後腹膜線維症を疑う!〜その視点が治療選択につながる〜

【症例サマリー】10年前に肺癌と診断、放射線治療、各種化学療法などが奏効しお元気に過ごされている方です。腸骨転移に対し25Gyの放射線治療が施行されています。
両側尿管狭窄のためステント留置、直腸狭窄にてS状結腸ストマ、下行結腸穿孔にて横行結腸ストマの大腸ストマ2か所を管理されていました。

【当院相談の経緯】両側尿管ステント管理をされていましたが、約1年半でステントが頻回につまるため、腎瘻造設を提案され相談に来られました。腹膜播種によるためと説明されていらっしゃいました。

〜視点を変える〜 「腹膜播種が原因」と最初は同じように疑いました。
しかし、活力あり、食欲あり、腹部にストマがある以外はとてもお元気です。
腹膜播種以外に、両側尿管狭窄が同時に起こる状態、直腸の狭窄などと、病歴から絶対に腹膜播種でないと言い切れませんが後腹膜線維症を強く疑いました。
 
後腹膜線維症の治療はステロイドパルス療法が基本となりますが、肺癌治療継続中でありステロイドパルス療法を導入するかどうか迷います。
 
【治療のポイント】肺癌治療に影響を与えず、後腹膜線維症にアプローチできる治療がないか考えました。
エビデンスレベルは低いですが、経験的に使用したことがある柴苓湯投与を提案しました。治療的診断をかねご本人と相談し投与開始となりました。

【治療経過】
後腹膜線維症の診断で柴苓湯を開始し、ご本人の希望でIL-5の投与も開始されました。
当院受診から5か月目に右尿管ステントを抜去
7か月目に左尿管ステントを抜去し、両側尿管ステントフリーとなりました。

さらにうれしいことにその一か月後ストマ閉鎖術が行われ、ご自身で排便されているとの知らせを受けました。

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約2年前CT

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ステント管理1.5年

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柴苓湯、IL-5治療後 ステント抜去後

【考察】
20年前はエビデンスにうるさくなく、経験的治療を先輩や部長から教わり治療をすることが多かったです。後腹膜線維症の治療もその一つで、ステロイドパルス療法よりもむしろ柴苓湯での治療経験の方が多かったことを思い出します。エビデンスは研究によって証明されるため、お金、人手など様々な要因でエビデンスレベルが低い治療法があります。
しかし、症例報告や学会報告あるいは諸先輩方の経験的治療が役立つのが臨床です。この症例では後腹膜線維症の診断がつかなければ、治療に繋がりませんでした。もちろんステロイドパルス療法をしていればもっと早く治ったかもしれませんがわかりません。
癌にばかり目が行くことが多いとは思いますが、何かおかしいな、引っかかるななどセンサーを磨き上げて欲しいと思います。

【参考文献】
1)The efficiency of Sairei-to for retroperitoneal fibrosis: two case reports.
Asano T, Fujii Y, Numao N, Kageyama Y, Kihara K.Hinyokika Kiyo. 2006 Jul;52(7):543-7.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術