当科の特徴


診療方針

コンサルタントとしての関わり

私たち疼痛・緩和ケア科(緩和ケアチーム)では、限られた医師のマンパワーの中で私たちの専門性をより多くの患者さんに効率的に還元するため、当院他科でなんらかの基礎疾患に対して加療中の方を対象に、外来および入院でコンサルテーションを行う形で診療を行っています。

また、疼痛・緩和ケア科(緩和ケアチーム)とは別組織として、院内における緩和ケア関連領域の様々な治療やケアに関して民主的に話し合う場として、緩和ケア運営委員会を設けています。委員会は各部門多職種メンバーの他、リンクナース、コンサルト依頼元の医師で構成されており、全員の合議により「全患者に必要な緩和ケアを提供し、つらい患者さんを減らそう!」という共通目標を掲げています。

各診療科には、各疾患に伴う様々な苦痛の緩和をまずはその診療科レベルで行っていただきます。これがいわゆる、現場レベルの全員参加の緩和ケア(一次緩和ケア)です。当科では、一次緩和ケアを行っても患者・家族の苦痛が大きく対応困難となったケースについて、基礎疾患名に関わらず全ての診療科から緩和ケアコンサルテーションを受ける方針としています。

コンサルテーション・エチケット

主治医として患者(家族)と関わるのではなく、コンサルテーション方式で患者(家族)に関わる場合には、コンサルテーションエチケットという作法を知っておく必要があります。詳細は日本緩和医療学会作成「緩和ケアチーム活動の手引き」https://www.jspm.ne.jp/active/pdf/active_guidelines.pdf にも記載されています。

コンサルテーション・エチケットにおける10の原則 ※

  1. 何が問題かを明確にせよ:「Xさんの件ですが、どういう介入が必要ですか?」と聞け。問題点を明らかにせよ。
  2. 緊急度を判断せよ:「緊急症例、準緊急、待機的症例」にわけるべし。緊急度を判断せよ。
  3. 自力で情報収集せよ:コンサルト目的に焦点をあてた丁寧な問診、診察をせよ。自身で情報を収集せよ。現病歴を聴取し、徹底的な身体診察を行う。
  4. 簡潔を心がけよ:コンサルトの答えはアセスメントと推奨に絞るべし。簡潔を心がけよ。
  5. 具体的であれ:目的が明瞭な推奨をせよ。具体的であることを心がけよ。目的のはっきりとした推奨を行う。
  6. 先を読め:予測される事態に備えて救済策をたてよ、先を見据えよ。不測の事態に備えた対応策を計画すること。
  7. 相手の領分を尊重せよ:依頼された問題点のみに忠実であれ。相手の領域を尊重せよ。
  8. 教育すべし、ただし気配りをもって:全コンサルテーションを教育、チームの宣伝のチャンスととらえよ。
  9. 顔の見える関係を作れ:依頼医への連絡は直接しなさい。個人的な関係を築け。
  10. 推奨に責任をもて:定期的にフォローせよ。自分の現在の役割や、いつその役割を降りるかも含めて継続してフォローしていくこと。

※吉本鉄介 日本の緩和ケア「不都合な真実と解決策」関根龍一、八重樫牧人(編)ホスピタリストvol.2 No.4 特集緩和ケア 全入院患者に緩和ケアを P1048-1053 メディカルサイエンスインターナショナル 2014年

コンサルテーション活動の他者評価のため、定期的に依頼元診療科にアンケートを実施し、依頼医のニードと私どものコンサルテーション活動が合致しているかどうかチェックし、改善策を講じるよう努めています。

疼痛コントロール方針

<全病院的なスクリーニングと疼痛評価>
当院では、痛みを第5のバイタルサイン(5th vital sign)ととらえ、全入院患者に対するNRSを用いた1日3回(各勤務帯)の疼痛評価を病棟看護師の日常業務に取り入れて実践しています。疼痛スクリーニングシートによるフローチャートにより、NRSスコアが高い患者には現場でアセスメントが行われ、通常の現場対応で痛みが緩和できない場合には、病棟リンクナース経由で緩和ケアチーム看護師へ連絡が入り、対応策を検討します。病棟での疼痛アセスメントの段階で疼痛管理に専門的介入が必要と判断された場合は、緩和ケアチーム(ケースバイケースでペインクリニック科にも相談)にコンサルト依頼が検討されます。

外来化学療法センター通院中の患者さんに対しては、疼痛と苦痛症状のスクリーニングの実施とその運用を開始しており、強い苦痛が放置されることがないように対策を強化する取組みを行っています。がん以外の外来患者に関しては、それぞれの診療科の問診票の中に痛みのスクリーニング項目があり、疼痛が強い患者のスクリーニングとアセスメントが行われます。

2010年より全入院病棟を対象に、オピオイドオーディット(監査)活動を週1回定期的に実施しています。この活動により、オピオイドの適正使用に関して病院横断的にチェックすることが可能となっています。

<術後疼痛管理とその他の急性痛(および慢性痛の急性増悪)への対応>
術後鎮痛は、基本的に麻酔科と外科系診療科、ICU入室者は集中治療科によって管理されますが、術後疼痛プロジェクトを数年前から継続しており、術後疼痛改善のための継続的取組みを実践しています。具体的には、E-PCA, IV-PCAの安全かつ効果的な運用とその継続的評価をPDCAサイクルを用いて改善する取り組みです。術後疼痛が標準的ケースから離れて遷延したり、苦痛が強い場合には、緩和ケアチームもサポートしています。

術後疼痛以外の急性痛の原因病態として依頼が最も多いのは、がん性疼痛(侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、混合性疼痛)です。がん性疼痛にはWHOがん疼痛治療法を念頭に対応します。痛みや苦痛の大きさによっては、内服オピオイドでは除痛が追い付かない場合も多くみられ、そのような場合にはオピオイドの注射剤を用いて、迅速な除痛を目指します。オピオイドの用量を副作用が許容できる範囲で増量し、まずは安静時痛のコントロールを目指します。

安静時痛が安定した後も、様々な突出痛が残存します。代表的な病態は、椎体骨への骨転移痛です。このような突出痛のマネジメントは各種ガイドラインに沿って行いますが、痛みのメカニズム(病態)を考慮し適切な鎮痛剤を選択すること、予測できる突出痛の場合には、予防的なレスキュー使用を上手に活用することを患者(および家族)にしっかり指導、教育します。

がん疼痛でも薬物治療のみですべての痛みが軽減するわけでありませんが、痛みと眠気のバランスを天秤にかけて、処方内容の最適化をはかります。様々な抗がん治療を行っている、行っていないにかかわらず、入院、外来の両方で患者のニードに応じて主治医チームと併診する体制を敷いています。

がん疼痛以外の急性痛の病態としては、ASO(動脈硬化性閉塞症)や糖尿病性壊疽による下肢の疼痛、リウマチ関連疾患による難治性疼痛、骨粗しょう症による椎体骨圧迫骨折関連の疼痛、脊椎椎体炎等、脳梗塞後疼痛等でコンサルトを受けることが多いです。非がん疾患も、基礎疾患に対する疾患特異的治療を行っている場合が多いですが、疾患特異的治療によっても十分な除痛できずQOLに大きな支障がでている場合などは積極的な疼痛管理のサポートを行っています。

 

以上、まとめると、急性痛で苦痛が強く、患者のQOLに大きな支障をきたす場合では、オピオイドも積極的に使用に使用し、痛みが慢性化しないように努めます。なお、非がん疾患の急性痛でオピオイド治療を開始した場合では、基礎疾患の改善に伴い、オピオイド用量は減少し、漸減の後中止できる場合が多いです。ただ、患者によっては、オピオイド減量が困難で、オピオイドを長期的に処方することが必要となる場合もあります。このような場合では、外来でオピオイド治療を安全に行う必要がでてくるため、退院後も疼痛・緩和ケア外来で慢性痛のサポートを行います。

<慢性痛へのアプローチ>
一日のうち大半の時間に痛みがあり、これが3か月以上続く場合を慢性痛と定義します。場合によっては痛みが年単位以上続くケースも少なくありません。慢性痛では、NRSが高値で推移しがちで、薬剤を用いてもNRSが低下しない場合も多く見られます。患者が表現する苦痛の大きさとしてNRSも大切なモニター項目ですが、薬剤調整の判断は、NRS以外の全体的状況(食事摂取量、睡眠、ADLなど)も検討しながら行います。また、慢性痛では全人的苦痛の割合が多くなる傾向にあるため、がん患者における全人的苦痛と同様のアプローチで、身体面、心理面、社会面、スピリチュアル面の4つの側面から患者の痛みや苦痛をアセスメントし、薬剤マネジメントに加え非薬物的なアプローチ(リハビリ、心理カウンセリング、認知行動療法的アプローチ、代替療法(CAM)など)も合わせて、バランスのよいマネジメントをチーム医療の中で実践していきます。

(関根)