尿漏れがない前立腺全摘とは

機能的尿道長、Rocco縫合、Retius温存、神経血管側温存、前壁補強など前立腺全摘除術に伴う尿失禁についてたくさんの議論があります。ロボット手術は開腹より尿漏れが少ないなどなど、よく耳にしたり教科書などで勉強されていることだろうと思います。テクニックや新しいデバイスばかりに目が行くと、本当に見なくてはいけないことに気づかないことがあります。その一つが前立腺全摘除術後の尿失禁の捉え方とも言えます。
前立腺全摘除術後のPPI(post prostatectomy incontinence)はロボット手術といえども起こっていますよね?
2019OhらはRARP後の骨盤底トレーニングデバイスの介入で1か月後の24時間パットテストで介入あり71.0 g vs 介入なし120.8 gで有意差があったと報告しています。1)

先日Thammasat Universityの講演で、尿禁制を保つための手術メージをお話ししたところ、とても良かったと好評でしたので、説明したいと思います。

221024img1.png 図1

221024img2.png 図2

図1は6時方向の尿道がまだ前立腺とつながり切断前の尿道です。尿道が引き延ばされ内腔の粘膜ひだも引き延ばされパッキン構造が弱くなっていることがイメージできます。
図2は切断後、尿道は括約筋の中に縮み込み尿道粘膜ひだの厚みが増しパッキン構造を維持できているはずです。(縫うのが難しくなります。あんなに尿道長く残したのにと悲しくなる時がありますよね)
機能的尿道長の温存ができた後の尿禁制を保つカギとなるのは、いかにこのパッキン構造を壊さないか(図2の状態)になるはずです。
図3のように肛門挙筋と尿道をしっかりとかけてしまっては1年以上尿失禁が続くとIRCADで教わりました。当然と言えば当然です。糸が吸収され、もとの構造に戻るのに時間を要するからです。縫合糸が溶ける時間と尿禁制は連動していませんか?

221024img3.png 図3

尿道と膀胱を縫合できても膀胱が尿道を牽引してしまえば、尿道粘膜のパッキン構造が壊れる可能性があります。ですから運針の深さや強さにこだわります。一旦尿漏れがおこってしまうと「骨盤底筋トレーニングしましょう」と言うことしか外来で言えなくなってしまいます。
筋肉ばかりに目がいっていると、気づかなかったはずです。実は尿道粘膜の構造を理解することが大事だということに気づいて欲しいと思います。括約筋内の尿道粘膜の構造をいかに維持するか考えるとどのような縫合がよいのか答えはでてきませんか?

【参考文献】
1)Effect of personalized extracorporeal biofeedback device for pelvic floor muscle training on urinary incontinence after robot-assisted radical prostatectomy: A randomized controlled trial.
Oh JJ, Kim JK, Lee H, Lee S, Jin Jeong S, Kyu Hong S, Eun Lee S, Byun SS.Neurourol Urodyn. 2020 Feb;39(2):674-681.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術