それでも家に帰りたい

本日は専攻医2年目・近藤慶太先生のポートフォリオだった。

病院研修中に経験した家に帰りたい2人が今回の主人公。1人目は70代男性。貧困ゆえに発熱精査を希望されず、結果翌日に意識障害で搬送となった方。聞けば独居で身寄りもなく、自宅は壁に穴が空き雨ざらしの環境であった。無料低額宿泊所を提案するも利用に合意が得られず、院内倫理委員会や精神科とも協議するも結果的に自宅退院となった。もう1人は80代男性。右股関節炎で入院となったが独居の自宅はビニールハウス。10匹以上いる飼い猫に年金のほとんどを費やしてしまう。リハビリ目的の転院を勧めるもやはり同意は得られず、自宅に帰って行った。

「何もしてあげられなかった」無力感を感じる一方で、「相手のことを理解しきれていないのでは」と省察する近藤先生。健康に影響を及ぼす社会的要因や、病院受診ができない集団や定期通院のない人々の実情や課題をもっと学ぶ必要があると感じ、中核地域生活支援センターと協働した学生・研修医向けの体験実習プログラムを立ち上げた。

学びとしては、まず患者の自己決定能力の有無の評価が重要であること、加えて学習された無力感が根底にある可能性を考え、「適切な支援とはなにか」「本人が希望しないなら支援をしなくてもよいのか」と問い続けること、"inverse care law"を踏まえ家庭医としてのアドボカシーを発揮することなどが挙げられた。新しいエントリー項目であり、新鮮な学びの多い勉強会であった。

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このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学