メッシュ関連膀胱腟ろうの修復について

膀胱腟ろうを考える。

近年の骨盤臓器脱の治療にはメッシュが用いられることが多くなりました。治療効果が高く、患者満足度も高い治療として普及してきました。経腟的に膀胱と腟の間、あるいは直腸と腟の間に充填されます。しかし、メッシュは異物であるため、メッシュが綺麗に貼られていなかったりすると、膀胱の中に迷入したり、腟に出てきたりします。メッシュを充てんする際は、「きれいにはる」ことがとても重要です。

膀胱にメッシュが出てきた場合は、膀胱炎を繰り返し、メッシュに膀胱結石が付着してきます。細菌がメッシュに結石を作るからです。メッシュ手術後、膀胱炎を繰り返す場合は膀胱鏡検査が必須です。メッシュ手術をするからには、手術後のアフターケアができるようにしておく必要があります。

【症例】85+α歳
【既往歴】40+α歳 子宮筋腫 子宮全摘除術
【現病歴】60歳ごろから尿漏れがひどくなった。75+α歳で性器下垂感がひどくなり、膀胱瘤の診断。
【治療経過】
75+β歳 経腟膀胱脱手術を施行された。
1年後 尿失禁 にて 尿道スリング手術
3年後 直腸瘤 にて 後腟壁形成手術
5年後 膀胱炎を繰り返すようになる。
    経尿道的膀胱結石、膀胱内メッシュ切除
6年後 経尿道的膀胱結石、膀胱内メッシュ切除 2回目
    尿失禁 にて 膀胱腟ろうの診断

【当院での治療経過】
【膀胱鏡】後壁三角部に2?の瘻孔とメッシュびらん、尿管口にもメッシュびらんを認めた。Debris多量

治療戦略:
第1案:1期的に、経腟的にメッシュ切除、膀胱粘膜、筋層2層縫合+Martius Flap、腟壁縫合
第2案:経腟的にメッシュ切除、感染コントロール、2期的に腹腔鏡下膀胱腟ろう根治術(大網充填必要に応じ尿管膀胱新吻合術)

注意を払った点は、メッシュ感染による膀胱内の汚染状況を踏まえ、術後Flapへの感染がおこる可能性も危惧されること、メッシュが尿管口への迷入も示唆されるため、経腟的にメッシュ切除し、膀胱、腟を縫合し一時閉鎖するが、感染状況から腟ろう再発は必発のため、2期的に根治術を行うことを前提で手術を行うこととなった。

2015+γ年:経腟的メッシュ切除術+膀胱腟ろう閉鎖術。
(露出メッシュは切除できたが、メッシュは尿管口部の粘膜筋層内にも接し、膀胱粘膜筋層内にも確認できたため可及的な切除を行った。尿管口周囲の粘膜筋層の縫合は難しく周囲を合わせるだけになった。)
残存したメッシュで再度膀胱内への露出も懸念されることから、メッシュは完全に切除する方針とした。
2015+γ+0.5年:腹腔鏡下膀胱腟ろう根治術+両側尿管膀胱新吻合術
術中所見:瘻孔は尿管口を含めて切除し、きれいな粘膜筋層を2層で縫合、腟壁も縫合し、大網を膀胱と腟の間に充填した。その後両側の尿管膀胱新吻合術は粘膜下トンネルを作成した。
手術時間:6時間50分 出血量:100ml

術後1日目、手術後当日、歩行はできず、翌日から歩行開始。
術後2週間後 膀胱留置カテーテル抜去
抜去直後は畜尿障害が強く、頻尿、尿漏れがあり、様子観察。
術後3週間後 退院となった。

2年間、水腎症なし、再発なく経過。

【考察】
そけいヘルニアの修復術はメッシュを用いることがスタンダードですが、ごくまれに膀胱にメッシュびらんや迷入することが知られています。1)治療法はメッシュを部分切除あるいは完全切除、膀胱部分切除などを状況に応じ選択します。膀胱近くにメッシュがあることでびらんや迷入することを防ぐにはそけいヘルニアの手術でも「メッシュをきれいに伸ばすこと」につきます。

当然、骨盤臓器脱手術でのメッシュびらんはメッシュが拘縮して塊になっていることが多く、メッシュびらんに対する予防は「メッシュをきれいに伸ばす」ことです。経腟的メッシュのエキスパート加藤先生らの報告では2648名のうち、腟壁びらん0.68%、膀胱内迷入0.38%、尿管0.08%と報告されています。世界的に見ても、日本の医療レベルの高さは同じ日本人として誇らしく思います。この中で、膀胱内のメッシュを経尿道的に除去し、再発例には再度経尿道的切除が必要となったとしています。2)

欧州では10%を超えるメッシュびらんが報告されており、どこで手術を受けるかで合併症の率が変わってくることはデータが示しています。 MacDonald S, Terlecki R, Costantini E, Badlani G. Complications of transvaginal mesh for pelvic organ prolapse and stress urinary incontinence: tips for prevention, recognition, and management. Eur. Urol. Focus 2016; 2: 260-7.

メッシュ関連の膀胱腟ろう修復術の報告は少なく、一期的に経腟的にメッシュ切除、Martius Flapでの修復術を施行されているケースもあります。3)

経腹的あるいは経腟的に修復するにせよ、Flapの充填は必須となると考えます。

本症例では、尿管口にもメッシュが迷入していたため、メッシュを切離する必要がありました。しっかりと膀胱粘膜・筋層縫合を行うためには、尿管口を移設する必要があり、尿管膀胱新吻合を追加することになりました。

そけいヘルニア手術や骨盤臓器脱手術、前立腺肥大症や尿管結石など良性の手術は、癌の手術と比べて簡単と医師も患者も思いがちですがとんでもありません。良性疾患こそしっかりとしたトレーニングが必要です。

大学時代の若いころ、勝岡教授に「結石を笑うものは結石に泣く」と言われたことを思い出します。たとえ小さな結石でも尿管や腎臓の合併症を来すことがあります。このため、いつも改善点をみつけ日々修練を積みかさねるしかありません。少し争点がそれましたが、日常臨床にお役立ていただければと存じます。

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膀胱鏡所見:メッシュに結石が付着し膀胱内の感染がsevere

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膀胱鏡所見

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腟内に飛び出したメッシュ

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術中所見:縫い代を取るために、膀胱腟管を剥離。残存していたメッシュをさらに切除した。

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膀胱を2層縫合、腟を単結節縫合

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膀胱と腟の縫合部の間に大網を充填している。

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尿管口にもメッシュに露出していたため、両側尿管膀胱新吻合を追加

【参考文献】

1)Mesh erosion into urinary bladder, rare condition but important to know.
Li J, Cheng T.Hernia. 2019 Aug;23(4):709-716
2)Kato K, Suzuki S, Ishiyama A, Kawanishi H, Matsui H, Kato T, Hirabayashi H, Hattori R.. Int J Urol. 2021 Feb;28(2):202-207.
3)Mishra VV, Tanvir T, Choudhary S, Goraniya N.A transvaginal removal and repair of vesicovaginal fistula due to mesh erosion. J Midlife Health. Apr-Jun 2016;7(2):97-9.

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術