える患者を診療する上で10の概念を常に念頭に置き診療することが重要だと考えました。またPCCMの観点では、自分が逆転移をしてしまい、数少ない経験を患者に押し付けてしまうのではないか、という懸念があったそうです。改めて考察し直してみて、患者のすべてをわかった気にならない、自分自身の発言を日々振り返る、死生観を学び学術的な理解を試みることを提案されています。

最後に死生観について当院チャプレンとdiscussionした事をお話いただきました。そこで、でてきたキーワード「DoingかBeing」により、今まで話のもやもやが、腑に落ちました。

ディスカッションでは答えのない問いに各々が考えを巡らせ、亀田家庭医皆で大きく盛り上がり終了しました。

今回は症例にはあえて触れず、答えのない問いかけに対し、深海のような深いところまで考えを巡ら続けることでこそ得られた考察に感動すると共に、田坂先生のNegative Capabilityの高さに感銘を受けました。非常に家庭医らしい新しいポートフォリオ発表会の形でした。ありがとうございました。

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学