筋骨格系の診察は理学療法士がGPに取って代わる:UKのプライマリケアデータ2年分の評価(2020年第2回RJC#1)

ジャーナルクラブ 第2回
2020/5/7
相田万実子

1 タイトル

「筋骨格系の診察は理学療法士がGPに取って代わる:UKのプライマリケアデータ2年分の評価」
Physiotherapist as an alternative to a GP for musculoskeletal conditions: a 2-year service evaluation of UK primary care data
Fiona Downie, Catherine McRitchie, Wendy Monteith and Helen Turner
British Journal of General Practice 2019; 69 (682): e314-e320. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp19X702245
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キーワード

2 背景・目的・仮説

●背景
スコットランドのGPは急速に減っており、次の5年の間で1/3のGPが退職してしまう(ref1)。2015年で20%のGPプログラムは埋まっていなかった(ref2)。スコットランドのGP診療所の一部ではGP減少に伴いパートナーシップを解消し、地域の保健機関に引き継がれることで影響を与えている。残留しているGPは患者数が多くなり奮闘している。
2015年にスコットランドのNHSの2つの診療所で問題が持ち上がった。安全なサービスを確保するためのGPが十分に供給できないため、制度を再設計し、患者のニーズに応えるために多角的に対応することを決めた。
Advanced nurse practitioners(ANPs 高度ナースプラクティショナー)、Extend scope physiotherapists(ESPs 高度な技術を持つ理学療法士)と精神保健看護師は、GPが伝統的に診察している患者の幾らかを評価し治療をしている。ESPsは革新的な役割だ。
プライマリケアにおけるESPsは、筋骨格系の単純〜複雑な問題を持つ患者にはじめコンタクトを取る。GPにやってくる筋骨格系の訴えの患者は全体の30%ほどを占めている(ref3)。加齢に伴い筋骨格系の問題は増え、高齢人口の増加はプライマリケアサービスに負担をかけてしまうと予想されている(ref4)。プライマリケアのESPsは独立して患者の状態を評価・診察・管理をし、GPの予約を回避するようにする。ESPsは調査をし、他のサービスを参考にし、しばしばステロイド関節注射をしたり、鎮痛薬や抗炎症薬の処方をする。
ESPsは通常7か8aの評価(9段階評価)をすでに受けて数年経つ専門性の高い理学療法士に授けられる。
最近の発表によるとESPsの診療は安全にコントロールされていることが示されている(ref5)。
ESPsは整形外科受診までの長い待機時間緩和の歴史的政治的な施策として、若手医師の労働時間の短縮のため、整形外科クリニックのESPに紹介され役割が増えている(ref6)。UKの様々に異なる場で、筋骨格系を専門的に診察するESPsの役割が急速に拡大している。ESPsはこのような環境で働いていることを一貫して示した研究では、社会的病理があること(ref10,11)
を明らかにし、整形外科の紹介率を下げ(ref7.12.13)、良い手術成績を達成し(ref8.9.13)、患者満足度が高いことを示した(ref4.10-14)。
理学療法士が医師の代理をすることに関するレビューでは安全性に配慮がないことが強調されており、また研究の質についても問われている(ref10)。さらに、GPは筋骨格系の問題に対し診断したり管理する能力について自信がないため、本来プライマリケアで管理できたはずの患者がセカンダリケアに紹介されている(ref12)。
プライマリケアの中での最近の挑戦は、GPに代わっていかにESPsが効果的に、安全に、独立して筋骨格系の問題を管理していくか、ユニークな機会となっている。

●目的
最近の研究の目的はで以下を報告することである
・ESPsによって診察された患者数と予約数
・ESPsとの予約の結果
・処方数とESPが診察した後に治療が完了したと、GPが記録したカルテ
・整形外科への紹介の傾向
・整形外科へESPから紹介した結果
・筋骨格系を専門とした理学療法士への紹介の傾向
・ステロイド注射数の傾向
・ESPサービスに対する患者の意見

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン:縦断研究
●方法
対象者:2015年11月16日〜2017年11月30日までの2年間に、NHS Forth Valley の二つのGP診療所から出ているESPのサービス利用者。2つの診療所を合わせて9500人の患者数の規模

ESPsは8aの評価を得ているもので、標準的な注射療法の手技は獲得している 処方だけのものはいない
ほとんどの患者は受付またはANPの電話トリアージののちにESPの予約がされる。予約後1−2日以内に診察を受ける

除外:16歳未満、妊婦、薬を要求する患者、カルテレビューのみの人、在宅訪問の患者

調査項目:
各患者との接触の結果、たとえば、自己管理(アドバイスや簡単な介入など)、注射、画像、血液検査、理学療法への紹介、整形外科への紹介、その他の紹介(ESPを見た後にGPによるレビューを必要とする患者の数; そして、ESPを見た後にフィットノートまたは処方箋を必要とする患者の数(GPが患者に会わずにDuty GPによって実行される)20か月間のサービスのcapacity(2016年4月から2017年11月)。ESPの役割が導入される前の年とサービスの最初の2年間の、各診療(GPとESPを組み合わせたもの)からNHS Forth Valleyの理学療法と整形外科への紹介率。整形外科紹介からの結果(2015年11月から2017年4月までのサービスの最初の18か月。この時点以降の結果は待機リストのために不明でした)。ESPサービスの導入前の年とサービスの最初の2年間の各診療で投与されたステロイド注射の数。

患者体験調査は、2016年3月1日から2016年3月15日までの2週間に行われた。ESPサービスに参加したすべての患者には、2015年のNHSイングランドのGP患者調査(ref15)の質問21と22に類似した短い6項目のアンケートが与えられました。「GP」という単語を「ESP」で置き換えたもの(詳細については、著者から入手可能)。患者はこれを匿名で完了した。

4 結果

図1 ESP予約の結果・GPのサポート
8417名の患者
7348名(87.3%)は自己管理のみ(アドバイスや簡単な介入など)。患者の88名(1%)はESPがGPによるレビューが必要であると判断、1049名(12%)の患者は処方を要求し、221名(3%)はフィットノートが必要となった。

表1 GPおよびESPからの整形外科紹介率
2つのGP診療所の2年間のGPとESPからの紹介率
A診療所では1000人あたり1.1→0.7に低下(37%減)
B診療所では1000人あたり2.4→0.8に低下(64%減)
対照的に、NHS Forth Valley trustを通しての月間紹介率は3年間の間で1000人あたり1.4から1.9

表2 GPおよびESPからの理学療法への紹介率
2つのGP診療所の2年間のGPとESPからの紹介率
A診療所では1000人あたり2.4→3.3
B診療所では1000人あたり1.7→2.4
対照的に、NHS Forth Valley trustを通しての月間紹介率は3年間の間で1000人あたり2.5から2.9

表3 ステロイド注射
A診療所ではESPサービスの前は年間43件、サービス導入後1年目は年間168件、2年目は年間251件
B診療所ではESPサービスの前は年間36件、サービス導入後1年目は年間119件、2年目は年間169件

表4 ESPサービスの患者体験
182名にアンケートを配り75名から回答を得た(回収率41%)
十分な時間確保について、69名(92%)は非常に良い、6名(8%)は良いと回答
患者の意見を聞くかについて、72名(96%)は非常に良い、3名(4%)は良いと回答
検査・治療の説明について、66名(88%)は非常に良い、8名(11%)は良いと回答
他の質問も同様
ESPに対して信頼があるかについて、73名(97%)は非常に良い、2名(3%)は良いと回答

5 考察

1)研究結果のまとめ
プライマリケアに来る患者のほとんどは自己管理(アドバイスや情報提供・簡単な介入など)を求めており、プライマリケアの範囲内での管理を必要としていた
ESPが独立で対応でき、GPの介入の時間を減らせる
理学療法への紹介率は上がり、ステロイド注射の数も増えており、患者にとっても満足度が高い

2)先行研究との比較
同じようなシステマチックレビューでは、87.3%がプライマリケアで管理されており、自己管理で対応する患者は60%ほど。画像や血液検査をする割合は少ない。整形紹介も3%ほど。
整形受診前のスクリーニングサービスではデータが不足しているが、整形への紹介率は20-60%減る。
整形外科への適切な紹介率を測ると、この研究の86%は適切な紹介であり、他は定義が異なる可能性があるが、71%や74%である。
他の研究でもESPの働きは満足度が高いとされている。

3)研究や実践への応用
昨今のGP不足を踏まえると、筋骨格系のアセスメントをはじめに受けられ、GPは医学的な問題に集中できる。適切な人・場所・タイミングで見られる。
適切な整形外科への紹介で、医師・患者の不満は減る。
ステロイド注射は二次医療機関に患者を紹介しなくても済む。ただし、この研究では長期介入の結果は示せていない
また、この研究ではESP→GP評価後の転帰やケアの影響は比較されていない
GPとESPの費用比較がされていないが、予約時間の長さ、給与、役割の違いが変数で絡む
ESP→整形外科紹介数が少ないため、GP→整形外科との比較ができていない

4)強みと限界
強み:2年間の非常に多くのサンプル患者数であり、2つの診療所での比較ができている
限界:ESP→GPに評価を求めた事例の評価の記録が不十分、患者体験調査の回収率が悪い
   適切な整形外科の紹介の定義は厳密ではない

6 当院での議論

・他職種が連携してくれることでGPがサポートされる論文は注目されていいる
・他職種がGPの業務負担をしてくれると、その分GPが多くの患者を診察することができる。NHSに向けて、メリットのある提言と考えてもいいのかもしれない
・内容としてはGPとESPの比較ではないため、タイトルはキャッチーになっている傾向はある。しかし、"How this fits in"のコメントにあるとおり、これからに期待される論文であるため、このジャーナルで採用されている
・母数が8417名と多いのがこの論文の特徴。GPに通院している人のうち何割が利用しているかわかるとより面白い

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学