腰椎椎間板ヘルニア

1.病気について

 椎間板は外縁部を構成する線維輪と呼ばれる靭帯様組織と、中心部に含まれるかなり柔らかい髄核という組織から成り立っています。この椎間板の線維輪が弱くなり全体として膨隆したり、線維輪が断裂して中の髄核が脱出して、近傍にある神経を圧迫するようになったものが腰椎椎間板ヘルニアです。
 椎間板ヘルニアの原因は各個人により異なっていますが、椎間板という組織自体は加齢とともに早くから老化しやすい組織であること、人類が二本足で歩行を開始したために、下位腰椎には過剰な負担がかかりやすくなっていることが大きな原因と考えられています。椎間板ヘルニアの患者さまの年齢は30〜50歳代の方が多く、男性はおよそ2倍の頻度で見られ、20歳以前と70歳以降では比較的まれな病気です。

2.症状

 通常は腰痛やいわゆる「ぎっくり腰」同様の症状が数日見られます。これに続いて一側の下肢へと放散する激しい痛みが生じます。この痛みは激烈なものが多く、数日はほとんど満足に動けないことも多く、睡眠も妨げられるほどです。しかしながら、この痛みは2〜3週間でピークを迎えることが多く、その後は下肢へと放散する鈍痛がみられ、徐々にこれが薄らぐという経過をとります。典型的な場合には症状は一側のみに限局しますが、時には両下肢が痛んだり排尿障害が見られたりすることがあります。

3.治療法の説明と比較

 前述のごとく、腰椎椎間板ヘルニアは自然経過で軽快するものが多いといわれています。現在までの研究では、腰椎椎間板ヘルニアのおよそ80%の症例が自然経過で軽快すると報告されています。手術以外の保存的療法としては、安静、腰椎コルセットの装着、腰椎牽引、マッサージなどがあります。痛みが高度な場合には、腰部硬膜外ブロックなどの鎮痛を目的とした治療も行われます。
 手術的治療としては、レーザー治療、内視鏡によるヘルニア摘出術、手術用顕微鏡によるヘルニア摘出術があります。それぞれに長所・短所があり、どのような場合に手術に踏み切るかに関してはいくつかの考えがありますが、各種の保存的療法を2〜3ヶ月行っても効果のないもの、痛みの発作を繰り返すもの、痛みが激烈なもの、下肢の運動障害が著明な場合などでは手術を選択しています。

4.手術方法(顕微鏡下椎間板ヘルニア摘出術)

(1)体位:気管内挿管をし、腹臥位で手術を行います。手術開始前にレントゲン透視により椎体の位置を確認します。
(2)皮膚切開:目的とした椎間板を中心にして約5cmの正中皮膚切開を行います。
(3)椎弓の展開:目的とする椎間板の上下の椎体の筋肉を、坐骨神経痛のある側のみ、棘突起から関節面移行部まで丁寧に剥離します。
(4)椎弓部分切除:この後の操作は手術用顕微鏡下に行います。ハイスピード・ドリルを用いて目的とする椎間板の上の椎弓の下縁および下の椎弓の上縁を削除します。その後椎弓の腹側に付着している黄色靭帯を削除します。
(5)神経根の減圧およびヘルニアの摘出:罹患神経根を内側に牽引し、脱出したヘルニア塊を確認します。神経を傷つけないように注意しながらヘルニアを摘出します。
(6)閉創:止血を確認し、皮下ドレーンを挿入し、閉創します。

5.退院の目安

 平均術後10日に退院予定です。退院後も2週間程度の自宅療養を行い、退院後の生活に慣れてください。術後1ヶ月で通勤・通学を開始します。その後は日常生活に制限はありませんが、スポーツなどの開始時期は担当医にご相談ください。格闘技や頸部に負担のかかるスポーツは控えてください。

◎ちょっとためになる話◎

ちょっとためになる脊椎脊髄と末梢神経の話6:腰椎椎間板ヘルニア1
ちょっとためになる脊椎脊髄と末梢神経の話7:腰椎椎間板ヘルニア2

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療