PSA高値を説明できていますか?

PSA(Prostate Specific Antigen)高値の方は検診や人間ドックで正常範囲より高いと指摘され外来を受診されます。PSA基準値をそれぞれ50-64歳は00.0-3.0ng/ml、65-69歳は0.0-3.5ng/ml、70歳以上は0.0-4.0ng/mlを超えると受診を勧められています。1)
泌尿器科を受診されるわけです。
このような状況は日常臨床でよく遭遇しますね。

  1. 問診で排尿症状の訴えなし
  2. 直腸診は問題なし
  3. エコーやMRIで前立腺がんの指摘なし

こんな流れがほとんどでしょう。
「それではまた3ヶ月後あるいは6ヶ月後PSA測定しましょう。あるいは、また検診で高かったら受診してください」こんな説明をされることが多いのではないでしょうか。

そもそも、前立腺がん診断のためのPSA検査だから、がんが疑われなかったら、それ以上詮索の必要なしと考えてしまいがちですし、必要がないのかもしれません。
しかし、「なんでPSA値が高くなったの?」「PSAを下げる方法は?」「3ヶ月後のPSA横ばいだけどこれでいいの?」などなど患者さんの質問攻めに嫌気がさす瞬間がありませんか?PSAの高くなる原因を最初に説明しておけばこんな質問も少なくなります。

PSAが高値になるメカニズムをある程度理解し、説明する準備をしておくこともとても大切だと感じています。
「PSA高値は前立腺の病気の可能性がある」とまず説明しています。

そもそもPSAは前立腺の細胞で作られるタンパク質の一つで、前立腺の細胞にしかないタンパク質ですね。ですからProstate Specific Antigen(前立腺特異抗原)と呼ばれています。PSAは前立腺細胞内に大量に存在します。細胞が壊れることでPSAが漏出し、血管内にも流れていくため採血でPSA高値となります。「PSAが血管内にたくさんある=前立腺の組織(細胞)の破壊があった」と考えられます。みかんの粒々を噛むと果汁が出てくるお話をしています。

では、前立腺組織(細胞)が破壊される状況とは?いかがでしょうか?年齢とともに進む前立腺肥大症が1番にあげられます。(図2)前立腺肥大症は良性疾患ですが、良性細胞の無秩序な増成のため前立腺内に肥大結節を形成し排尿障害をもたらす疾患です。細胞増殖すると古い細胞は壊れていきます。ターンオーバーが原因ですね。PSAの上昇は緩徐です。 排尿障害がない前立腺肥大症ももちろんありますが、実際、質問を変えてみると前立腺肥大症の診断に行き着くこともしばしばです。「若い時の排尿と比べて今の尿の勢いはいかがですか?」と質問をぶつけてみてください。かなりの確率で「そりゃー、若いときに比べたら6割くらいかな」とまだ見栄を張って答えが返ってくることも多々です。尿流量検査や残尿測定をおこなってみると、医療介入が必要な状態もしばしばです。
2番目には前立腺炎(急性、慢性)でしょう。細菌やウイルスあるいは非特異的に前立腺組織が壊されてしまう場合です。検診の前に発熱があったと証言されるときもありますし、再度PSAを測定すると基準値以下になっていることで診断がつきます。(図3)PSAが100近くになるケースもあります。急激な上昇で急速に正常値に戻ります。
3番目に皆様が良く勉強する前立腺がんですので、説明はいらないくらいでしょう。がん細胞は増殖が早くターンオーバーが早いこと、無秩序な増成のため崩壊しやすいからPSAをたくさん含むがん細胞がたくさん壊れていることが想像できますね。(図4)
PSA基準値の設定は約25%の方が前立腺がんと診断されるラインですから、約75%の方は「がん」ではありません。
PSAが高くなるメカニズムを説明されると「ガッテン」となる方もいらっしゃるかも知れません。

まとめ
「PSA値が基準値よりも高値」は「前立腺の病気の可能性が高い!」

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【参考文献】
Ito.K.et.al. Usefulness of age-specific reference range of prostate-specific antigen for Japanese men older than 60 years in mass screening for prostate cancer. Urology.2000;56:278-282

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術