プライマリケアをベースとした社会的処方の推進活動:利益と課題についての質的研究(第6回RJC)
ジャーナルクラブ 第6回
2018/07/11
高橋亮太
1 タイトル
「プライマリケアをベースとした社会的処方の推進活動:利益と課題についての質的研究」
Delivering a primary care-based social prescribing initiative: a qualitative study of the benefits and challenges.
Kathryn Skivington, Mathew Smith, Nai Rui Chng, Mhairi Mackenzie, Sally Wyke and Stewart W Mercer.
Br J Gen Pract 2018; 68 (672): e487-e494. DOI: https://doi.org/10.3399/bjgp18X696617
カテゴリー research journal club
キーワード 地域活動団体 関係活動家 プライマリヘルスケア 質的研究 社会的処方 社会経済的因子
2 背景・目的・仮説
●背景
複雑な社会経済的背景が影響して健康問題を悪化させている人々への支援
家庭医(GP)やプライマリケア従事者の課題である
英国における家庭医は独特のポジションにいる。つまり、NHSの一部として地域において幅広く無償で(universal coverage free)ポイントオブケアを提供する。
健康の社会的決定要因(SDoH)を減らすための試みとして、
医療機関と地域活動団体が協力して健康問題、生活支援に取り組んでいる
社会的処方は、プライマリケアと地域活動団体との間での部門間の働きを改善するための協力的なアプローチのことをさす
Links Workers Programme (LWP)は、はスコットランド政府が資金援助する社会的処方を推進するプログラムの一例である。(文献21)
2014年に、スコットランド、グラスゴーの剥奪指数の高い地域において開始。
家庭医診療所を通して、人々と地域をつなげることを目的としている。
Community Links Practitioner (CLP)は、第3セクターもしくは地域開発のバックグラウンドを持つ職種で、家庭医診療所に雇われている。
プライマリケア専門職からの紹介をもとに、患者が地域団体へアクセスするのを支援
さらにCLPは、地域活動団体との連携を深めることで組織的な強化を行っている
●この研究の意義
これまでにも、社会的処方に関する先行研究はあったがプライマリケアに限定的
地域活動団体との連携は、社会的処方の鍵となる部分だが、文献的な報告は少なかった
(この次の論文(投稿予定)で、LWPのプロセスおよびアウトカム評価の報告予定)
●目的
社会的処方推進プログラムを実践することの利益、課題等について調査すること
地域団体間の働きを改善し、公衆衛生的ゴールの達成すること
健康の社会的決定要因の負の部分を減らすこと
3 方法 研究デザイン
●研究デザイン
質的研究
●方法
準構造化されたインタビュー調査
個別のインタビューは60分以内
録音したデータを書き起こし
> data saturationを実施
●対象者
地域活動団体の代表者 30人 > BOX.1
Community Links Practitioner (CLP) 6人
> 当初は、6人のCLPに対するin-depthインタビュー
●topic list
・LWPがどのような活動ができるのか、および、その持続可能性についての参加者の意見
・プライマリケアとコミュニティサービスの関係性
・CLPとの協力関係
・紹介プロセスと紹介の適切性
・組織のキャパシティー
●データ分析
当初 全体像を俯瞰 > 緊急性高いものをまず対応
メインの分析 フレームワーク 文献27
initial coding framework > NVivo
code summary
4 結果
●対象者の詳細 > BOX. 1
・organisation type charity or statutory
・organisation focus
・participant job role frontline or management
●協力的な働きにより得られる利益
・CLPが患者のcase managerとしての役割を果たす能力
・プライマリケアにおけるCLPの位置づけと団体間をつなぐ役割
●今後の課題
・LWPのキャパシティー
・資金調達方法 緊縮政策の影響を受けて
・CLPのキャパシティー 時間がかかること 集中的なケアマネジメント
5 考察
●全体のまとめ
本研究は、プライマリケアセッティングにおけり社会的処方の有効性について幅広い領域の地域活動団体の視点を与えてくれた
利点として、LWPはケースマネジメントにおいて協力的なアプローチをすることに適していることが挙げられるが、一方で、社会的処方におけるmagic bulletではない
課題として、緊縮政策のもとでは、十分な資金調達ができなければこのアプローチが上手く機能しないことがあげられる
●先行研究との比較
LWPができる前は、プライマリケアとの協力的な働きは困難んであったことを地域組織の参加者は強調している(文献28)
●今後の研究・臨床への反映事項
組織全体の連携なのか、個別団体間の連携なのか、個人の連携なのかを明らかにする研究
LWPが持続可能な活動なモデルなのか
そもそも社会的処方による介入効果があるのか
> 患者アウトカムの評価
今後投稿予定の論文で、プロセス評価およびアウトカム評価の報告予定
6 日本のプライマリケアへの意味
●社会的処方
生活支援(福祉)をかかりつけ医療機関(医療)と連携させていくこと
日本においても重要な活動と思われる
> 家庭医の役割の一つとして意識していくこと
以上
このサイトの監修者
亀田ファミリークリニック館山
院長 岡田 唯男
【専門分野】
家庭医療学、公衆衛生学、指導医養成、マタニティケア、慢性疾患、健康増進、プライマリケア・スポーツ医学