COVID-19中の高齢者のプライマリーケアの再編成:英国における横断的データベース研究(2020年第8回RJC#1)

ジャーナルクラブ 第8回(相田)
2020/8/19
相田万実子

1 タイトル

Reorganisation of primary care for older adults during COVID-19: a cross-sectional database study in the UK
COVID-19中の高齢者のプライマリーケアの再編成:英国における横断的データベース研究
British Journal of General Practice 2020; 70 (697): e540-e547. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp20X710933
カテゴリー research journal club
キーワード

2 背景・目的・仮説

COVID-19の流行はプライマリケア の働き方に迅速な対応が求められた。
英国では2020年3月5日時点よりGPに可能な限り、対面診察の患者数を減らすことがためにの電話やビデオに診察を推奨されている。 1
健康社会ケアの国務長官は「NHSはプライマリケア と外来患者よやくにデジタルファーストアプローチをするように」と述べた 2
総じて来院者数を減らし、スタッフと患者を守ることを狙った 3
この推奨によるプラクティスの変化の実装についてはまだ定量評価はされていない。
年齢層によってどのようにCOVID-19の影響が出るかはばらつきがあった。高齢者や基礎疾患がある者には弊害が起きていた。4-5
加えて、COVIDー10により格差が顕著になった、貧困層には社会的距離や収入減による負の影響によって負の影響が出ているだけでなく感染症の多大なリスクもあった。6-7
この研究ではCOVIDー19のパンデミックのによる対面や遠隔でのコンサルテーションの影響をルーチンのプライマリケア データを用いてトレンドを評価した。筆者は65歳以上の年齢層に焦点を当て、フレイル・ポリファーマシーを複雑性の代用として用い、社会的ステータスと同様にこれらの患者が優先順位をあげられているかどうか探った。

3 方法・研究デザイン

●方法
>研究対象
RCGP(the Oxford Royal College of General Practitioners)とRSC(Research and Surveillance Centre )センチネルネットワークにある、65歳以上の患者のCMR(Computerised medical record )データに登録されているGPの記録を用いた。2020年の2月17日〜5月10日のもの。
65歳以上に着目した
この年代はCOVID−19の死亡率が上がることやeFI(the electric frailty index)はこの世代に検証されているので。8-9
eFIとは→https://www.england.nhs.uk/ourwork/clinical-policy/older-people/frailty/efi/#the-contract-requires-general-practice-to-use-an-appropriate-tool-for-example-the-electronic-frailty-index-efi-what-is-the-efi
尺度開発論文→https://academic.oup.com/ageing/article/45/3/353/1739750
>デザイン セッティング
RCGP RSCセンチネルネットワークにある65歳以上の人のプライマリケア コンサルテーションの横断研究
COVID-19の流行下でプライマリケア の労働パターンのインパクトを定量検証
RCGP RSCとは欧州で長きにわたって確立されているプライマリケア のセンチネルネットワークであり、伝染病の統計で英国公衆衛生と協力している 10
コンサルテーションを3つの変数(処方数、フレイルステータス、社会経済ステータス)に患者をグループ分けした
処方数:0(reference)、1-4、5-9、10以上
ポリファーマシーは5以上 シビアなポリファーマシーは10以上
フレイルステータス eFIで階層化: fit, mild ,moderate, severe
剥奪ステータス 英国多重剥奪インデックス(IMD)のスコアで階層化:1-5
コンサルテーションを5タイプに分けた
・臨床相談 (患者と対面しないもの、医師や他スタッフによる2次医療ケアへのコンサルテーション、投薬管理、結果説明)
・電子/ビデオ相談(ビデオコンサルだけでなく患者とのメール相談も)
・対面相談
・電話相談
・訪問診療
>統計解析
代表者の軽微の欠落、登録解除、死亡をのぞいて毎週同じ対象者を調べた
剥奪統計はコンサルテーションのタイプから週毎に粗数を出した
フレイルカテゴリー、処方グループ、IMD5点法のコンサルテーション率(/人・週)に回帰モデリング分析をした
>多変量解析
3つの変数(処方数、フレイルステータス、社会経済ステータス)に患者をグループ分けし、それぞれの対面と電話コンサルテーションの多変量負の二項モデルで解析
適合度判定ではモデルをききゃうする証拠は見つからなかった(Pは両モデルともほぼ1に等しい)
予測イベントと観察イベントの負の二項モデルの間で緊密な一致もなく、ゼロインフレの証拠もなかった
罹患率や95%信頼区間ではP値で報告した
Rを使って解析をした。

4 結果

・参加者の特性 table1
3851304のコンサルテーションを分析
平均年齢75歳(70-82)
46%は男性
この集団には既往のあるものが顕著だった
無処方(1.9% )10以上の処方(41.1%)
mild and moderatelyフレイル(59.6%)シビアなフレイル(14.9%)
最も剥奪IMDスコアが高い(11.2%)最も剥奪IMDスコアが低い(25.3%)
・コンサルテーションタイプの傾向 table2
対面診察は64.6%まで減
訪問診療も62.6%まで減
臨床相談は23.6%減
電話相談は106.0%増
電子/ビデオ相談は102.8%増
相談率は全体的に27.1%減
第8週時点では臨床相談をのぞいて、対面は多数派で、電話・電子/ビデオ相談は18.4%で構成されていたが、第14週では対照的に電話・電子/ビデオ相談56.5%まで上昇した。
第11週時点(3月9日の週)で大きな変化が起き、電話相談が71.7%,電子/ビデオ相談は26.6%まで上昇、訪問診療は54%、対面は38.7%まで低下、臨床相談は2.3%低下した。
第11週はCOVID-19の急増時に一致していた (第11週 2/100000→第15週 79/100000)
臨床相談は第12-13週の間に23.7%まで低下、第18週になり25.9%まで増えた
・患者グループのコンサルテーションパターンの変化
対面診察で10以上の薬剤を服用している割合は服用していない人と比較して9倍以上
フレイルの増加はフレイルなしと比較して対面診察増加の割合が増えた
IMDではIMD1(最も奪われた人)とIMD5と比べて5.2%増加
電話相談率は、ポリファーマシー、フレイルにも同じパターンが見られた
10以上の薬物を処方された人は薬物療法を受けていない人と比較して電話相談が17倍に増加
IMD5とIMD1と比べて電話相談は7.7%増加
・実装レベルの異質性
リモートコンサルテーションの運用はばらつきがある
処方グループ、フレイル、IMDで見ていくと、予想より電話(30%)と対面(35%)が多かった
RCGP RSCののプラクティス全体における遠隔相談と対面相談の両方のパターンに明らかな変化があったことを強調
主に対面式から電話相談に急激な変化をしている

5 考察

本研究のデータは、COVID-19パンデミックに対応して行われた迅速なプライマリケアの適応を定量化したものです。調査期間中、電話や電子/ビデオによる相談は2倍以上に増加し、自宅訪問が62.6%減少し、対面式相談が64.6%減少しました。この変更は主に11週目(2020年3月9日から始まる週)に発生しました。NHSイングランドが推奨するGPが遠隔地の患者の接触を減らすための作業パターンに移行するように提案したわずか4日後である。遠隔診察方法は、研究期間の終わりまでに56.6%であったのに対して、ベースライン時の患者に面した予約の18.4%を占めました。フレイルが最も高く、ポリファーマシーのカテゴリーに属する人々は、対面と遠隔相談の相対的な増加が最も大きく、複雑なニーズを持つ人々のケアが優先されていることを示唆している。
・強みと限界
強み:国を代表するプライマリケア の中枢の大規模なデータを利用している
弱点:カテゴリーはオリジナルデータに依存するので間違いはありそう
相談率は需要ではなく、実際の受領行動の反映
データは匿名なので特定の患者の質問内容はわからない 何回問い合わせたかはわからない
このコロナの文脈では、GPも含めて医師はフレイルな人や病状が不安定な患者を呼びやすい
公衆衛生のメッセージから高リスク患者は影響があるとし、集合させないようにしている
若い人を対象にしていない
eFIで自動的にコーディングしたが、実際の臨床医の印象とすり合わせられていない
・既存の文献との比較
これまでの英国の診察時間や労働量の増加とは対照的 13
相談全体の12%ではあるが電話相談は増加傾向 14
2007-2014年で電話相談は2倍に増えているが90%は対面相談している 13
この調査では最終的に41.8%は対面相談 ここまでリモートでコンサルをしているのはこれまでで初めて
電話優先のアプローチの研究では診察時間増加、全体的な労働量など変動している 15,16
遠隔トリアージのアプローチはデータドリブンの実践を効果的にできるかもしれない、労働量に苦労しているところには成功の可能性は低い 15
特定の患者グループ(若い患者と比較して高齢の患者や、最も奪われたIMD五分位の患者など)のすべての連絡先タイプで相談率が高いことが報告されています。 13,14.17
貧困層における人コンサルテーションは増加傾向を示唆しています。
COVID-19の健康格差の要因として報告されており、現在の結果を説明している可能性がある。 7.18.19
・研究と実践への影響
社会経済的剥奪は、COVID-19による死亡リスクの増加と強く関連している
最近のプライマリケアデータの分析では、病院内COVID-19関連の死亡率の完全に調整されたハザード比は1.75(95%、CI = 1.60〜1.91)で、最も奪われていないIMD五分位と比べて最も奪われていない人が多かったと報告している 20
inverse care law において患者、実践、公衆衛生レベルの要素がこれらの貧困層グループをどう守っているのか、さらなる研究が必要。
COVID-19の影響でプライマリケア の労働パターンは急速に変化しており、リモートコンサルテーションへの移行は患者アクセスや予約の柔軟性の改善はプラットフォームの変化につながる。
しかし、インターネット、スマホ、他テクノロジーへのアクセスに限界のある集団に対しては壁がある
リモートと対面の診察が同等であることを述べるにはさらなるエビデンスが必要
今後の研究では、診察の種類が予約時間の長さ、全体的な作業量、診察内でのケアの質、ケアへのアクセスの障壁となる可能性を含めた遠隔診察の患者の経験に与える影響を明らかにする必要がある。

6 コメント 学びポイント

<この文を読んで>
・とにかくシステムができていることで母数に強みがあるのが面白い
・日本では対面の原則があるため電話診察は無しにする流れだったが、再び復活した。今後もこの流れが続くことを考えると、興味深い
・デバイスの壁が英国とはいえ、あることがわかる

<ディスカッションであがったトピック>
・eFIで性別や疾患数があればマルチモビディティへの応用は効きそう
・heterogeneityの文章はばらつきがあることを提示している
・inverse care law :
貧困層、社会的経済地位が低い人こそ、ケアへのアクセスが遠ざかっている法則を言っている。SDH関連ではよく引用されている

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学