膀胱腟ろうの治療方針は?

【卵巣がん術後の膀胱腟ろうについて】

症例:40歳+α
現病歴:
 両側付属器切除術・子宮全摘後・大網部分切除後、10日目に尿漏れを自覚
 約1か月後の診察で膀胱腟ろうの診断、膀胱留置カテーテルにて自然閉鎖を期待され留置。その後、化学療法を6コース。
 自然閉鎖しないため、術後9か月目に当科紹介受診。尿管口から離れた後壁に瘻孔認めた。
2023年7月【腹腔鏡下膀胱腟ろう閉鎖術+S状結腸垂充填】
 術後6日目に膀胱留置カテーテル抜去、術後7日目退院
 1か月目の尿失禁もなく、膀胱鏡で結石等なく経過良好。

【腟から挿入したカテーテル周囲の瘻孔部の不良組織を切除】

【膀胱と腟の縫い代を作る】

【腟、膀胱をそれぞれ縫合(膀胱は粘膜、筋層をそれぞれ2層で縫合、縫合はテンションフリー)ののち瘻孔部の膀胱腟間にS状結腸垂を充填する】

【1か月後の膀胱鏡】

【考察】
膀胱腟ろうによる尿漏れはQOLを著しく低下させます。約9か月目に膀胱留置カテーテルが抜けた時の喜ばれている様子を目の当たりにすると、大変な手術であったことは吹き飛びます。
経腟からアプローチするのか、経腹的に行うのか、充填するものは何を使うかなど多数のオプションと癒着や尿管口に近い時どうするかなど不安要素も多いことかと思います。尿管靱帯よりも尾側なら経腟、尿管口に近い、後壁なら腹腔鏡下が良いように感じています。もちろん、放射線治療や肥満など条件が変わると戦略も変わります。いかなる時にも対応できる引き出しをいくつ増やせるかが臨床家には必要だと思います。
膀胱腟ろうは婦人科悪性腫瘍手術後の1%以上に起こる決して少なくない疾患です。1)病院情報局の2021年のデータから①卵巣・子宮付属器の悪性腫瘍の手術は約10000件、②子宮頸・大部の悪性腫瘍の手術は約20000件の合計約3万件となります。1%だと約300件/年が本邦で起こっている可能性があります。海外より手術の合併症は少ないとは思いますが、珍しくない泌尿器科疾患ととらえることもできます。今後はロボットでの膀胱腟ろう修復術などが日本でも行われるかもしれません。2)経腟、経腹、腹腔鏡下あるいはロボット、膀胱外あるいは膀胱内アプローチで行うにせよ大事なことは次のことに尽きると思います。
1953年Couvelaireらは、1.視野確保、2.きれいな剥離、3.きれいな縫い代の確保、4.テンションフリーでwater tightに縫合、5.血流の良いFlap組織の利用、6.術後、尿のドレナージが重要としています。

参考文献
1) Angioli R, Penalver M, Muzii L, Mendez L, Mirhashemi R, Bellati F, Crocè C, Panici PB. Guidelines of how to manage vesicovaginal fistula. Crit Rev Oncol Hematol. 2003 Dec;48(3):295-304.
2) Couvelaire R. Reflections on a personal statistics of 136 vesicovaginal fistulas. Journal d'urologie médicale et chirurgicale. 1953;59(3-4):150.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術