奥見 雅由先生 〜亀田総合病院 腎移植の導入から現在〜

本邦で、腎移植を提供できる施設は年間数例から100例以上と幅があり、経験の多い施設、少ない施設があります。経験値のある移植医がいるか否かで治療成績にも関わってきます。腎移植は泌尿器科医あるいは外科医が携わる訳ですが、前立腺がんや直腸がんのように誰しもが日常診療を行っているだけでは携わることがない領域(ニッチ)です。ですから、腎移植の治療技術をつけたいと思うか思わないか、思ったらどこでトレーニングを行うのか、誰に教わるのか、いろいろなハードルを乗り越える必要があります。もちろん泌尿器科医になったらハードルなくいろいろな診療ができるようになると言っているわけではありません。

当院では地域の基幹病院でありながら腎移植が施行できていませんでした。南房総地域を支える亀田総合病院を受診される慢性腎不全の患者さんの中には片道1時間かけて血液透析をされている方もいらっしゃいます。週3回の血液透析を行うと社会生活に影響が出ることもあり、腎移植が南房総地区の福音となればとプロジェクトがスタートしました。新規手術を導入する際に、導入を手伝っていただく必要があります。当科の方針として、「実力NO.1の先生に習う!」としています。

腎移植と言えば東京女子医科大学を皆思い浮かべることでしょう。年間症例数は断トツと言えます。ここで症例数=手術技術No1とは一概には言えませんが、導入するからには技術力No1であることが望ましいと考えています。「実力」とは「自分ができる」とアピールする人ではありません。あくまでも人から認められる実力がある人です。

奥見先生との出会いは2015年6月9日東京女子医科大学の泌尿器科医局のラウンジでした。大阪大学のラグビー部OBとのことで、大阪医科大学の泌尿器科はほぼラグビー部と言うこともあり先輩方の話題で盛り上がりました。
この時、腎移植のドナー腎摘を腹腔鏡で観るのは初めてでしたが、洗練された手術手技、手順、器具の選択などなど、とてもきれいにまとまっており感銘を受けました。この腎移植技術を当院に移植(導入)しようと決めた時でもありました。

あれから7年が経ちました。今回の移植腎は400gを超え、とても難しいドナー腎摘となりましたが、脂肪が多いことや癒着の状況、腎が非常に大きく視野展開が難しい症例でした。間の取り方や攻め方などその場に居合わせないとわからない細やかさを学ぶことができました。若手にはとても良い刺激なります。手術を導入する際、手術が上手いばかりでなく、結局のところ「人柄」が最も大事なのではないかと思います。手術における「人柄」とは?1.相談しやすい、2.人を惹きつけ、サポート力を引き出す、3.手術指導の的確さ、4. 何かあった時に駆けつけてくれるなどだと思います。一度当院でも移植後に血腫ができ、血腫除去に駆けつけて頂いたことは有難い記憶として鮮明に覚えております。

当院の腎移植は、ドナー腎摘は奥見先生を毎回招聘しています。奥見先生は、2020年4月より大阪大学人事に戻られ、現在は大阪警察病院泌尿器科に勤務されています。当院での生体腎移植の際には、毎回大阪より来て頂いています。レシピエントの腎移植は東京女子医科大学腎外科出身の矢嶋先生、7か月間東京女子医科大学に留学した越智先生が担当します。腎臓内科医師も手術中の様子を観られ、初尿開始時間や腎の血流、手術中の血圧や薬剤などチェックされています。高梨コーディネーターも手術を見守ります。手術後はICUにて集中治療科により全身管理が行われます。当院の腎移植医療を支える体制は充実していると感じています。

以前の東京女子医科大学では泌尿器科、腎移植外科それぞれ年間100例を超える症例をされていた時代がありました。奥見先生は泌尿器科、矢嶋先生は腎移植外科出身で同世代です。奥見先生は腎移植臨床のリーダー的な存在でした。 
現在は奥見先生と矢嶋先生が亀田総合病院でコラボレーションし、レベルの高い腎移植が提供できることは嬉しい限りです。時代のいたずらなのか、運命なのかわかりません。お二人が腎移植医療を実直に実践され発展させてきたことは臨床経験を積んだ医師であれば十分に感じ取れると思います。
飛び込む勇気、続ける努力、磨き続ける力、揉まれても負けない心、期待以上の成果をあげて来られたからこそ皆から信頼が得られます。そして何よりも患者さんのために頑張ってこられたからです。そのような先生たちからは隠さずとも滲み出ています。私ならこの先生たちに身体を預けれると感じる先生たちです。
皆さんが手術を受ける時にどんな先生に手術を受けたいのか想像してみると良いですね。人に選ばれる先生を目指すのも一つではないでしょうか。時に外にばかり行ってと後ろ指さされていることもあるかも知れませんが、奥見先生のようにいろいろな所から呼ばれるくらいの技量を持つ先生を目指して欲しいとも思います。もちろん、知る人ぞ知る先生も間違いなく大事です。

220419img1.jpg 奥見 雅由 医師

220419img2.jpg 矢嶋 淳 医師

220419img3.jpg ベンチで移植腎を整える。
 手前:矢嶋 淳 医師 奥:越智 敦彦 医師

220419img4.jpg 高梨コーディネーター

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このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術