尿管腟ろう(修復術):術中止血が原因と考えられた2例

【症例1】55+α歳、女性
【既往歴】なし
【手術歴】なし
【アレルギー】なし
【喫煙歴】なし
【現病歴】子宮筋腫のため201x/1腹腔鏡下子宮全摘除術(TLH)を施行された。術後尿失禁があり、尿管腟ろうと診断され、尿管ステントが留置された。約1年半軽快しないためコンサルト。

201x+1/11 【腹腔鏡下左尿管膀胱新吻合術】 
術中所見、血管交差部で尿管を確保し、膀胱側へ剥離、基靱帯と尿管が一塊となっていた。
手術時間:2時間30分、出血量5ml
術後経過:1か月後、尿管ステントを抜去
水腎症や感染症なく経過良好。

【症例2】40+α歳、女性
【既往歴】なし
【手術歴】なし
【アレルギー】なし
【喫煙歴】なし
【現病歴】子宮筋腫のため201x/8腹腔鏡下子宮全摘除術(TLH)を施行された。術後尿失禁があり、2ヶ月後に尿失禁を主訴に受診。尿管腟ろうと診断。

201x/12 【腹腔鏡下右尿管膀胱新吻合術】 
術中所見、血管交差部で尿管を確保した。基靱帯切断部に尿管が離断していた。
手術時間:2時間、出血量5ml
術後経過:1か月後、尿管ステントを抜去
水腎症や感染症なく経過良好。

201126img01.jpg 【症例1】左尿管から腟へ漏出する尿

201126img02.jpg 【症例2】右尿管が閉塞し、右水腎症

【尿管腟ろうについて】
いづれの症例も術後の「尿漏れ」の症状で尿管腟ろうの診断に至っています。子宮全摘除術後合併症の内、腟ろうは50%以上と言われています。手術後の継続的な尿漏れは腟ろうを考えます。腹痛や発熱または血尿などの症状や、腸閉塞や水腎症などを認めることもあります。10-15%は術後3,4週間で症状が出てくることもあります。1
また、いづれの症例の尿管損傷の原因は基靱帯処理でリガシュア®が使用されていました。脱膜化が不完全なために出血が起こり、リガシュア®を用いたシーリング止血で尿管損傷となった2例です。
リガシュア®はシーリングディバイスとしてはとても良い医療機器ではありますが、使用方法に注意が必要です。
骨盤内の尿管損傷であることから、Psoas hitchによる尿管膀胱新吻合術を頭にいれ再手術に臨みます。尿管が届かない場合はBoari Flapも検討しなければなりません。2例は腹腔鏡下にLich-Gregoir法を用い粘膜下トンネルを作成し施行しています。
術後約1カ月で尿管ステントを抜去し狭窄や感染症はなく経過良好です。

【ワンポイント】
子宮全摘後、継続的な尿失禁が継続する場合は尿管腟ろうを疑い精査加療を進める。

1.Iatrogenic ureteral injury after gynecological surgery, Smith A.P, Bazinet,A. Liberman,D ,.Can Urol Assoc J 2019 Jun;13(6 Suppl4):S51-S55

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術