限局性前立腺がんの外科治療について

気になる最近のこと。

【症例1】70+α歳、男性
【既往歴】#1 開放隅角緑内障
     #2 高血圧症
【手術歴】30+α歳:そけいヘルニア 
【アレルギー】なし
【喫煙歴】なし

【PSA値】PSA12ng/ml
【病理組織診断】Gleason score4+3=7、陽性コア数:3/14、右葉のみ
【MRI】右葉に腫瘍
【臨床診断】T2b、N0、M0
【治療戦略】
 1.根治的前立腺全摘除術
 2.放射線療法
 3.ホルモン療法
 など単独、あるいはコンビネーションにて治療を考えます。

泌尿器科医なら根治的前立腺全摘除術をまず頭に思いうかべることと思いますが、心肺機能や手術を希望されない場合は放射線療法を次にあげると思います。  
この方は「開放隅角緑内障」の治療中でDa Vinci手術は失明の恐れがあるため、放射線療法を勧められとのことでした。一見医師の説明も正しい部分がありますが、実際患者さんは手術で摘出を希望されていました。
最近気になることは、ロボット手術ができないときに放射線療法と言う流れが当たり前になってきているのではということです。
Da Vinci手術が普及したことにより、各医師のラーニングカーブが向上し差がない手術が提供できることは非常に良いことですし、ますます発展していって欲しい手術術式です。
しかし、個々の症例について向き合う必要があります。

根治的前立腺全摘除術には、開腹、腹腔鏡、経会陰式そしてロボット支援手術があります。開腹手術でも腹腔鏡手術でも熟練した泌尿器科医であればロボット支援手術と変わらないあるいは未熟なロボット支援手術よりも充分良い手術をする先生もたくさんいらっしゃいます。
ロボットはあくまでも電気メスやシーリングディバイスの延長線上にあり、ロボットがないと手術ができないと言うのは非常に危険なことではないかと心配になります。
若手医師の教育環境が大きく変わり、今後の泌尿器外科医療の難しいテーマの一つかもしれません。

【独り言】年寄りの小言のようだと、若手医師には苦笑いされているかも知れませんね。

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術