肺炎球菌ワクチンのアップデート1:定期接種化されたニューモバックスNP®(PPV23)とは?

肺炎球菌ワクチンに関しては、昨年大きな動きがありました。

小児で使用されていた沈降13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13: プレベナー13®)が平成26年6月20日に、65歳以上の者に対する肺炎球菌による感染症の予防の効能・効果が承認されました。

平成26年10月1日から、高齢者を対象とし23価肺炎球菌胸膜ポリサッカライドワクチン(PPV23: ニューモバックスNP®)が定期接種化となりました。

肺炎球菌ワクチンに関する最新情報について、2回に分けて書かせて頂きまaす。
本稿は、定期接種化されたPPV23(ニューモバックスNP®)についてです。

肺炎球菌感染症とは?

・肺炎は先進国における感染症による死亡の最も多い原因である。肺炎は、わが国では、2011年に悪性新生物、心疾患に次いで死因の第3位に浮上した。肺炎球菌は成人の市中肺炎の原因の20-40%を占める。

(Lancet. 2009;374:1543-56.)
(厚生労働省 人口動態統計月報年計(概数)の概況(2011年))

・血液や髄液などの無菌検体から肺炎球菌が検出される病態を侵襲性肺炎球菌感染症(IPD: invasive pneumococcal disease)と呼び、特に小児や高齢者にとって重大な問題である。IPDの死亡率は約17%で、約2/3は血液培養で肺炎球菌が検出されてから死亡までの時間が72時間以内である。

IPDの発生頻度が高い群は、HIV患者、65歳以上、2歳未満である。死亡率が高いのは65歳以上の群で、特に合併症を持つ患者である。

(Centers for Disease Control and Prevention. Active Bacterial Core Surveillance (ABCs) report、 Emerging Infections Program Network Streptococcus pneumoniae、 2010. Available at:http://www.cdc.gov/abcs/reports-findings/survreports/spneu10-orig.pdf)

23価肺炎球菌胸膜ポリサッカライドワクチン(PPV23: ニューモバックスNP®)とは?

・肺炎球菌は爽膜多糖体の抗原性により、現在93種類の血清型に分類されている。PPV23は、23種類の血清型の莢膜多糖体が含まれたワクチンである。肺炎球菌感染症の85-90%をカバーすると言われている。

(MMWR Recomm Rep. 1997;46(RR-8):1)

2013年コクラン共同計画のメタ解析では、PPV23は、全血清型のIPDを74%減らし、ワクチン型のIPDを82%減少させたと報告している。また全肺炎を28%減らしたが、全死亡は減少しなかった。

(Cochrane Database Syst Rev. 2013 Jan 31;1:CD000422.)

・日本呼吸器学会が示した肺炎球菌ワクチン(PPV23:ニューモバックス®)接種の適応を下記に記す。

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・PPV23による予防効果は約5年間期待され、初回接種から5年経過した症例には再接種が推奨される。複数回の再接種については現段階では利益と安全性が十分確立されていないため推奨されていない。

(MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2010 Sep 3;59(34):1102-6.)

PCV23の接種率は米国の約60%と比較し、2013年時点でわが国では18%と、先進国では最低の水準であった。接種率向上を目指し 2014年10月より定期接種化された。

・下記が本邦における定期接種の方針である。

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まとめ

・PPV23の接種率が低い本邦において、定期接種が開始され接種率の向上が期待されるが、定期接種の対象は上記のように5歳刻みとなっており、本来接種すべき65歳以上の者全員が毎年定期接種の対象になるわけではない。

・その年の定期接種の対象にならない患者であっても、65歳以上であれば、肺炎球菌ワクチンを接種するのが望ましいと考えられる。

* 補足:定期接種化における問題点

定期接種化に伴い、もともと任意接種に対して公費助成が行われていた自治体の多くで、助成が打ち切られてしまった事実がある。つまり、もともと公費助成がある自治体では、5歳刻みという制限がなく、自治体が指定した対象者全員が、公費の補助により肺炎球菌ワクチン接種が可能であった。しかし、現在の定期接種化により、公費助成が打ち切られてしまった自治体では、65歳からの5歳刻みでしか助成が得られなくなってしまった。本来ならば、5歳刻みという制限なく、65歳以上の対象者全員が定期接種の対象となるのが望ましいと考えられる。

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このサイトの監修者

亀田総合病院
呼吸器内科部長 中島 啓

【専門分野】
呼吸器疾患