膀胱内メッシュ露出の修復について

骨盤臓器脱術後のメッシュ迷入治療を考える。

日本での経腟メッシュ手術はエキスパートであれば、メッシュ露出はとても少なく再発も少なくとても良い治療となります。とは言え、膀胱内や尿管にメッシュが迷入する事例も散見されます。
メッシュが膀胱内に迷入すると膀胱結石、膀胱炎による頻尿、疼痛などで発見されます。
異物は除去しなければなりません。

治療法は経尿道的手術あるいは開腹、気膀胱、腹腔鏡下などの選択枝があります。
経尿道的には電気メスでメッシュを焼き切ります。この時モノポーラでは切除できないためバイポーラを使用します。電気メスでメッシュを切除し、数か月で正常粘膜が覆うというものです。上手くいけばいいのですが、数回切除が必要になることもあります。そこで、メッシュを完全に切除するのか、部分的に切除するのが良いのか難しい選択になります。

【膀胱内メッシュ露出の際外科的治療選択】

  1. 小さな一部分だけで他の膀胱粘膜は全く問題ない場合は、経尿道的あるいは気膀胱で切除が良い感じがします。
  2. メッシュ露出部分が小さくても、メッシュが拘縮し膀胱粘膜を押し上げている場合は、完全に切除がよいと感じます。

【症例】80+α歳
【主訴】頻尿 (膀胱炎を繰り返す)
【既往歴】45+α歳 子宮腺筋症 子宮全摘除術
     70歳+β 経腟メッシュ手術
【現病歴】最近膀胱炎を繰り返すようになり、近医で抗生剤加療を施行されるも再燃するため膀胱鏡をしこうされたところ、膀胱内メッシュ露出と診断された。

膀胱鏡所見:

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【治療経過】

【腹腔鏡下膀胱部分切除+メッシュ除去術】
手術時間 305分、出血 10cc
尿管口が近く、慎重に膀胱粘膜、筋層を縫いましたが、術中尿管口からの尿の流出がなく、再縫合しました。尿管ステントを留置の上、再度縫合しました。尿管ステントを留置しておくべきでした。

1週間後、膀胱留置カテーテル抜去。退院。
6週間後、尿管ステント抜去。

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膀胱粘膜、膀胱筋層を2層に縫合しています。

210724img6.jpg 左が膀胱を突き上げていた、拘縮したメッシュ。

Type of complicationDefinition
Exposure A condition displaying, revealing, exhibiting or making accessible (vaginal mesh visualized through separated epithelium)
Extrusion Passage gradually out of body structure or tissue
Perforation Abnormal opening into a hollow organ or viscous
Dehiscence A bursting open or gaping along natural or sutured line
Contraction Shrinkage or reduction in size
Prominence Parts that protrude beyond the surface (wrinkling or folding with no epithelial separation)

IUGA/ICS terminology of mesh-related complications 文献1)より

【考察】
国際的にメッシュ手術が施行されることが多くなったため、必然的にメッシュ関連合併症が増えています。IUGAとICSによりメッシュ関連合併症に対する評価と管理についての論文がだされています。1)この中で、腟壁メッシュ露出のリスクファクターは、a)年齢、喫煙、糖尿病、同時子宮摘除、b)モノフィラメントメッシュ、C)外科医の経験と適切なトレーニングとなっています。患者要因には注意を払い適応を決めることができます。また、外科医の経験があるか、適切なトレーニングを受けているかどうかはとても重要な要素だと考えます。

メッシュ膀胱への露出の際は、本邦ではメッシュを切除する際にできるだけ低侵襲にと、経尿道的手術を選択することが多い印象をうけています。初めに述べましたように一部だけで拘縮がないメッシュの場合は良いと思います。しかし、高齢で手術ができる機会が少なくなってきたり、本症例のように拘縮したメッシュが膀胱粘膜を押し上げてきている場合、膀胱に接する部分は完全に切除が望ましいと考えます。
今後、メッシュ関連合併症の外科アプローチ方法も経腟的、開腹、腹腔鏡/ロボット、内視鏡など選択枝を考えておく必要があります。

【参考文献】

1)Haylen BT, Freeman RM, Swift SE, Cosson M, Davila GW, Deprest J, et al. An International Urogynecological Association (IUGA)/International Continence Society (ICS) joint terminology and classification of the complications related directly to the insertion of prostheses (meshes, implants, tapes) and grafts in female pelvic floor surgery. Neurourol Urodyn. 2011;30:2-12

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術