家族志向×亀田家庭医 宮本侑達

post244.jpg

―宮本先生といえば特に「家族志向」に強みを持っていますが、「家族志向」はどういった分野なのでしょうか?
医療は基本的に目の前の個人を中心に見ていくのですが、個人の問題を見たときにその背後に日々一緒に生活をしている家族の影響を強く受けています。家族との関係がよければ、なんとかやっていけることもあるので家族の影響は強いです。何かの問題を見るときも家族関係に着目するのが家族志向ですね。

―「家族志向」に興味を持ったきっかけはあったのですか?
2年目の亀田家庭医の目標が「家族」に目を向けるという事だったので、みんなで一緒に家族志向のプライマリケアの本を読んでいて面白かったということがきっかけとしてあります。症例でも、ある不登校のお子さんがいて、いつも外来にその子は来ないでお母さんが来て、息子の引きこもりの相談をするという外来を2〜3ヶ月続けて、こんな外来で良いのかなという気持ちが生まれました。そういった中で家族志向の勉強をしていたので、家族の関係性が変われば本人が変わるというのを意識してやってみるとうまくいったという経験をしました。
他にも、困難に感じた症例にカップルカウンセリングをやってみて良くなった経験を通して、家族志向の観点は大事だなと感じました。

―「家族志向」について今後の野望はありますか?
日本では、家族のことで相談できる専門家が少なく、特に夫婦の問題は気軽に相談できる先がほとんどないです。困ったら友人だったり親戚だったりに相談し、それがうまくいかなかったら、次は弁護士や裁判所に相談するくらいしか選択肢がない現状です。アメリカは離婚しそうになった時に、カップルカウンセラーが出てきてカップルの問題点について話し合います。日本でも家族について相談に乗れる職種が増える事が大事だなと思います。その時に、プライマリケアに従事する医療者が、ある程度相談に乗ることができれば解決できるものも多いのではないかと思い、家族志向の啓蒙活動をしています。

「家族志向を通じて、幸せな家族を増やしたい」

―家庭医との出会いは何だったのですか?
実は、私は専門科を回っていく大学の実習があまり面白くなくて、留年しています。大学では、病気ばかり見て、どっぷりと患者に寄り添うという感じがないなと思って、あまり私にはしっくりこなかったというか。
そんな中、とある家庭医療センターが東京で出張講座を行っており、そこで家庭医療と出会いました。内容は患者中心の医療や家族志向型のケアや産婦人科などの各論と家庭医のコアな内容だった気がします。一番面白かったのは考え方の部分で専門分野ばかりみているわけじゃなく患者に寄り添うという部分がしっくりきたのかなと思います。

―それに出会うまでに、迷っていた科はあったのですか?
全人的に見られる科がいいなと思っていたので、緩和ケアは学生の頃から色々な勉強会に参加して勉強させてもらいました。リハビリも生活の視点があるので面白かったです。あとは内分泌科も、患者さんの生活習慣病を治せない苦しみにいかに向き合うかというところに魅力を感じていました。そう思うと、生活を見ることが元々やりたかったんですね。

―それが家庭医療と結びついたってことですね
そうですね。どれも「一部」なんですよね。緩和ケアは終末期という時間を切っていますし、リハビリは障害を持たないと対象にならないし、内分泌科も病気がないと関わる対象にならない。それなら自分は家庭医になって全員を対象にしてより幅広く見たいなと感じました。だから、他の科でなく家庭医を選びました。

―なるほど、その中でも亀田家庭医を選んだきっかけはあったのですか?
いろいろな家庭医プログラムを見ましたけど、亀田家庭医は活き活きやっているなというところが伝わってきました。家庭医をやるならば初期研修・後期研修含めて5〜6年は同じ地域でやりたいと思っていたので、初期研修プログラムがしっかりとしているとしているところを選択しました。亀田は初期研修のプログラム自体も充実していて医者の基礎体力がつきそうだなと。それと、千葉県出身だったので、地元で研修したいという気持ちがありました。

―実際に亀田で初期後期とやってそのイメージはその通りでしたか
想像以上でしたね。臨床医としてこんなに可能性が広がるとは思わなくて、とにかく想像以上の場所でした。最初の思いの通りに初期研修・後期研修と合計6年間同じ地域にいますが、そのメリットは大きいです。患者さんも長い方で6年間継続的に関わっているのですが、その間に沢山のことを一緒に経験します。新しい病気が見つかったり、介護負担が増えたり、結婚したり、子供が生まれたり様々なことを一緒に経験しますが、それは長くいたからこそだと思います。

―特に思い出に残るエピソードはありましたか?
臨床において言えば、かなり自由に関わらせてもらえました。自分の裁量権が大きいので、求めれば求めるほど様々なことにチャレンジさせてもらえて充実感がありました。それに、自分の臨床能力が広がるのもわかります。最初は外来だけだったのが透析も見られるようになって、小児も乳児健診も見られるようになって、在宅、産婦人科と徐々に関われる範囲が増えてくるのが楽しかったです。あとは、臨床以外の業務も充実していたなと思いますね。特にワークショップをやらせてもらえる機会が多くあって、チームを作って何かをするという勉強になって、それを通してチームの動き方も学ぶことができたと思いますね。

亀田家庭医で学んだ臨床能力、マネジメント力を活かす

―今は亀田総合病院在宅診療部の在宅フェローとしてご活躍ですが、亀田家庭医で学んだ今に活かされている事はありますか?
臨床に対する医者としてのこだわりを出しながらも、患者さんの意見を一番に尊重し、多職種の多彩な意見もバランスよく取り入れられているなと感じています。さらに、マネジメントの視点を最初から活かせているなと思います。今、在宅診療部はこれくらいの患者数がいて、1人当たりこれくらいの患者を見て、それに対してどれくらい時間がかかっているか?それをもっと効率化するには?もっとカンファを短期間に質良く高めるには?どうやって宣伝していったらいいか?については、亀田家庭医で学んだことなので、これから活かせていけるなと思っていますね。

―家庭医的な関わりは今も続いていますが、家庭医をやっていてよかったなと思う瞬間はありますか?
患者さんとの関わりでいえば、色々な場面を経験しているからこそ、場面場面の想像力が湧きますね。例えば在宅にいったらどうなるのか、この人がこのままの生活をしていたら将来どうなるのか、といった予測ができます。これは家庭医ならではの長い時間軸で見られる良さだと思います。
あとは患者さんに、「こんなの先生に聞いてもいいかはわからないけど」と気軽に相談される感じがいいですね。この先生だったらこんな曖昧な質問にも答えてくれるという信頼感と、この先生だったら何でも断らずに聞いてくれるという安心感があったからこそ、こういう質問が出ると思います。この言葉を聞くのは嬉しいですよね。
他には、長い時間関わっているとお互いのプライベートも知っていくというか患者さんへの心配も一方的にするのではなく、患者さんにも逆に自分のプライベートのことを心配される、そういった関係性がいいなと思います。

努力をすればするほど「うま味」が出るプログラム

―今回インタビューが将来亀田家庭医を考えてくれている人向けなのですが、専攻医の生活は気になるところだと思うのですが、専攻医としての生活はどうでしたか?
亀田家庭医は楽ではないですね。ただ、専攻医の時はがっつりやっていいんじゃないかなと思うんですよね。診療が幅広いのは羨ましく思われるのですが、幅広い能力を持つためにはストレスがかかります。ずっとこなしていると慣れていきはしますが。さらに、臨床の重荷を感じながら、毎月のように発表もあったり、運営業務もあったり、かなり負担はかかるプログラムですので、忍耐能力は必要です。間を見つけて勉強する必要はあるし、学年を経るごとに忙しくなりますしね。楽ではなかったですよね(笑)
ただ、亀田家庭医は努力をすればするほど「うま味」が出るプログラムだと思います。数年間努力した分、その後の一生につながる能力は得られると思います。

亀田家庭医は家庭医の王道、刺激的な「シナジー」が起こる場所

―あなたにとって亀田家庭医という存在とは?
一言で言うと「家庭医の王道を走っている」感じがしますね。
それは変化球でもなくて、偏ることもなく、どこをとってもある程度しっかりやっていて、ちゃんとど真ん中の家庭医を走っている感じがします。偏らない幅広い診療能力に加え、態度面に関しても患者中心の医療・システム理論・家族志向ケア・地域志向ケアなど理論を踏まえて学べますし。

あとは、亀田に来れば刺激的なメンバーが多く集まっています。自分が確立している上にそれぞれ強みを持っている、さらにそれを伸ばそうとしている。一緒にいるだけで刺激的で、こんな人たちと一緒にやれるのは誇りが持てます。そういった意味で、亀田家庭医とは王道を走っているし、刺激的な「シナジー」が起こっていく場だと思います。

―未来の亀田家庭医にメッセージをお願いします。
直接家庭医に来るってかなり勇気がいることだと思います。自分もかなり迷いました。周りのみんなに「家庭医ってマイナーだし何やっているかわからないし、専門志向の日本で生きていくには専門を持たなくていいの?」って言われました。ただ、今言えるのは、まず家庭医に来てよかったということです。
時代は明らかに専門志向よりも総合志向で、ある程度何でもできて、その上で何かしら強みを持っている人を求めています。さらに、医療のテーマは明らかに「病気の治療」よりも「生活の質の向上」にシフトしています。患者さんの生活をイメージできる医療者が重宝される時代になると思います。その上で、総合的な能力を身につけられ、患者さんの生活にどっぷり浸かることができる家庭医にまず飛び込むことはありなんだと思います。
それに、人生の時間には限りがあるので、まずやりたいことをやって、それをやりきった土台の上に、さらに次のやりたいことのステップが見えてくると思います。家庭医に今飛び込む事は勇気がいる事だと思いますが、必ず時代に求められるはずです。今はちょっと先駆者としての怖さはあると思うのですが、今を頑張ると必ず次世代の医療を引っ張っていけるリーダーになれると思うので一緒に頑張りましょう!!

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学