日本のフリーアクセスシステムにおけるプライマリケア医のゲートキーパー機能:14離島診療所における前向きコホート研究(2019年第10回RJC )

ジャーナルクラブ 第10回
2019/9/19
高橋亮太

1 タイトル

「日本のフリーアクセスシステムにおけるプライマリケア医のゲートキーパー機能:14離島診療所における前向きコホート研究」
Gatekeeping function of primary care physicians under Japan's free-access system: a prospective open cohort study involving 14 isolated islands
Makoto Kaneko, Kazuhisa Motomura, Hideki Mori, Ryuichi Ohta, Hiroki Matsuzawa, Akira Shimabukuro, Masato Matsushima
Family Practice, Volume 36, Issue 4, August 2019, Pages 452-459, https://doi.org/10.1093/fampra/cmy084
カテゴリー research journal club
キーワード Access to care, emergency medicine/urgent care, international health, population health, primary care, rural health

2 背景・目的・仮説

●背景
ゲートキーパー機能はプライマリケア、医療費抑制に重要
世界において、多くの国々がゲートキーパー機能を採用
一方で、フランス、ベルギー、韓国、日本は不採用
日本のフリーアクセスシステムでは、紹介なしで患者がどの医療機関にも受診可能
これにより、プライマリケア医のゲートキーパー機能を評価することが困難である

先行研究 文献7 2017年の研究 沖縄の1診療所 後ろ向きコホート分析
紹介数、救急受診、入院が全国調査と比べて少ないという結果
しかし、1診療所 1医師 比較対象の全国調査が2003年と古いデータであった

●目的
日本におけるプライマリケア医のゲートキーパー機能を評価するために、1)14離島診療所における患者受診、2次医療への紹介、入院のデータ分析を行い、2)全国調査(2013年版)のデータベース結果と比較することを目的として本研究を行った

3 方法・研究デザイン

●研究デザイン 前向きコホート研究
●方法
・対象者 
 沖縄県の14離島 12,238人
 電子カルテを採用している14診療所 2016年2月〜2017年1月まで
 1年間の間に診療所に受診した全患者
 患者受診数(event based, not patient based)
 旅行者の受診者を除く

・目的変数 離島診療所への受診患者数、離島外の医療機関への紹介受診数、救急受診数、入院数
 患者受診数(event based, not patient based)
 旅行者の受診者を除く
 紹介、救急、入院データ:紹介状または患者記録からデータを抽出

・その他の要因
 socio economic status 地域データを採用(患者からの聞き取りではない)

・統計解析 記述統計
 文献23 the ecology of medical care model by White
 相関分析 スピアマンの順位相関分析

4 結果

・全体 表1
離島診療所への受診患者数 54741
離島外の医療機関への紹介受診数 2045
救急受診数 549
入院数 705
・年齢、性別で調整した1ヶ月、人口1000人あたりの数 表2
離島診療所への受診患者数 360.0
離島外の医療機関への紹介受診数 11.6
救急受診数 3.3
入院数 4.2
・全国調査との比較 表3、図1
 今回の調査対象者では、全国調査と比べて、病院受診数が少なく、プライマリケア医への受診数が多かった。
・2次医療機関への距離、時間、コストと紹介受診数の相関 図2
 すべてについて有意な相関はなかった

5 考察

1) 研究結果のまとめ
・離島診療所への受診が多いにもかかわらず、紹介受診数、救急受診、入院数は少ない
 > 離島におけるプライマリケア医師のゲートキーパー機能が2次医療機関への受診を抑制している可能性を示唆する
・2次医療機関への距離、時間、コストと紹介受診数の相関 すべてについて有意な相関はなかった
 > 離島による違いは少なく、すべての医師がゲートキーパー機能を持っていることを示唆する結果

2) 先行研究との比較
・他国との比較

3) 限界
・旅行者のデータ
・重症患者(末期がん、透析患者)
・紹介理由まで調べていない
・疾患スペクトラムが異なる(沖縄と全国で)
・selection bias

6 結論

・本研究における2次医療機関への低い紹介率は、プライマリケア医のゲートキーパーシステムが2次医療への紹介を抑制することにつながる可能性を示唆するものと考えられた。

7 日本のプライマリケアへの意味

・医療政策への反映
 日本全体のフリーアクセス制度への提言
 そのためには、沖縄だけでなく、日本国内の別の地域におけるリサーチが必要

以上


このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学