前立腺全摘の膀胱尿道吻合について

気になる最近のこと。

2008年IRCAD(ストラスブルグ)での腹腔鏡下前立腺全摘除術のプレゼンテーションで印象的であった尿道膀胱吻合の説明。手術後の禁制は縫合の良し悪しによることを示されていました。

図1のように、尿道だけを運針するように注意されていました。その頃の日本でも腹腔鏡下前立腺全摘除術が施行されていましたが、そのような注意はあまりされていなかったようで、術後の尿失禁が問題であったと思います。尿禁制については1年間の成績が普通でありました。腹腔鏡下での運針はとても難しく、とにかく尿道と膀胱をつなぐだけで精一杯ということであった感じがします。我々は尿禁制のメカニズムを理解していたこともあり、開腹手術と変わらない尿禁制でありました。

ロボットになって尿禁制が良いと言われますが、吻合が誰でも簡単に縫えるようになった結果と言えます。とは言え、ロボット手術後の尿失禁で相談を受けることがあるので、もし手術後の短期の尿禁制が悪い場合は運針を見直しされると良いと思います。尿道膀胱を縫えることと、尿禁制を保つ縫合(尿禁制のメカニズムを理解して)では結果は違ってくると思います。

図2のように深く運針すると括約筋、尿道粘膜のひだ構造を医原性に壊してしまうからです。IRDADではこのような運針であった場合1年以上尿失禁が続くと話されていました。

尿道は本来筋緊張がそれほどなくても尿道内部のひだ構造の粘膜、筋肉の厚みが尿禁制を保っています。最も術後の尿禁制に関係するのは「運針」だと考えられます。

しっかりと尿道と膀胱をくっつけたいとしっかりと運針したり、縫合をしっかりと強く縛ると尿道が伸ばされたり、引き連れたりすることが予想されることでしょう。図3、4

同じ頃に昭和大学北部病院の現:嘉村教授に、放射線性の尿失禁の原因として「Lead pipe(鉛管)現象」を教えていただいたこともあり、尿道のメカニズムが生み出す尿禁制について理解を深めましたので紹介します。ひだ構造がなくなっていることが尿失禁となることが理解できます。図5、6

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図1.理想的な運針

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図2.深すぎる運針。1年以上尿失禁が継続する

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図3.正常の尿道のひだ構造

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図4.尿道が伸ばされるとひだ構造も働かなくなる

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図5.正常の尿道のひだ構造

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図6.放射線照射後の尿道

膀胱尿道吻合のポイントは

  1. 尿道側は可能な限り浅く運針すること
  2. 吻合するときは締めすぎない。(尿道と膀胱の組織がくっつけばok)
  3. 尿道膀胱吻合部に負荷がかからないようにする(後壁補強、前壁補強)
  4. できれば結節縫合で運針しすぎない。

以上を気を付けるだけで術後の短期尿禁制が良くなると思います。

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術