自動車運転の安全について医師と家族でディスカッションすること:Long ROAD studyでわかったこと(2020年第5回RJC#1)

ジャーナルクラブ 第5回
2020/6/24
相田万実子

1 タイトル

「自動車運転の安全について医師と家族でディスカッションすること:Long ROAD studyでわかったこと」
Physician and Family Discussions about Driving Safety: Findings from the LongROAD Study
Marian E. Betz, Leon Villavicencio, Deepika Kandasamy, Tara Kelley-Baker, Woon Kim, Carolyn DiGuiseppi, Thelma J. Mielenz, David W. Eby, Lisa J. Molnar, Linda Hill, David Strogatz, David B. Carr and Guohua Li; on behalf of the LongROAD Research Team
The Journal of the American Board of Family Medicine July 2019, 32 (4) 607-613; DOI: https://doi.org/10.3122/jabfm.2019.04.180326
カテゴリー research journal club
キーワード Automobile Driving Cohort Studies Communication Cross-Sectional Studies Logistic Models Physician-Patient Relations Risk Assessment

2 背景・目的・仮説

●背景
高齢にともなう病状、薬剤、身体能力の変化は運転能力に影響を及ぼす1
自動車運転の安全、自粛、免許停止は多くの高齢者が直面している2
家族や医師は高齢者の能力や環境や嗜好により、高齢患者の運転について決めていく 3-5
過去文献では50歳以上の運転者は、家族や家族以外の人間と相談することを勧めていた 6
他の研究では、64%の一般市民高齢者は家族と相談しているが、家族や医師と相談し運転停止を決める人は少ない 7
どれくらいの高齢者が家族と共に納得の上で運転について決断しているか 8
自動車運転安全、運転停止について医療関係者は大きな役割を果たしている 1
既婚高齢者は配偶者や大人になった子供の話を聞き入れ、医師とは話したがらない 6
これらの研究に参加している医師たちは、高齢者が運転をするかの相談に乗ることについては及び腰だ
多くの医師は高齢者の運転能力について評価し、相談しているが、一部の患者とは互いにさほど相談していない 1.9
12ヶ月の間で8-22%ほどの患者としか医師は運転について相談していない 10
多施設コホート研究であるThe Long ROAD study では、家族と医療関係者と運転について話している確率について調べた過去最大の研究だ。このような議論の頻度や統計や運転特性を理解し、コミュニケーション戦略の構築及び洗練に高めていきたい

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン:Cross-sectional study
●方法
Long ROAD study:運転の行動特性や健康・機能変数を調べている 
参加者:カリフォルニア、コロラド、ミシガン、メリーランド、NY
リサーチアシスタントがかかりつけ名簿から参加者を見繕った
65-79歳で運転免許証を持ち、平均週に最低1回は運転し、主に1台の車を運転し、認知症がない方
測定:運転手を取り巻く話題、運転の限界の推奨を聞いた
   運転能力や快適さを7段階評価、注意低下による免許失効、エラー、違反の頻度も6段階評価
   自己制御の戦略(運転にまつわる認知、身体、知覚のパフォーマンスを示せるか)を合計13の二区分変数で評価
   自己制御の戦術(運転にまつわる認知、身体、知覚のパフォーマンスで行動回避ができるか)を合計7の二区分変数で評価
解析:家族と医師とで運転についての相談について95%信頼区間を用いて確率を見た
   解析はカイ2乗検定かフィッシャー検定をカテゴリー変数に、1way ANOVAを連続変数に使用
   多変量ロジスティック回帰を利用し、初期モデルの取り込みにP<0.20をカットオフにして議論に用いる変数を特定し、モデルの最適化には逆方向の排除を行った

4 結果

・Table1 家族や医師と運転について相談している参加者の特徴
2990名の参加者のうち約半分は女性であり、65-69歳、多くは白人・ヒスパニック
大部分は既婚者で50000ドル以上の収入があり、学歴も高い
337名(11.3%)の参加者は健康上の理由で運転をやめている
2.2%だけが運転を制限するように推奨されている
参加者の17.3%は家族と医師に相談している、参加者の14.2%は家族と相談し5.5%医師に相談している、74人の参加者(2.5%)はどちらにも相談している
若いグループに比べて75歳から79歳の男性は家族と相談している傾向にある
家族と相談するもののほとんどは家族によって相談始まり(60.6%)、医師との相談をするもののほとんどは高齢のドライバーによって相談が持ちかけられる(55%)。
相談のきっかけは安全運転の関心から来ており(64.8%)、健康上の理由(22.3%)運転違反(8.7%)事故(8.7%)が背景にある。

・Table2 家族や医師と運転について相談する要因
医師との相談し決まった内容は,身体評価(41.8%)教育と助言(38.2%)治療(29% 図1)だ
免許許可局(3.6%)OT(2.4%)の評価も参考にされているとの調査もある
しかし1/4はこれらの相談の結果を踏まえて行動はしない
男性、修士号以上(対学士号未満)の参加者、過去1年間に自己規制的な理由で運転を減らした人は、自己評価の低い運転能力、戦略的な自己規制(すなわち、自己規制に起因する旅行前の決定)、運転ミスや違反が多い人と同様に、家族と運転に関する会話をする可能性が高かった。同様の特徴は、医師と運転について話し合うことと関連していた。

5 考察

<考察>
The large LingROADコホートでは、ほとんどの高齢ドライバーは家族や医師と運転について相談していなかった。
運転停止を予測し、準備している高齢者の運転者は、より良い健康状態の転帰を経験しており、事前計画の利点が強調されている。
しかし、家族や医師と運転の安全について話し合ったことがある参加者はほとんどいなかった。これは過去の研究と一致しており、このデリケートなテーマを避けているか、あるいは多くの高齢者が人生の最後の数年間は運転できないことを認識していないことを反映しているのかもしれない。
医師は、運転の安全性についての会話が患者と医師の関係に悪影響を与えると考えるかもしれません。医師は道路交通安全法や高齢者ドライバーの評価に関係するテストや教育プログラムについてトレーニング知識が乏しいと思っているが、医師は患者・公共の安全のために患者を守らなくてはいけない義務がある。
参加者は、運転の安全性について家族と話し合う可能性が医師の2倍であった。臨床現場で医師がこのテーマに取り組むのに役立つリソースはいくつか存在しますが、一般向けの啓発キャンペーンや教育の恩恵を受ける可能性のある家族向けのリソースはほとんどありません。
性差についても家族と医師と相談するかについてはほぼ差がなかった。
過去の文献では事故を起こすなどのレッドフラグがない限り相談を受けることはなかった。
相談する会話状況についてはこの研究では調べられていない。
運転評価について有用である評価はまだ出ていない。

<制限事項>
参加者が家族や医師といつ会話したか判断できない
この研究ではアクティブな参加者が応募しているため、医師と相談をする傾向が一般集団より高い
65-79歳の十分に教育を受けている白人・ヒスパニック層がメインになっている
認知症のある方はすでに対象層から外されている

6 結語

この研究ではほとんどの高齢者は家族や医師と運転に関する相談をしていない
高齢者の運転の安全に取り組んでいるリソースから今後恩恵を受けるかもしれない。

7 ミーティングのディスカッション

交通事故は途上国であるほど、死亡原因の上位
元の研究はコホートだが、これは横断研究
参加者の見繕い方はこの論文では書かれていない→ref11に記載あり
この5州は母集団である米国の特性を踏まえているのか
乗車時間の違い、頻度の違いも特徴の確認対象になりそう
都会か田舎の違いを人口密度による層別化もいるか(rurality)
また、公共交通機関がどれほど発達しているかにもよる
変数については変数選択法を踏まえて、理論的に説明が必要な変数を割り出している
臨床応用を考えると、CGAでの質問項目に新たに「自動車運転をしているか?」を設けることはできそう
「自動車運転を続けるか」の相談はAdvanced directiveに近いため、患者ニーズベースにはなりやすい
スクリーニングとして用い、アウトカムとして事故が減るか、免許返納に影響するかというアウトカムも出しうるか。ただし、ステークホルダーがいることや、今後の自動運転などのモビリティの発展があるため、このあたりの研究は変化がありそう。しかし、僻地についてはこの問題は残るだろう。

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学