FDプログラムレクチャー キャリア理論

FDプログラム(指導医養成プログラム)第4回では、キャリア理論について学びました。専門医試験を終え、一つの目標を達成した節目にキャリアを考える良い機会となりました。

キャリアとは、金井1)によると、「成人になってフルタイムで働き始めて以降、生活ないし、人生全体を基盤にして繰り広げられる長期的な仕事生活における具体的な職務・職種・職能での諸経験の連続と、節目での選択が生み出していく回顧的意味づけと、将来構想・展望のパターン」をいいます。

キャリアには様々な理論がありますが、静的キャリア理論と動的キャリア理論の大きく2つに分けられます。FDプログラムでは代表的なものを学びました。

静的キャリア理論の代表的なものとして、シャイン2)のキャリアアンカーの考え方があります。キャリアアンカーとは、自分が生活(主に仕事)をするにあたり、その根底にある動機や価値観のことです。アンカーには以下の8つのものが存在します。

(1)管理能力(Managerial competence):管理能力をキャリアアンカーとする人は、簡単に言うと管理職に就くのが自分にとって最善だと考える人です。このタイプの人は、問題解決やマネジメント、人の世話をするのが好きな傾向にあり、責任を負うことで成長します。
(2)技術的・機能的能力(Technical/functional competence):技術的・機能的能力をキャリアアンカーとする人は、何かの分野で秀でること、権威になること、エキスパートになることを好みます。一つの分野において新たな課題を見つけては挑戦をし続けることで成長していき、他の人よりも正確かつ生産性高く仕事を進めます。
(3)安全性(Security/stability):安全性をキャリアアンカーとする人は、生活においてもっとも重要な要素は「継続性」と「安全性」だと考えます。また、できる限りリスクを回避しようと考え、社会人生活を一つの企業で全うする人が多いのもこのタイプです。
(4)創造性(Entrepreneurial creativity):創造性をキャリアアンカーとする人は、発明やクリエイティブな仕事、新しい事業の創造を好みます。我城を築くことにはあまり興味がなく、管理や運営は他の人にまかせる傾向にあります。
(5)自律と独立(Autonomy/independence):自律と独立をキャリアアンカーとする人は、自分で決めたやり方で仕事を進めることが好きな傾向にあります。そして、周りからの動機付けがなくとも自走することが得意な人が多いようです。基準や規律、場の空気に従うことは嫌いであり、一人で仕事をするのが好きです。
(6)奉仕・社会献身(Service/dedication to a cause):奉仕・社会献身をキャリアアンカーとする人は、自身の能力を発揮することよりも、いかに人の役に立つかに動機付けされます。サービス業界やHR業界を目指す人にはこの傾向が強いようです。
(7)純粋な挑戦(Pure challenge):純粋な挑戦をキャリアアンカーとする人は、全力で挑める困難な問題とそこから得られる刺激をこよなく愛します。そのため、今の仕事ができるようになると次の仕事を探す傾向にあり、一貫性のない多様なキャリアを積む可能性があります。
(8)ワーク・ライフバランス(Lifestyle):ワーク・ライフバランスをキャリアアンカーとする人は、自身の中で確立した生活スタイルに合わせて仕事を選ぶ傾向にあります。時には仕事よりも私生活を重視するため、長期休暇を取って旅行をするなど、ご褒美の時間を設けます。

その価値観が個々人の進路を選ぶ際に大きく影響しているとされます。自分のアンカーを見極めることで、仕事に対する「継続的なモチベーション」を得ることができますし、また「人と比較せず」自分のキャリアを考えることができます。

静的なキャリア理論は、目標や計画性を重要視しますが、デメリットも存在します。目標や計画性を重要視するあまり、自身にあった唯一無二の正しい仕事を見つけなくてはならないと考え、それをあらかじめ知る方法を模索することで不安を抱えてしまうことです。そこで、目標や計画も必要ですが、それに縛られすぎず、想定外の出来事をキャリア発展の材料として生かしていくこともとても大切であるとしたのが動的キャリア理論です。

動的キャリア理論の代表的なものとして、クランボルツ3)による「計画された偶然性理論」があります。どこでは、キャリアは100%自分の意のままにコントロールできようというものではなく、大部分、偶然の出来事によって方向付けられていると捉えます。彼の調査では、最終的に満足のいくキャリアを獲得した人は、そうした偶然を積極的につくりだし、自己の潜在可能性を大きく開いた跡が見られるとしました。そのためには、以下のような行動指針を持つことが大事だと指摘しています。

(1)「好奇心」 ―― たえず新しい学習の機会を模索し続けること
(2)「持続性」 ―― 失敗に屈せず、努力し続けること
(3)「楽観性」 ―― 新しい機会は必ず実現する、可能になるとポジティブに考えること
(4)「柔軟性」 ―― こだわりを捨て、信念、概念、態度、行動を変えること
(5)「冒険心」 ―― 結果が不確実でも、リスクを取って行動を起こすこと

では、予期せぬ出来事を引き寄せるために以上のような行動指針をもとに動けば、目標をつくらなくてもいいのでしょうか。目標なく偶然性ばかり大切にすることは逆に不安や、人生の意味を見失ってしまいがちです。そうではなく、未来と現在、両輪を意識するべきで、「未来」の目的地を定めた上で、「計画された偶発性理論」が提示したような5つの行動指針に基づいて「今」行動することが、キャリアアップにつながるとされます。

レクチャーを受けた感想としては、専門医試験を終え、一つの目標を終えた今、キャリアの節目を迎えています。医者のキャリアは、医学生となったのちから、初期研修医となり、その後専門医の資格を取るまではある意味決められた路線を歩むのかもしれません。そこから専門医をとったあと、どのよううにキャリアを展開するか、たくさんの道が存在します。専門医を取得したのちは、さらに新しい分野に挑戦するのか、それまで身につけたものを組織・社会に還元するのか、別の形で表現するのか、それも選択する節目になると思いました。その中で、キャリアアンカーの考え方は、自己のキャリア選択の意義や動機を振り替えさせてくれます。

1) 金井 壽宏. 働く人のためのキャリア・デザイン. 東京: PHP新書. 2002.
2) エドガー・シャイン. キャリアアンカー. 東京: 白桃書房. 2003.
3)ジョン・D・クランボルツ, A.S.レヴィン著, その幸運は偶然ではないんです. 花田光世ら訳. 東京: ダイヤモンド社.

文責:宮本

このサイトの監修者

亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男

【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学