「いいよ」の意味

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倫理的に困難な意思決定を伴う事例のケア

キーワード

意思決定支援、自己決定能力、高次機能障害、コミュニケーション、プロフェッショナリズム


選考医3年目の高岡先生によるポートフォリオ発表会でした。

症例は高齢男性で、失語症と右上下肢麻痺で救急外来を受診し、左中大脳動脈脳梗塞と診断されました。入院中に粘血便があったことから、下部消化管内視鏡を実施したところ、S状結腸癌と診断され、手術による切除術が望まれました。ご本人に手術のことをお話しましたが、「いいよ」と一言発したきり、うつむいて何も言わなくなってしまいました。受容できていないのは逃避反応か?だまっているのは元々の性格か?高次機能障害で理解や意思の表出ができないのか?様々な仮説が考えられました。リハビリや看護師、MSWに確認すると、言語の理解や発語も徐々に改善していることが分かり、本人の詰まった言葉を補足して同意を得ながら想いを傾聴し、最終的にBSC方針となりました。退院後、初回の外来で「調子はいかがですか」とお聞きすると、「いいよ」と最初よりも前向きな返答を聞くことができました。

意思決定のプロセスとして、本人の意思を確認できるかが重要なポイントとなります。そのため、意思決定のプロセスを行う前に、失語症がありコミュニケーションが取れるかの評価をするべきだということが分かりました。また、高次機能障害は、外見上は何も問題がなさそうであっても、日常生活の中で大きく影響が見られ、長期的に回復してくるため、長く関わるのが大事だと分かりました。

岡田先生からは、自己決定能力を評価するのが大事であるが、個別性が高いというお話がありました。自己決定能力は年齢や病名と1:1に対応するものではなく、例えば会計士の人は認知症になっても数字については意識できるといったことが挙げられます。「この人」が「このテーマ」について意思決定できるのかを考えていくのは、手間はかかるが非常に大事であるとのことでした。

文責:専攻医2年目 飯塚 玄明

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学