テニスを再開:腎瘻生活からの回帰

先日、嬉しい報告がありました。
以前に70代の女性で子宮がん術後に尿管損傷のため腎瘻生活をされていた方のことを書きました。その当時、当院に相談の上あきらめるつもりだったそうです(腎瘻のまま生活していく)。この方は総腸骨血管との交差部より頭側での損傷であったため、なんとかBoari Flapで修復し6か月間問題なかったのですが、同部位が再狭窄し、再度腎瘻造設ののち、回腸尿管を利用しステントフリーとなりました。
がんの再発もなく、経過良好でお仲間の誘いもあり3年間ぶりに大好きなテニスを再開するまでなられました。復活されたものの、無理をし過ぎてテニス肘になったと報告を受けました。重なる手術は大変だったと思いますが、腎瘻生活から大好きなテニスの再開はなかったと思うと、手術を受けて頂き良かったと心から思えます。

2020年にロシア、イルクーツク州立医科大学より、医原性尿路損傷についての論文を紹介したいと思います。1)ロシアとウクライナ問題は中々先行きが見えませんが、ロシア人もウクライナ人も人レベルだと戦争しなくて済むはずなのですが、人がたくさん集まった組織や国となると間違いが起こりやすくなるのは不思議でなりません。
最近では低侵襲手術、内視鏡、腹腔鏡、ロボットなどの手術が従来の手術と同じあるいは優れているとの評価であるが、尿路損傷の数は増えていると指摘しています。手術(内視鏡縫合、クリッピング、高エネルギーディバイス、レーザー、電気剥離装置、凝固装置、止血操作など)で隣接する臓器損傷に気づかないためです。そのため術中に見つからず、術後遅れて発見され、重大な合併症となる可能性があります。

そして、産科医、婦人科医、外科医、泌尿器科医などの診断、治療介入を行う専門家のトレーニングが必須で、予防的処置(カテーテル挿入、インジゴカルミン、X線造影、光ガイドなど)の考慮や治療介入のタイミングや方法(もし虚血部などあれば、高気圧酸素や修復剤、血流改善薬投与)なども検討されるとしています。
また、尿路損傷の見落としは様々な患者への負担を強いることになり、長期間の収入減、多段階治療、ストレス、抑うつ、自殺リスクは重い経済的、道徳的そして倫理的側面に個人や社会に圧し掛かかります。
尿管損傷の修復術には尿管ステント留置術ですが、16‐19%程度の有効性で限定的です。損傷部位が2‐3㎝なら直接吻合、上部尿路なら尿管腎杯または腎盂の一部との吻合などが検討されます。骨盤内尿管は尿管膀胱新吻合やBoari FlapなどPsoas hitchと組み合わせます。膀胱尿管逆流処置は再狭窄があるため個々に選択するとしています。骨盤内での再建成功率は85-95%ととても良い成績です。
欠損部が長い場合は腸管利用や自家腎移植が検討されます。

ロシア、イルクーツク州立大学からの論文で、とても良いサマリーをしてくれています。集団心理、集団的思考から少し一歩下がって物事を捉える勇気や行動が社会への貢献につながるのではと感じるこの頃です。

【参考文献】
1)Urinary System Iatrogenic Injuries: Problem Review.
Vorobev V, Beloborodov V, Golub I, Frolov A, Kelchevskaya E, Tsoktoev D, Maksikova T.Urol Int. 2021;105(5-6):460-469. doi: 10.1159/000512882. Epub 2021 Feb 3.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術