手根管症候群

1.手根管症候群について

 正中神経(せいちゅうしんけい)は、手関節の掌側の真ん中にあり、手根管の中に存在しております。手根管は骨性の壁や靱帯によって囲まれたスペースのことで、本来は正中神経がゆったりと通過しています。

 手根管症候群とは何らかの原因で手根管の内圧が高くなり、手根管内に存在する正中神経が圧迫されて痛みやしびれを引き起こす疾患です。原因としては手関節の慢性的な運動からのものが多く、稀に外傷や手首の変形、妊娠時のむくみ、ガングリオン、静脈瘤などの圧迫によって起こる事もあります。また原因が特定できないこともあります。
 症状は手指、手のひらの痛みやしびれです。これらの症状は圧迫をうけた神経領域へ放散する痛みや異常知覚(ピリピリする、ジンジンする感覚)として訴えられます。また、しばしば痛みは夜間痛や運動時痛として認められます。診察では手根管部の圧痛やTinel徴候が陽性(圧迫された神経を軽く叩くと、神経の先に痛みがおきる)となり、手指や手のひらの知覚障害を認めます。

 レントゲン検査では特徴的な異常所見はありません。診断は神経伝導速度検査でほぼ確定します。治療はまず保存的治療(手術しない方法)を行います。日常生活動作の工夫、薬物療法としては抗炎症剤やビタミン剤を処方します。

 しかし、これらの保存的治療が効かず悪化する症例では手術的治療が検討されます。手術は靱帯の切離や正中神経剥離術を行い、神経圧迫の原因となっている組織を取り除きます。

2.手根管開放術について

 局所麻酔でお話をしながら約10分の手術です。切開は手根部ほぼ中央に約4cm行います。上腕部にタニケット(強力な「血圧計」)を巻きつけ一時的に手の血行を遮断して、ほぼ無血的に横手根靭帯(屈筋支帯)の切開を行い正中神経の減圧、必要ならば剥離を行います。前日または当日入院にて手術室で行います。傷は細い糸で縫合します。

 経過に問題なければ手術翌日に退院となります。手首、手指の運動は術直後から可能ですが、術後の血腫形成を防ぐため第1日目は術後数時間圧迫包帯をして過ごし、圧迫解除後も局所安静を続けるようにします。術翌日からは癒着予防のため、手首、手指の動作を再開します。手術4日目より傷は水道水やシャワー、お風呂で濡らしてかまいません。手根部から指先までの神経の回復は手術後1日1ミリとされ、指先のしびれが取れるのは約半年後のことが多いようです。一方、筋萎縮をおこした親指の機能回復は一般には困難なことが多く、筋萎縮の初期の段階までに手術を受けておくことをお勧めします。

◎ちょっとためになる話◎

ちょっとためになる脊椎脊髄と末梢神経の話2:手根管症候群について

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療