多様性×亀田家庭医 岩間秀幸

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post250_1.jpg−今回のテーマである「多様性」について教えていただけますか?
2018年に岡田先生からプログラムを任せてもらったときに、自分の代のプログラムのテーマを「多様性とシナジー」としました。『亀田家庭医として流れてきた歴史を引き継ぐ上で、変わりゆくものとずっと変わらないものがある。継承と挑戦を考えていく中で、ディレクターの役割はレジデント一人一人の個性や人生が輝いていくためにある。』そんな点から「多様性」としました。

−亀田家庭医にとって「多様性」というのはどういう意味を持つのでしょうか?
亀田家庭医にはたくさんの先輩や仲間がいます。嬉しいことに本当に多方面で活躍している方ばっかりで、ここで研修するとどういった人が育ちますよと一括りに言えないですね(笑)。本当に面白くて、尊敬できる人が揃っています。
多様性を認めるというのはとても大事なことで、いろいろな人がいて、その人らしさが出てもいいよという安全な場がないと研修は成り立ちません。人の命、人生を預かる医療には、論理やルールで決められないことが沢山あります。医者だって人間で、人としても発展途上です。迷ったり、悩んだりして初めて患者さんの思いに沿ったケアができるようになります。
それぞれの価値観や想い、自分らしさを出しても受け止めてくれる仲間がいるというのが大事なことです。しかもただ受け止めるだけじゃなくて、自分もこんなこと考えているよって、他の人がそれに相乗りしていって、相互作用が起きて、気付いたら大きな結果になっています。4年間の研修を通じて、後輩がどんどん魅力を高めていきます。その成長を一緒に見られていつもワクワクしています。

枠にとらわれない柔軟な発想で活躍できる人を輩出していきたい

−今後「多様性」を出すことで、達成したい野望はあるのでしょうか?
post250_2.jpg枠にとらわれないいろいろな新しい形で、柔軟な発想で活躍できる人を今後も輩出していきたいです。僕自身もプログラムディレクターになる前に、3年間主夫をしていましたが、その経験が今とても重要な意味を持っています。総合診療医、家庭医のニーズは高くて、本当はもっともっと沢山の人材が必要です。ダイバーシティや働き方改革は社会全体の取り組みですが、いろいろな制約や条件がある中でも、家庭医になりたいと志している人がしっかり一人前の家庭医として育っていける安心できるプログラムにしていきたいと考えています。
診療所でも病院・大学でも行政でも他の分野でも世界に通用する家庭医クオリティでやりたいという人たちにいろいろな形でプログラムを提供できればと思っています。

亀田家庭医は一目見ればワクワクする環境。「その人らしさ」を待ってます

−今後も亀田家庭医はどんどん躍進していくプログラムになりそうですね。亀田家庭医を目指す方へメッセージはありますか。
一目見てもらえればとてもワクワクするような環境なので、安心して飛び込んでください。「亀田に私なんて行って大丈夫ですか」ってよく聞かれるのですが、全然心配ありません。一人一人の良さとか人生の葛藤とか悩みとかが全部活きてくるのがこの家庭医の仕事だと思っています。一緒に成長していく場なのでありのままの自分でぜひプログラムにきて欲しいなと思いますし、そういう「その人らしさ」を僕たちは待っています。

−特にどんな人に来て欲しいとかありますか?
あまりそういうふうに考えたことないくらい先輩や後輩たちはいろいろな人がいます。どうせやるなら家庭医の世界で本物と思われる実力をつけたいと思っている人、患者さんの人生に関わりたい人、社会を変えたい人、自分の家族や人生を大切にしたい人などモチベーションはなんでもOKです。今までは海外に出ないとなかなか認められにくい業界じゃないかと思っている人も多かったと思いますが、ここに来れば大丈夫です。「家庭医です」と堂々と言える仕事がしたい人はぜひきて下さい。

−そんな岩間先生の家庭医を知ったきっかけについて聞きたいのですが。
post250_3.jpg医者4年目に岡田先生と出会ったのが直接のきっかけです。恥ずかしながらそれまで家庭医そのものを知りませんでした。初期研修を終えた後内科を選んだものの、どうやったら患者さんの気持ちを汲み取った医療ができるかと悩んで、赴任先の石垣島で自分一人では対応できない問題に直面し、患者さんの希望に添えない葛藤を抱えていました。どんな相談にも乗れる医者になりたいと思っていた自分が、赤ちゃんの診療は小児科に、妊婦さんは産婦人科にと「できない言い訳」をどんどん考えるようになっていました。
岡田先生に出会って『君がやりたいと思っている「患者さんが求めているものに対応できる能力」を担保するのが家庭医、館山に来ればできるよ』と言われて、初めて質が担保されて広く医療を提供できる家庭医療を知りました。目の前がパーッと開けるような思いでした。帰宅してすぐ妻に「人生を一生をかけられるものを見つけられた」と興奮して話していて、今でもあの日本当に嬉しそうにしていたよねと話をします。

−内科研修を少しやられてから家庭医の世界を入られた、初期研修を終えたときには家庭医についてあまり知らなかったということですか。
同期でそういう道に進んだ大学の仲間もいたのですが、そのときにはあまりピンときていませんでした。

−家庭医を志す人でよく悩む問題として、内科や救急を先に学んでから家庭医の世界に入るか、はたまた後期研修一年目から家庭医の世界に入るか、というのがありますが、岩間先生はその点についてどう思いますか。
僕が内科を研修してから家庭医になっているのでよく聞かれるのですが、その答えは僕の中ではっきりしていて、家庭医をやりたいなら家庭医にいくっていうのがベストだと思っています。確かに病棟管理や臨床推論など内科的な能力は家庭医としては必要ですが、内科は家庭医の仕事の一部分でそれ以外に学ぶことが沢山あります。家庭医として内科を学ぶのと内科医として内科を学ぶのでは学び方が全然違うので、時間を大切にするなら家庭医研修がおすすめです。

忘れられない患者との経験、それが自分を家庭医にしてくれた

−家庭医でよかったなと思うことはありますか?
家庭医になってよかったと思うことは、何度も何度もあります。本当に天職ですから。
忘れられない場面の一つに、これは自分自身の失敗の経験でもあるんですけど、私の定期の患者さんが、定期診察の翌日に急性腹症で運ばれ、その際に癌が見つかるということがありました。もともと便秘症で痛みがあったため腹痛を拾い上げられず、精査の途中で直接痛みとは関連のない癌が偶発的に見つかりました。泣きっ面に蜂というか、一緒にリハビリを頑張ってきた方だけに、前日の診察で見つけられなかった自責の念や、癌が見つかったショックもあり、退院して患者さんが私の外来に戻ってこられる日、私としてはお力になれなかったことを謝るという気持ちでお待ちしていました。でも、その患者さんは外来に入ってくるなり笑顔で「先生、帰ってきたよ。」と言われ、僕が謝ると「いや、そんなことを言いにきたんじゃない。
癌がみつかって専門の先生から説明を聞いたけれど、僕のこの癌をどう治療したらいいかを先生と相談したい。僕のことを一番わかっているのは先生だから、先生と決めたい。」そんなふうに話して下さいました。
自分の外来を、患者さんが病気を見つけることでなく、人生に一緒に考えるために必要としてくださったことに震えました。その方は手術を選択されて今も元気にされています。患者さんが私を家庭医にしてくださいました。

−いい話ですね。他に家庭医をやっていてよかったなと思う瞬間はありますか?
めちゃくちゃいっぱいありますね。喋るとキリが無いですけど、例えば不登校で外来をさせてもらっていたお子さんが、親やお子さん自身も様々な悩みを抱えながら、少し学校に行けるようになったり、夢が見つかって受験勉強をして「先生受かったよ」と大学の合格報告に来てくれたり。人の人生に関わって、誰かの人生にちょっとでも役に立てることが1人でもあれば僕はとても幸せだと思っています。家庭医になってからその回数が確実に増えています。

−専攻医としての生活はどうでしたか?
家庭医はいろいろな科をローテーションするので、実は結構人見知りの自分は新しい科で緊張してエネルギーも使っていました。悩んだり、疲れたりして、家族や先輩にも相談に乗ってもらい支えてもらいました。
でも受け入れてくれる専門医の先生が家庭医のことをよく分かってくれていて助かりました。やったことがないことにチャレンジするのはパワーがいるのですが、その挑戦は若いうちにやった方がいい。僕は妻との主夫交代も念頭に置いていたので3年間でどのくらい自分が能力を高められるかを意識しながらやっていました。人見知りで葛藤しながらも0から1にするのを頑張っていたなあという記憶があります。

−その亀田家庭医の研修で得られた経験で今に生きていることはありますか?
専門的なことを集中して学べる時間は大事です。今でも、専門医の先生ならこういうふうに判断するだろうなとか、入院でこういう経過になるだろうという予測がつくことで、患者さんに見立てを伝えるときも具体的に話ができます。目分量を患者さんに伝えるのが家庭医の役割と後輩に話すことがありますが、十中八九こういう形にはなるとか、「専門医の先生にこういうふうに言われるかもしれないけれどその時どうする?」みたいな形で事前に主治医として患者さんと話を進めてケアに当たれるというのは専門研修をした強みだと思っています。

沢山の仲間がいてお互いに尊敬しながら本音で自分の悩みや葛藤を言い合える環境

−今はプログラムディレクターとして他のプログラムのことも見聞きすることがあると思いますが、他のプログラムと比べて亀田家庭医のここが特色だとか、ここに強みがあるとか、何かありますか。
圧倒的に「人」だと。沢山の仲間がいてアットホームな環境でお互いに尊敬しながら本音で自分の悩みや葛藤を言いあえるというところがうちのプログラムの魅力です。そしてそこに家庭医療を学問としても学べる学術的な土台と歴史があります。
もちろん目指すべきライバルのようなプログラムも沢山あって、いろいろな挑戦を聞いています。僕は後輩の人生を預かる立場なので、良いと思えるものはどんどん取り入れていきたいと思います。

−あなたにとって亀田家庭医とは?
「亀田家庭医」に沢山の意味があるから、カッコよく一言では言えませんが、僕の「ホーム」「原点」です。プログラムディレクターとして、年は近いけれど専攻医一人ひとりが我が子のように大切な存在で、時に父だったり兄だったりするのかもしれませんが、大きな家族だと思っています。本当に出会えたことを幸せに思っています。

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学