尿路感染症治療後、在宅療養移行に難渋した認知症患者の症例

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医療機関連携および医療・介護連携 or コミュニケーション

キーワード

意思決定支援、病診連携、dual relationship、continuity of generalism

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専攻医1年目栗原先生の第1回ポートフォリオ発表、病院で担当した尿路感染症治療後、在宅療養移行に難渋した認知症患者の症例でした。

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妻と2人暮らし、認知症でほぼ寝たきりの80代男性が、尿閉による尿路感染症で入院して担当した。カテーテル抜去は困難で、妻や通所施設からは、介護負担から自宅退院は難しいという認識だった。医療チームとしても施設入所が致し方ないという方針であったが、妻も実は迷っていることがわかり、医療チーム内(主治医と担当医)でも方針にズレが生じた。
退院調整のため、プログラム母体の診療所に在宅診療を打診するも、「家族の意向が定まっていないのでは?」と尋ねられ、在宅導入でよいのか?主治医はなぜ在宅を奨めるのか?と葛藤が生まれた。
病棟主治医からは、家族は在宅診療でイメージがわからないから迷っている。今回がおそらく自宅に帰るラストチャンスで、それを逃さないほうがよいのでは?と教えられた。それを踏まえて在宅側と話し合い、退院前カンファレンスをして家族の納得を得て在宅復帰につなげることができた。今後は、家族の考え背景を探る、外部施設との顔の見える関係の構築、担当医としての納得感を高めることを課題が課題と考えた。
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全体でのディスカッションでは、以下のような内容が話し合われました。

  • 初学者のもつ在宅診療を提示する難しさをどのように解決できるのか(当院の研修ゴールにもなりうる)。おそらく制度の知識だけでなく、病棟診療とは異なる世界観で動いていることも関係しているだろう。
  • dual relationshipの葛藤:所属する病院と診療所、それぞれとの関係があるからこそ葛藤が出ていたのかもしれない。自分の立ち位置に迷うときは葛藤しやすく、そういうときは自分のしたいこと、役割を振り返るチャンスでもある。誰のために何を考えていたのかを振り返ってみるとよいだろう。

岡田院長からは、以下のコメントがありました。
ポートフォリオとしては、本人の意思が触れられていないため、それを汲み取るプロセスがどう踏まれていたかを示す必要はある。もしかしたら、そこが見えれば妻の迷いも少なかったかもしれない。具体的な内容でなくても考え方でもよい。今後は代理意思決定の支援をうまくできるようになるといいだろう。
「潜在型ニーズ」は「商品」をみてみないとわからない。イメージできないものは、見せてみないと欲しいとは思わない。「選択肢提案型」も重要ではあるが、それをどう決めるのか意思決定を支援することが重要。ただ、パターナリズムに陥らないように、本人の意思の汲み取りがやはり重要。連携するためには、より多様なメンバーがどういう役割をもっているのかをよく知って、有機的な繋がりをつくることが重要。generalistの強みは他のプレーヤーやフィールドの強みや難しさを知っていることだろう。

以上です。

文責:河田(専攻医3年)

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学