非結核性抗酸菌症(MAC)の抗体診断:キャピリア®MAC 抗体 ELISA

中年以降の女性が、慢性的に咳嗽や喀痰などの呼吸器症状があり、胸部CT上、中葉舌区に気管支拡張や小葉中心性粒状陰影を認める場合は、肺MAC(Mycobacterium avium complex)症が疑われます。
喀痰で菌が検出されず、気管支鏡で確定診断をつけにいく場合がありますが、気管支鏡でも菌の検出は必ずしも容易ではなく、高齢者のため気管支鏡が躊躇されるケースがあります。

そのような場合に、血液検査でMACの補助診断が可能になりました。
2011年8月からキャピリア®MAC 抗体 ELISA として保険診療で使用することができます。

亀田総合病院でも、外注で使用できるようになっており、まとめてみました。

概念

・キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、非結核性抗酸菌の細胞壁を構成する糖脂質抗原であるGPL(Glycopeptidolipid)の部分において、結核菌やM.kansasii菌以外の非結核性抗酸菌が共通に持つGPL-coreを抗原とする血清中のIgA 抗体を測定する方法である。

GPL(Glycopeptidolipid)とは?

・GPL は従来、MACの血清型を規定する抗原であることが知られてきた。MACの血清型はSchaeferらの分類によると28種類あるとされており、地域的な分布の差異や、病原性の違いが報告されている。
(American Review of Respiratory Disease. 1965 ; 92 (Suppl.) : 85_93.)

・血清型は共通部分であるGPL-coreのスレオニン残基に結合する各血清型特異な糖鎖によって規定される。GPL-coreは血清型やM.avium, M.intracellulareの菌種にかかわらず共通した抗原性をもつことかが確認されている。

・結核やM.kansasiiの細胞壁には存在しないが,M.abscessus,M.chelonae,M.fortuitumなどの迅速発育菌にGPLを有する菌種が存在することには注意が必要である。

成績

・本邦の多施設共同研究では、肺MAC患者70名、肺結核患者、37名、その他の肺疾患患者45名、環境からの混入と考えられた者18名、および健常者76名を対象とし、血清抗体価は肺MAC症群で有意に上昇しており、カットオフ値を0.7U/mLとすると肺MAC症の診断的有用性は感度84%、特異度100%であった。
(Am J Respir Crit Care Med. 2008 ; 177 : 793_7.)

・本邦で行われた関節リウマチ患者の気管支病変とMAC症との鑑別に関する研究では、63名の関節リウマチ患を対象とし血清抗GPL-core IgA抗体価が測定された。対象の内訳は、肺MAC症 14名、MAC以外のNTM症 3名、気管支拡張所見を有する患者 16名、胸部異常所見のない患者 30名で、カットオフ値を0.7U/mLとすると、感度47%、特異度100であった。

(Mod Rheumatol. 2011;21:144-9)

・米国で行われた検討では、肺MAC症 100名、健常ボランティア 52人を対象とし、カットオフ値 0.3U/mLでは感度 70.1%、特異度 93.9%であった。一方で日本で使用されているカットオフ値 0.7U/mLを当てはめると、感度51.7%、特異度93.9%と感度が低値であった。著者らは、カットオフ値 0.7U/mLの感度が低くなった原因として、対象とした患者の菌種の違い、疾患活動性、異なる人種で行った事を挙げている。

(Eur Respir J. 2013 Aug;42(2):454-60.)

最後に

・キャピリア®MAC 抗体 ELISAは、特異度は高いが、感度は十分に高いとは言えず、たとえ, 検査が陰性でもMAC症を否定できるものではなく, あくまでも補助的診断と位置づけるべきである。また、環境中のMAC暴露による偽陽性の報告もある。

・菌種の同定や感受性検査のためにも、基本的には、喀痰培養や気管支鏡検体による培養が重要と考えられる。

非結核性抗酸菌症(MAC)の抗体診断:キャピリア®MAC 抗体 ELISA

参考文献

北田清悟ら。3.MAC症診断における血清診断法(妥当性と臨床データ)。結核 第87巻 , p439-441; 2012年

このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患