背水

専攻医3年目の近藤先生によるポートフォリオ発表会があり、テーマは「背水」でした。

中年女性で、子宮頸癌末期・腸閉塞の患者様です。
初回の訪問診療では、まず疼痛時に使用する薬の順番について、本人やご家族の解釈を尊重し、相談しました。
その後ご家族から、「身体的ケアは前の病院ではきちんとやってくれたが、精神的ケアは十分でなかった。入院して心も落ち込んでいるのだから、面白い話をして欲しい」という発言がありました。
グループで訪問診療をやっており、自分がこの時に面白い話をするかを悩みましたが、グループ診療では常に行えるわけではないことを伝えた上で、近藤先生は面白い話をしました。
考察では超義務という概念が挙がりました。職業的義務をきちんと行っていることを前提に、本症例ではそれを行うと全人的なケアに良いと考え、医師としての前に人間として患者と関わったとのことです。

Discussionでは、患者や家族の要求にはどこまで答えるべきかを話し合いました。対処方法として逃げるのも一つ選択肢だったのかもしれず、
実際入院している患者さんに対しては毎日はできないという意見もありました。また、面白い話を手技だと思い、できる医師とできない医師がいて、できる医師が行えば良いと割り切ることも挙げられました。最後に、お笑いというのは精神的なケアをするということの一つの手段であったため、全人的に見て精神的なケアもしているということが伝われば面白い話にこだわる必要はないかもしれないという意見もありました。

岡田先生からは、権力勾配の逆転が家族にはあったのかもしれず、患者さんから何かをやってもらうという体験も必要だったのかもしれないという意見がありました。今の状況に閉塞感があったために、無意識的にハードルの高いものを要求してきたのかもしれません。答えないということは、向こうの権力勾配を拒否することにはなる可能性があります。また、グループ診療の時に相反するものとして、質の均一化と患者毎の個別化があるとのことです。質の均一化は、できる部分を抑えることになってしまうことがあり、一番能力の低い人の能力に合わせて悪平等になってしまうことがあり得ます。常に行えるわけではないことを伝えた上で、自分の能力を出すなど、グループ診療ならではのやり方があるとのことです。

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このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学