脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)

1.脊椎・脊髄について

 脊柱は7個の頸椎、12個の胸椎、5個の腰椎、5個の仙椎が一体となった仙骨、および3〜5個の尾椎により構成されています。脊柱は頭部および体幹を支える支持組織であり、また可動性のある運動組織でもあります。さらに、脊柱のほぼ中心に中枢神経である脊髄を納め、これを保護しています。
 脊髄は脳とともに中枢神経系に属する神経組織です。全体の長さは約40〜45cmあり、断面は直径が約1cmの楕円形をしています。頚髄・胸隋・腰髄・仙髄・尾髄に大別されており、それぞれ8、12、5、5、1髄節を有し、各髄節から左右1対ずつの脊髄神経がでています。脊髄は外側より丈夫な結合組織である硬膜、薄い半透明なくも膜および軟膜と呼ばれる、3層の膜に包まれています。くも膜下腔は脳脊髄液で満たされています。

2.脊髄硬膜動静脈瘻(AVF)について

 心臓からでた血液は動脈を通って、組織、臓器の毛細血管から静脈を介して心臓に戻ってきます。しかし、何らかの原因で途中の組織、臓器などを介することなく動脈が静脈に直接つながってしまうことがあります。このような病態を動静脈奇形といい、脊髄に関わる動脈と静脈が直接吻合をしている病気を脊髄動静脈奇形といいます。
 静脈の圧は正常ではほとんど0に近く、ゆったりと流れています。ここに圧の高い動脈がつながると、静脈はふくれあがり、その結果、1)脊髄の血液の流れが滞り、血液循環障害により脊髄症状(後述)が進行したり、2)圧のかかった血管が破れ、くも膜下出血を起こしたり、3)脊髄や神経を圧迫したりするようになります。
 脊髄症状は障害を受けた脊髄の場所により異なりますが次のようなものがあります。

  1. 巧緻運動障害:箸を使う、ボタンを留めるなどの細かな作業がしにくい
  2. 下肢の筋力低下や筋緊張の亢進に伴う歩行障害:つまずきやすくなる、階段の上り下りが困難になる
  3. 知覚異常:しびれや痛みなど
  4. 排尿障害:尿がでにくい、漏らしてしまう、残尿感があるなどの症状があります

 硬膜動静脈瘻では一般にゆっくり脊髄症状が進行しますが、出血や急速に進行する脊髄梗塞のため四肢麻痺や対麻痺が急速に進行することがあります。術前の神経症状が進行した場合、手術も困難になり術後回復も思わしくないため早期診断・治療が望ましいと考えています。

治療方法
 治療はシャント部を閉塞し、動脈から静脈に直接血液が流れ込む状態を止めることです。一般的に脊髄硬膜動静脈瘻が最も治療が容易で、次いで脊髄辺縁部動静脈瘻、そして脊髄髄内動静脈奇形が最も困難になります。その方法としては大きく分けると血管内塞栓術と外科手術治療があります。
血管内塞栓術は、太ももの付け根から細い管(カテーテル)を入れ、血管の中からシャント部を詰めていきます。これは局所麻酔でも行うことができます。 外科手術治療は、外科的手術でシャント部まで到達し、これを直接確認して切断します。これは全身麻酔が必要となります。
 これらの使い分けは、病変のタイプや関与している血管などにより変わり、これらの二つの方法を併用して行うこともあります。脊髄髄内動静脈奇形のタイプは完治が非常に困難で、血管内塞栓術や外科手術などにより病変の一部を治療するにとどまっています。

外科手術方法
 全身麻酔をかけ、手術用顕微鏡下で行います。通常うつ伏せで背中の皮膚を切開し、背骨のまわりの筋肉をわけ、骨の一部分を削ります。手術前の検査と術中の所見からシャント部を確認しますが、実際はシャント部やその血管が非常に小さく、同定は容易ではありません。手術中に脊髄血管撮影を行って確認することもあります。正確にシャント部を同定し、同部を遮断すれば手術の目的は完遂です。しかしシャント部が複数ある場合も多く、1回の手術では全てを処置できない場合もあります。疑わしい血管を遮断してそれが正常な血管であった場合重篤な後遺症を残すことから、確実なものしか処置は行わず、手術後に再検査を行って再手術を行うこともあります。

術後経過
 手術後は脊髄の循環が大きく変化します。静脈の圧が正常に戻ったとしても、膨らんでいた静脈がしぼんで閉塞してしまうことがあります。手術後3-4日はこのようなことで症状が悪化することがあるので、血液が固まらなくなる薬を使うこともあります。術後7日目には抜糸し(血管内塞栓術では必要ありません)、その後カテーテル検査を行い、シャント部の残存がないかを確認します。
 問題なければ退院となりますが、再発の可能性もあることから定期的に外来通院し、MRIや必要に応じてカテーテル検査を行います。
なお、治療後に症状がどの程度改善するかは様々な要因により変わってきます。一般的に、治療までに時間がかかった場合、治療前の症状が強い場合(完全麻痺など)、出血により脊髄の障害を生じた場合などは神経症状が残存する可能性が高くなります。

3.退院の目安

 平均術後10日後に退院です。退院後も2週間程度の自宅療養を行い、退院後の生活に慣れてください。術後1月で通勤・通学を開始します。その後は日常生活に制限はありませんが、スポーツなどの開始時期は担当医にご相談ください。格闘技や背中に負担がかかるスポーツは控えてください。


このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療