粟粒結核(Miliary Tuberculosis)

粟粒結核は、結核症の中でも重篤な病態です。

粟粒結核は、症状が非特異的な場合が多く、実臨床では、胸部CTでのランダムパターンのびまん性粒状陰影の出現が、診断の契機になることが多いです。

当院でも、最近経験しましたので、最新の知見をまとめました。


概念

・粟粒結核とは播種型結核ともよばれ、血行性に散布した2つ以上の臓器に病変が生じた結核をいう。

・米国では、2012年において結核患者の3.5%が粟粒結核であったと報告されている。これは2006年の1.8%という報告よりは軽度増加している。
(CDC Reported Tuberculosis in the United states 2012. Atlanta, GA: U.S.
Department of Health and Human Services, CDC, October 2013. p73
http://www.cdc.gov/tb/statistics/reports/2012/pdf/report2012.pdf

・米国における粟粒結核患者の増加は、HIV感染の増加が大きく寄与していると考えられている。また、多剤耐性結核の出現も、粟粒結核の増加に寄与している。
(Thorax. 2009 Dec;64(12):1090-5. Epub 2009 Oct 22.)
(Am Rev Respir Dis. 1991;144(4):745.)

・本邦においても、近年、粟粒結核の患者数が著増し、女性や、高齢者に多い。
(結核予防会結核研究所. 新登録患者-登録時病類, 性, 年齢階級別. 
結核の統計 2012. 東京:結核予防会;2012. p54)


粟粒結核の発症機序

1.初感染の進行
・肺への初感染と共にリンパや血液を介して播種する。血流の多い、肝臓、脾臓、骨髄、脳に好発する。
2.潜在的病巣の再活性化
・潜在する病巣が再活性化し、リンパや血液を介して播種する。初感染より数年から数十年後。
3.医原性感染
・対外衝撃破砕石術、移植、BCGの膀胱内注入療法など。
(J Urol. 1993;149(6):1532.)


粟粒結核のリスクファクター


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粟粒結核の症状

・非特異的で様々なパターンが存在する。数週間持続する発熱、体重減少、食欲不振、倦怠感など。
・症状が進行すると、病巣を生じた臓器ごとの特有な症状を示す。
・多くは、肺に血行性散布病巣を形成するので、高熱、息切れ、咳嗽、呼吸困難が生じてくる。



粟粒結核の検査所見

・血算では、正球性貧血、白血球数増加や減少。汎血球減少を認める場合もある。
(Postgrad Med J. 1987;63(743):801.)

・電解質異常では、低ナトリウム血症が多い。
(Rev Infect Dis. 1990;12(4):583.)

・粟粒結核の32%に無菌性膿尿(尿抗酸菌培養陰性)を認めたという報告されている。
(Rev Infect Dis. 1990;12(4):583.)

・また粟粒結核では、尿沈渣に異常がなくとも、尿抗酸菌培養が陽性になることがある。



粟粒結核の画像所見

・胸部X線写真では、2/3以上の患者が粟粒陰影を呈する。
(Am J Med. 1990;89(3):291.)
(Rev Infect Dis. 1990;12(4):583.)



・胸部CT(特にHigh resolution CT)では、血行性散布巣を反映し、いわゆる「ランダムパターン」のびまん性粒状陰影を認める。粟粒影が、胸膜直下や葉間胸膜にも及ぶことが特徴である。



(当院で経験した粟粒結核のHRCT所見。
右葉間胸水に加えて、ランダムパターンのびまん性粒状陰影を認める。
粒状陰影は胸膜直下や葉間胸膜に及んでいる。)

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診断へのアプローチ

1. まず粟粒結核を疑うことが重要
・肺結核患者において、肺外症状があるかを十分に評価することが重要である。
胸部X線写真による粟粒陰影や、胸部CTにおけるランパムパターンのびまん性粒状陰影の出現が、診断の契機になることが多い。この時は、癌の多発肺転移が同時に鑑別に挙がることも多く、並行して精査を進めることになる。


2. 粟粒結核が疑われた全て患者に、肺結核についての評価を行う
・未施行であれば胸部画像検査、そして喀痰の抗酸菌染色・培養、ツベルクリン反応を行う。胸部CT検査でランダムパターンのびまん性粒状陰影など異常所見があるけれども、喀痰で3回の抗酸菌染色が陰性の場合は、気管支鏡検査や胃液の採取を行う。
・抗酸菌の血液培養は採取すべきである。
(Scand J Infect Dis. 2011 Sep;43(9):696-701. Epub 2011 May 12.)

3. 次のアプローチは、結核の侵襲による臓器症状によって決定
・神経学的所見がある場合は、神経学的画像検査、腰椎穿刺を行う。結核性髄膜炎患者の1/3〜1/2が粟粒結核であり、粟粒結核患者の剖検では54%に結核性髄膜炎が存在したと報告されている。
(Medicine (Baltimore). 1980;59(5):352.)

・胸水、心嚢水、腹水がある場合は、試験穿刺と生検が勧められる。
・消化管、泌尿生殖器、骨、リンパ節の症状がある場合は、画像検査が推奨される。
・泌尿器の浸潤が疑われる場合は、尿の抗酸菌培養が迅速に行われるべきである。
肝生検は、粟粒結核の生検による診断において最も感度が高いと考えられている。2つのstudyで、肉芽腫が得られた頻度は、肝生検(91-100%)、骨髄生検(31 -82%)、経気管支生検(72-63%)であった。
(Am J Med 1990;89:291)
(Rev infect Dis 1990;12:583)

治療・予後

・肺結核の標準治療に準じる。ただし重症例なので維持期の治療を3ヶ月延長しても良い。 (日本結核病学会治療委員会. 日本結核病学会治療委員会委員会報告.
「結核医療の基準」の見直し-2008年.結核.2008: 83: 529-35)

・粟粒結核の致死率は20%と報告されている。
(Am J Med. 1990;89(3):291.)
(Rev Infect Dis. 1990;12(4):583.)

・中枢神経病変は独立した予後不良因子と報告されている。
(Rev Infect Dis. 1990;12(4):583.)

・経過中、結核性髄膜炎、結核性心膜炎を合併した場合、副腎皮質ステロイド剤を投与することが推奨されている。
(Clin Infect Dis. 1997;25(4):872.)
(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2003;52(31):735.)


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参考文献

1) 青島正大 編著.結核診療パーフェクトガイド. p104-105 中外医学社2015年東京
2) John Bernardo, MD. C Fordham von Reyn, MD.Epidemiology and pathology of extrapulmonary and miliary tuberculosis. Up To Date. last update 2014 Feb
3) John Bernardo, MD. C Fordham von Reyn, MD. Clinical manifestations, diagnosis, and treatment of extrapulmonary and miliary tuberculosis Up To Date. last update 2015 Feb

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患