GPによる終末期医療の提供。自宅死亡との関連因子の検討:登録情報をもとにした縦断研究(2020年第8回RJC#2)

ジャーナルクラブ 第8回
2020/8/19
高橋亮太

1 タイトル

「GPによる終末期医療の提供。自宅死亡との関連因子の検討:登録情報をもとにした縦断研究」
General practitioners' provision of end-of-life care and associations with dying at home: a registry-based longitudinal study
Camilla Kjellstadli, Heather Allore, Bettina S Husebo, Elisabeth Flo, Hogne Sandvik, Steinar Hunskaar
Family Practice, Volume 37, Issue 3, June 2020, Pages 340-347, https://doi.org/10.1093/fampra/cmz059
カテゴリー research journal club
キーワード Death/epidemiology, general practice, home visit, palliative care, registries, terminal care

2 背景・目的・仮説

●背景
GPは地域住民に対する終末期医療において重要や役割を担っている ref 1-4
大多数が残された日々を自宅で過ごしたいと考えているが、専門的な緩和ケアは亡くなる人々の多くは得られることはない ref 4-6
終末期医療の適切もしくは不適切を示す質指標(QI)はGP診察、救急入院、病院への入院、緩和ケアの遅い導入、自宅死亡もしくは病院死亡である ref 7
緩和ケアトレーニングにおいて、緩和ケアニーズの認識、リソースが入手可能かどうかは、GPによる終末期医療の準備に影響する ref 8,9
GPによる自宅訪問および他職種連携は、癌患者における自宅死亡割合を増加させる ref 1,2,10,11
ノルウェーでは、ほとんどの市民がGPに登録され、GPが長期的に患者診察を行い、継続性を担保している ref 12,13
GPにより、日中の診察および救急における時間外診察がなされている。
GPは専門領域へのゲートキーパーも兼ねている。
介護施設への訪問も行い、プライマリヘルスケアの基礎を作っている。
これまでの研究では、終末期医療におけるGPが患者フォローアップする際に必要となる知識についての成果が得られていたが、自己申告によるものもしくは癌患者に焦点が当てられていた。
これらの結果は、全ての死亡患者に一般化することが出来ない。
過去に一般人口に対するGPの終末期緩和医療について報告があるが、それらは、多くが癌患者であり、GP診察および他職種連携について分析していない。
●目的
本研究の目的は、全ての死因による死亡患者の死亡前13週間における、GP診察(診療所もしくは在宅医療)、他職種連携、時間外診察、入院について分析し、自宅死亡との関連を調べることである。2つめの目的は、GP診察したことが、時間外診察もしくは入院を減少させることが出来たか。を調べた。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 縦断研究
●方法
それぞれにリンクされた患者登録データを採用した
2012〜2013年のノルウェー全土における全死亡患者80813人
死亡登録、患者登録、国歌統計、保険請求データベース
13週間(3ヶ月)前の患者状況を後ろ向きに調査した
●アウトカム
死亡した場所 自宅、介護施設、病院もしくはその他
電子化診療報酬請求データ
全ての請求情報に、診察した医師、診断等の情報がある
他職種連携 GPがその他の医療職とコンタクトした場合に他職種連携と判断した
終末期医療における適切なフォローアップの定義:1回以上の自宅訪問および1回以上の他職種連携とした
●説明変数
NCoDR 死因と年齢の記載あり
死因はICD-10に基づき病名コーディングされている
癌、心疾患、呼吸器疾患、認知症、その他
年齢5歳刻み 教育、婚姻状態、子息、市町村の都市度、などの情報を分類して分析した
●統計解析
対象者の属性 カテゴリー変数は%でm連続変数は、中央値で表現した
モデルの適合度 ROC曲線 0.901と高い
プロペンシティスコアによる分析を実施した
ロジスティックス回帰分析 自宅死亡をアウトカムとして自宅以外死亡との比較をした
関連する因子:GP訪問診療回数、GP診療所診察回数、GP他職種連携回数、時間外訪問診療回数、時間外診察、入院日数、
調整変数 性別、年齢、癌、婚姻状態、子息、教育、都市度
多変量ロジスティックモデル:調整なしおよび調整済みのORを算出した
GP訪問診療回数、GP診療所診察回数、GP他職種連携回数、時間外訪問診療回数、時間外診察、入院日数のそれぞれについて別々でORを算出した

4 結果

1)記述統計
*表1 15% 自宅死亡、約半数 介護施設、1/3 病院死亡、女性52%
主な死因 循環器30.9% 癌患者 27.2% 呼吸器疾患10.2
亡くなるまでの13週間
 14.3% 1回以上の自宅訪問、42.7% 1回以上のGP診察、12.0% 時間外訪問診療、
 20.0% 時間外受診
入院日数 中央値 4日間
2)週単位の状況 最終13週間における
*図1 GP診療所診察 最初は多いが、徐々に減少した
GPによる訪問診療 最初は1%、最後は4.6%へ増加
同様に時間外訪問診療および時間外診察は終末期に向かうにつれて増加した
病院に入院した患者の割合 終末期に向かうにつれて急上昇 最終的に36.8%まで上昇
3) 最後の4週間におけるGP診察
*図2 最終4週間においては、9.2% 1回以上のGPによる訪問診療
癌患者は高い割合で1回以上のGPによる訪問診療を受けていた 13.9%
4)自宅死亡とGP診察、時間外診察、入院との関連
*表2GPによる訪問診療 は 他の場所での死亡と比べて 自宅死亡との正の関連強い
1回 OR 1.92、2回以上 OR 3.49
GP他職種連携 用量依存の関連あり
GP診療所診察および時間外診察 用量依存の負の関連あり
時間外訪問診療回数 2回以上 自宅死亡OR 正の相関
入院日数 OR0.95
5)GP診察 と 時間外診察、病院入院 との関連
*図3 GPによる訪問診療 GP診察 他職種連携
それぞれ、用量依存の関連あり 増えるほど 負の相関強くなる
GP診察 他職種連携 3日間の入院日数増加
GPによる訪問診療 1回だけ 1日の入院日数増加と関連

5 考察

1) 研究結果のまとめ
 一般人口を対象とした疫学研究の結果、自宅死亡のオッズ比増加に影響したのは、GPによる訪問診療および他職種連携であった。GP診療所診察もしくは、時間外診察、病院入院は、自宅死亡につながりにくい結果でsった。全体として、9.2%がなくなる4週間における訪問診療を受けていた。その1/3が自宅死亡された。6.6%だけが、他職種連携された。1/3以上が、最後の1週間に入院した。
 これらの結果は、臨床医および政策決定者にとって重要である。ノルウェー政府は、終末期医療において自宅でのケア(可能であれば自宅死亡)へと方針変更しているが、しかし、GPおよびプライマリケアによるケアは現時点では十分に活用されていない ref 25,26
 プライマリケアにおける患者中心の医療に基づき、終末期医療におけるポピュレーションストラテジーが必要である ref 27
2) 長所と限界
*長所
2年間にわたる全国調査からのポピュレーションデータ
登録情報、GP診察、時間外診察含めたデータベース:選択バイアスが起こりにくい
対象者の数が大きい:統計学的なパワーを担保
*短所
介護施設に関する情報が不足している
他職種連携 介護施設については情報不足
時間外診察、入院が適切であったかどうか判断出来ない
外来での緩和ケアについて情報が得られていない
病院入院での緩和ケアは見落としている
3) 先行研究との比較
GP診療所診察、時間外診察、病院受診 > 自宅死亡を減らすという過去の研究報告
GPによる訪問診療、他職種連携 自宅死亡に寄与する
適切な終末期医療 特に癌患者において ref 7. 29 . 2 10 16
先行研究では、訪問診療をするGPにおいても、緩和ケアをするかどうかの違いがある。1/4は緩和ケアを行っていない。
その理由 組織的な問題 リソースがない。個人的な問題 知識やトレーニングを受けていない 緩和ケアのニーズを認識していない
ノルウェーでは、終末期医療の患者の38-75%が緩和ケアが必要 ref 31
英国の状況 自宅死亡が増えている 数少ない国の一つ。系統的な働きにより全てのヘルスケアレベルでの緩和ケアを改善。ポピュレーションレベルでも個人レベルでも、
プライマリケアにおいては、患者中心の終末期医療により、早期に発見し、ニーズを把握、計画と協調を行うことで患者の終末期医療ニーズに対応することによりアウトカム改善につなげてきた。 ref 33
亡くなる4週間における6.6%しか、GPによる訪問診療および他職種連携を受けていないこと
自宅死亡の3%しか適切なGPによるフォローを受けていないこと
GP診察回数が、時間外診察、病院と関連していたこと
癌患者におけるGPによる訪問診療、他職種連携の割合が高いこと

6 結論

ノルウェーにおいて、GPは訪問診療を行うこと、他職種連携により自宅死亡を支える重要な役割を担っている。しかし、実際にはそれらの恩恵をうけている人々は少数である。多くの人々が、自宅における適切な終末期医療のサービスを受けていない。GPによる有効なフォローアップ方法のメカニズムを明らかにすること、そして、多くの人々がそれにアクセスする方法について今後も検証していく必要がある。

7 日本のプライマリケアへの意味

*ノルウェーにおけるプライマリケアにおける終末期医療
 国家全体の統計データがあるため、サンプルサイズが大きい
 非常に価値が高い研究成果
 > そもそも患者データが全て登録されていることが重要
*日本でも同様の研究が可能かどうか?
 自宅死亡に関連する因子については十分やるべき価値があるだろう
 まずは文献レビューから。

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学