日本における家庭医の地理的分布:国全体の横断研究(2019年第13回RJC)

ジャーナルクラブ 第13回
2019/11/7
高橋亮太

1 タイトル

「日本における家庭医の地理的分布:国全体の横断研究」
Geographical distribution of family physicians in Japan: a nationwide cross-sectional study.
Shuhei Yoshida, Masatoshi Matsumoto, Saori Kashima, Soichi Koike, Susumu Tazuma and Takahiro Maeda.
BMC Family Practice 2019 20:147. Published on: 29 October 2019.
https://bmcfampract.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12875-019-1040-6
カテゴリー research journal club
キーワード Geography Health policy Japan Family physician

2 背景・目的・仮説

●背景
1)医師の地理的偏在および過疎地域での医師不足 日本や国際的に重大な問題(ref 1)
政府による一県一医大政策、自治医科大学の創設などの介入にも関わらず医師不足は継続(ref 3-5)
プライマリケアが十分に浸透している国々においては、プライマリケア医師が他の領域の医師よりも適切に分布しているとの報告があるが、日本のようなプライマリケアが十分に浸透していない国においてはわかっていない(ref 8-9)
日本におけるプライマリケアの歴史
(中略)
以前から専門医からジェネラリストへの転向は十分なトレーニングのないまま行われていた。
プライマリケアの質を改善するため、2009年にJPCAが専門医制度を創設した。(ref 12)しかし、2018年時点では、日本の全医師数(311,205人)のうち672人(0.2%)と非常に限定的である。
日本における専門医制度と19番目の総合診療専門医
専門医からジェネラリストへの転向に関して、政府からの規制はない
開業医になるにあたって、家庭医療もしくは総合診療の専門医資格は不要。専門医を取得する経済的なインセンティブは少しだけ。
日本政府および自治体は、医師地域分布、医師数に関して制御する権限は非常に限定的
結果的に専門性にかかわらず都会地域に集中する
さらに患者は自分の望む医師を自由に選択することが出来る
これらの要因から日本は家庭医の分布を調査するのに理想的な環境であると考えた
●目的
本研究の目的は、日本における家庭医の地理的分布を検証し、他の領域の医師と比較すること。

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 横断研究
●方法
1) 研究対象者 47都道府県
用語の定義
"family physicians", > 家庭医療専門医
"general practitioners" > 総合診療専門医
"primary care physicians". > プライマリケアを提供するすべての医師(資格を問わない)
2) 家庭医療専門医
2018年7月31日時点のオンラインデータベースをもとに算定
527人(78.4%)がJPCA事務局に情報提供を承諾 氏名、勤務地、勤務先、専門領域
3) その他の診療領域の医師
厚生労働省のオンラインデータベース
家庭医療専門医の対照群として30-49歳のすべての医師を設定
「医師・歯科医師・薬剤師調査」のデータから抽出
・内科 > 総合内科専門医
・外科 > 外科専門医
・産婦人科 > 産婦人科専門医
・小児科  > 小児科専門医
4) 市町村の分類
 2つの方法で実施
*総務省統計局のデータベース
 人口密度を5分位に分けた
*別の方法
 'metropolis,' > 政令指定都市
 'city'    > 市
 'town/village.' > 町および村
5) 統計解析
 χ2検定 カテゴリーデータの分布を比較
 残差分析
 Stata ver.15 を使用

4 結果

表1)人口密度5分位で分けた各領域医師の地理的分布
図1)人口10万人あたりの各領域専門医数(人口密度5分位)
表2)市町村の分類で分けた各領域医師の地理的分布
図2)人口10万人あたりの各領域専門医数(市町村の分類)

5 考察

1) 研究結果のまとめ
家庭医療専門医の数は他の領域の専門医数よりもかなり少ない
しかし、家庭医療専門医は都会よりも地方に多く分布していた
今回の結果は、日本のようなプライマリケアが十分に浸透していない、医師配置に規制がない、患者受診がフリーアクセスの国であっても家庭医療専門医が望ましい分布をしていることを示す結果と考えられた。
2) 先行研究との比較
ヨーロッパ国々の状況
英国、オランダなどのプライマリケアが十分に浸透している国
それに比べて日本の医療保険制度は特徴的

近接性はプライマリケアの原則の一つ
プライマリケアの質を担保するために、患者の近接性を確保することは重要
家庭医が自発的に平等な分布となるようニーズが高い地域に赴任しているのかも知れない
*その他の要因
都会地域での開業コストが高いこと 特に若い家庭医にとって
今回の対象者は年齢中央値が37歳
地方にある自治体設立の公的医療機関で勤務している可能性がある
急速に高齢化する日本において家庭医の存在は重要
multimorbidity患者の割合も高い(文献24-25)
3) 限界
・登録された年齢は推定値 対照群の年齢設定が適切かは不明
・その他の交絡要因の調整が不可能 性別 出生地
・公的病院か私立病院かの判断が不可能

6 日本のプライマリケアへの意味

*日本における医師偏在
 しかし、家庭医療専門医はrural areaに多い
 記述疫学でわかりやすく記載
 > 日本のプライマリケアにおいて非常に重要な知見
   今後も長く引用される文献になるだろう

*それらの要因については今後のさらなる研究成果を期待

以上

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学