肺癌における光線力学的治療 (PDT: photodynamic therapy)

亀田総合病院・呼吸器内科では、肺癌に対する光線力学的治療(photodynamic therapy:PDT)を2014年10月に導入しました。

PDTは、中心型早期肺癌に対する標準治療の一つであり、2010年度の診療報酬改訂により進行肺癌による気道狭窄例にも施行可能となりました。

今後は、早期末梢小型肺癌に対するPDTの多施設共同試験も予定されています。

概念

光線力学的治療(photodynamic therapy: PDT)は、腫瘍親和性光感受性物質と低出力レーザー光により生じる光線力学的反応により殺細胞効果を引き起こす治療法である。
(J Natl Cancer lnst. 1998;90:889-905)

腫瘍親和性光感受性物質が有する光波長領域の赤色光に曝露されると、光エネルギーを吸収し、光線力学的反応が生じる。さらに励起状態(一重項状態)に転位し、これが基底状態に遷移する際のエネルギー転換時に生じる活性酸素が、細胞を変性・壊死に陥らせると考えられている。

最近の報告では、第2世代光感受性物質であるレザフィリンを使用したPDTにより、腫瘍径1.0cm以下、1.0cmを超える病巣に対するcomplete response(CR)率は、94%、90.4%と有意差を認めず、1.0cmを超える病巣に対しても強い抗腫瘍効果を有することが示された。
(Clin Cancer Res.2010;16;2198-204)

肺癌におけるPDTの適応

  1. 中心型早期肺癌
    腫瘍が区域気管支より中枢に位置し、気管支粘膜、粘膜下層に転移を有さない扁平上皮癌を中心型早期肺癌という。
    (J ThoracOncol. 2006;5:489-493)


    PDTの適応となる中心型早期肺癌は、日本光線力学学会、日本レーザー医学会にて作成されたガイドラインでは、「腫瘍の末梢辺縁が確認でき、1cm以下が望ましい。」「CT画像では無所見であること」と記載されている。
    (日本肺癌学会 EBMの手法による肺癌の診療ガイドライン 2010年版.
    東京:金原出版2010年)

  2. その他の肺癌
    2010年度の診療報酬改定により、PDTの適応は、「中心型早期肺癌」だけでなく、「その他の肺癌」も加わった。これにより、進行肺癌に対するPDTも保険上は問題なく施行可能になった。例えば、進行肺癌による気管・気管支を狭窄例もPDTを行うことは可能である。

必要物品

腫瘍親和性光感受性物質と低出力レーザーが必要である。

  1. 腫瘍親和性光感受性物質
    現在、本邦で保険収載されているものは、フォトフリン®(ポルフィマーナトリウム)とレザフィリン®(タラポルフィンナトリウム)の2種類である。フォトフリン®は、副作用である皮膚日光過敏が約4〜6週間続くため長期遮光を余儀なくされ問題であった。しかし、その後に第二世代のレザフィリン®が開発され、フォトフリン®と同等な成績を示しつつ、皮膚日光過敏の期間も1〜2週間程度で済むようになり、我が国では現在主にレザフィリン®が肺癌のPDTに使用されている。
    (lung cancer 2003;42:103-111)

  2. 低出力レーザー
    レザフィリン®に対しては664nmのダイオードレーザー(PDレーザー)が認可を受けている。

(当科におけるPDT施行中の様子)

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手技

当院で行っているレザフィリン®を用いたPDT手技について示す。

  1. 注射用レザフィリン®40mg/m2を静脈投与する。投与後は市販の日焼け止めクリームを塗布する。
  2. 4〜6時間後にレーザー照射(11分6秒)を施行する。患者と術者の目を保護するため専用のレーザーカットグラスをかけて手技を行う。
  3. 電子ファイバースコープのチャンネル内にレーザープローブを挿入し非接触照射を行う。病巣部位により直射と側射プローブを使い分ける。

*当院でPDTを受けられる患者さんは1週間の個室入院となる。入院時には照度計を貸し出し、レザフィリン®投与より2週間は500ルクス以下での生活を指導している。

(当科でPDTを施行した症例)

(蛍光気管支鏡観察にて右B3a入口部に粗造な隆起性病変を認め、直射プローブにて照射を行った。1ヶ月後に既知病変は退縮し内腔が開通した状態)

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合併症

PDTは低侵襲治療であり、気道出血や肺炎などの合併症は極めて稀である。

参考文献

浅野文祐編著 気管支鏡ベストテクニック p213-221 2012年中外医学社東京

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患