がんサバイバー×亀田家庭医 西明博

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post275_0.jpgーまず、今回のテーマの「がんサバイバー」について、教えてもらってもいいですか?
「がんサバイバー」とはがんと診断された全ての人のことを指します。今僕が取り組んでいる「がんサバイバーシップ」とはがんサバイバーのその後の生き方や生きていくプロセスのことをさします。がんサバイバーは、治療の後遺症による様々な身体的症状だけでなく、それらによる抑うつ症状や、再発への不安といった精神的な問題、さらに就労や金銭的な問題、家族関係といった社会的問題などなど、たくさんの問題をかかえます。

ー「がん」に興味を持ったきっかけは?
僕はもともと薬学部出身で、製薬会社で新薬開発の仕事をしていました。薬学部時代の研究テーマが腫瘍関係だったこと、製薬会社での薬づくりの経験を生かせそうなこと、「がん」が純粋にサイエンスとして面白かったことから、なんとなく「がん」に興味をもっていました。医学部に入って、がんの勉強をしていくうちに腫瘍内科という科を知って、自分の強みを発揮できそうな分野だなと感じて最初は腫瘍内科を志していました。

ー「家庭医」と「がん」の親和性について思うことはありますか?
行う治療という面では、腫瘍の専門医と家庭医とはかけはなれていますが、その他の面では親和性があると感じています。医学的なエビデンスだけでなく、相手の価値観とかナラティブを大事にして、いろいろな科と連携しながら治療を組み立てていく。そこには家族をまじえた意思決定が必要だし、地域リソースの理解も必要ですし、そういう点でがんと家庭医は親和性があるなと感じています。

専門的な知識が必要ながん診療.だからこそ家庭医.

ー「がんサバイバーシップ」についてこれからやっていきたいことや今後の野望はありますか?
「がんサバイバーシップ」はアメリカ発祥の概念なのですが、日本ではまだあまり知られていないので、まずはみんなに知ってもらいたいです。あと、「がんサバイバー」に必要なケアは多岐にわたり、全人的な関わりが求められるのですが、特に心理社会的な部分は家庭医が得意とする分野です。オンコロジストと連携して「がんサバイバーシップ」の一端を家庭医が担うことで、よりケアの質を高められる可能性があるということを家庭医療界に、さらには広く一般社会に広めていきたいなと思います。

ー具体的に今やりはじめていることはあるんですか?
同じ法人の総合病院の泌尿器科の先生と連携して前立腺癌のサバイバーシップケアをはじめています。術後の定期的なフォローが必要な方を当院に紹介してもらって、再発のチェックだけでなく、排尿障害・性機能障害や精神的ケアや生活指導とかを含めた包括的なケアを行っていこうとしているところです。

ー西先生は初期研修医のころから亀田の地域ジェネラリストプログラムですけれども亀田を選んだきっかけは?
私は学生の頃は腫瘍内科になりたいと思っていました。特に腫瘍内科でもがんセンターで研究をやるというよりかは地域の病院で患者さんの診断から治療、看取りまで通して関われるような「まちの腫瘍内科医」になりたいと思っていました。それをやる上では病気ではなく人を見る姿勢や、家族も含めたケア、地域とのかかわりなど、家庭医的な要素が求められると考えて、初期研修のうちから家庭医療を学べる亀田の地域ジェネラリストプログラムにしました。

価値観やナラティブを大切にした診療

ーそのまま西先生は後期も家庭医のプログラムにのったのですが腫瘍内科でなく家庭医を選んだきっかけはあったんですか?
地域ジェネラリストプログラムは総合診療科や家庭医のローテーションが多いので、終末期の人と関わることも多くて、人生の大事な場面に関わることに自分のやりがいを感じることに気づきました。自分がやりたいことはなんだろうと改めて考えたときに、自分は化学療法とかがんの研究というよりかは人の人生に関わりたいことに気づいて、だったら癌にかかわらずいろいろな人の人生に深く関われる家庭医の方が自分にはあっているかなと思って家庭医の道を選びました。

ーなかでも亀田家庭医にしたのは?
家庭医は相手との関係性のなかでやっていくので、双方の合意があれば何でも許されてしまう、安易にヤブ医者になってしまうおそれがある気がしています。
その点、亀田家庭医はエビデンスをとことん大切にする風土があります。さらに家庭医療を雰囲気ではなく言語化された学問として学べること、たくさんの仲間・指導医がいて教育体制が安定し、周りから刺激を受け続けられることも魅力でした。
「総合診療専門医」のプログラムは全国に作られ、その中身は玉石混交です。そのため、これからはどこのプログラムを卒業したかが大切になると言われています。亀田家庭医なら全国に、いや世界に恥じない家庭医になれると感じたのでここに決めました。

ー今亀田家庭医の専攻医プログラムの2年目になりますが、亀田家庭医で学んでよかったことはありますか?
亀田家庭医は同じ安房医療圏の中で急性期〜外来〜在宅をいったりきたりしながら研修を行います。ゆりかごから墓場まで色んなステージにいる患者さんと同じ地域の中で関わることで、目の前の患者さんの人生を俯瞰して見られるようになってきたなと思います。地域におけるその人とその家族の10年後、20年後を想像しながら今をマネジメントしていけるのは亀田家庭医ならではなのかなと思います。

ー家庭医をやっていてよかったなと思う瞬間はありますか?
長期間1人の患者さんと関わっていると、病気が見つかったり、入院したり、色々なイベントが起こります。
そういった人生の大事な局面では、その人の生き様や家族との関係性が浮き彫りになってそこで起こる様々なドラマに医師として関わるときに、映画を見ている感覚というか本当に貴重で光栄な仕事をさせてもらっているなと感じます。

ー専攻医としての生活はどうですか?その経験は今の自分にどんな意味を持っていましたか?
専攻医1年目は他の科ローテーションがメインで初期研修と大きく変わらない生活で、家庭医専攻医としてのアイデンティティに苦しんだような感じもありました。
専攻医2年目になり、家庭医療を学問として学ぶようになり、また透析、在宅、後輩の教育とどんどん業務の幅も広がり、新しいもの好きの自分には刺激的で楽しい日々を送れています。

ー西先生からみて亀田家庭医とはどんな組織ですか?
大切なことを思い出させてくれる場所です。
日々の業務に追われていると、目の前の病態や治療のことで頭が一杯になって、それ自体は悪いことではないのですが、ただ自分が何のために医療をしているのかを見失いがちです。でもKFCTに帰るといつもそこには、治療の目的はなんなのか、健康とは何なのか、幸せとは何なのか、といった根源的なことを語り合っている家庭医達がいて、それを見るといつもハッとさせられます。医療を目的としてではなく手段としてとらえる考え方は亀田を卒業しても忘れずにいたい視点だと思っています。

医療は手段.「本当に大切なこと」に目も向ける

ー今後、西先生と同じように地域の腫瘍内科を目指したい人にとって、腫瘍内科を先にやって家庭医をやるか、家庭医をやってから腫瘍内科に手を伸ばすのかの選択がとれそうですが、そういう人に家庭医のほうがおすすめですよみたいなポイントはありますか?
どっちでもいいと思います。(笑)僕もそこをすごく迷って、最初は自分も家庭医のプログラムを終了したらどこかのがんセンターへ行って腫瘍の勉強をしようと思っていたのですが、いざ家庭医の勉強を始めてみるとそっちが楽しくて、これからも家庭医に軸足を置いてやっていこうと思っています。なので迷っている方はとりあえず次にやりたい方を選べばいいのかなと。先々のことよりも後期研修で腫瘍をやっている自分と家庭医をやっている自分のどっちが楽しそうかで考えて選べばいいのかなと。

ー未来の亀田家庭医にメッセージをお願いします。
家庭医という分野は確立されていないからこそ可能性に満ちている分野だと思います。今専門医制度は揺れていますが、社会に必要とされている存在ということは確かなので、制度とか建前とか計算とかでなく、社会に必要とされる何か面白いことをやりたい人は飛び込んでみたらいいと思います。
一緒に未来にワクワクしながら楽しい研修をしていきましょう!

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学