患者に術式を合わせる

腹腔鏡下仙骨腟固定術(LSC)はメッシュを使用し、理想的な修復術の一つです。本邦で行われるLSCは子宮を半分切除する方法がほとんどで子宮を温存する手術はほとんど施行されていません。

【症例】40 +α歳
【九州在住】
【現病歴】第一子出産後より子宮脱となり、なんとか三人のお子さんに恵まれた。骨盤臓器脱が徐々に増悪し、ペッサリーも脱出するため、近医に相談したところ、子宮摘出による術式を提案された。当院の電話相談で東京の亀田京橋クリニック受診。
ご本人の希望、「できれば子供が授かった時は出産したいため子宮は温存したい。」
3週間後の土曜日に手術で案内。
【POPQ】stage4 (完全脱)

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【入院経過】
金曜日:入院
土曜日:腹腔鏡下仙骨腟固定術、手術時間2時間31分、出血微量
日曜日退院

211016img2.jpg 子宮温存、腟壁は縫縮

本邦の腹腔鏡下仙骨腟固定術は子宮上部切断(亜全摘)が骨盤臓器脱(POP)に標準的に施行されています。この症例に、はたして適応できるでしょうか?骨盤底手術を専門にしている先生方なら、Native tissue repair(NTR)を選択されるのではないでしょうか。腹腔鏡下のリペアも考えられます。1)

もちろん、再発のリスクを考えるならMeshによるリペアが強いと思いますが、「挙児希望」があります。

本症例はメッシュを使用せず、腟前壁、腟後壁を吸収糸で縫縮しました。
術前は仙骨子宮靱帯の子宮付着部に非吸収糸を運針し、仙骨子宮靱帯に固定をしようと考えていましたが、手術中同部の強度がなく、仙骨に固定することにしました。テンションが強くなりすぎないような配慮が必要となります。

手術後、麻酔薬による嘔吐はありましたが、3時間後には歩行開始、排尿も改善されました。翌日は多少痛みはあるものの、鎮痛剤にて自制内で、食事摂取も良好で退院となりました。

子宮温存を温存した術式にもいろいろありますが、5年で80%の成績のものがあります。2)出産ののち再発があれば、再手術でリペアを考えるるのも一考されます。
どんな手術もそうですが、「術式に患者を合わせるのではなく、患者に術式を合わる!」です。

1) Lewis CM, Culligan P. :Sacrohysteropexy followed by successful pregnancy and eventual reoperation for prolapse. Int Urogynecol J. 2012 Jul;23(7):957-9.
2) Costantini E, Lazzeri M, Zucchi A, Bini V, Mearini L, Porena M.: Five-year outcome of uterus sparing surgery for pelvic organ prolapse repair: a single-center experience. Int Urogynecol J. 2011 Mar;22(3):287-92.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術