尿路損傷の修復について:尿路損傷(尿管損傷、膀胱損傷)を考える。

近年の手術技術、手術機器の進歩は目を見張ります。特に腹部、骨盤内の手術においては内視鏡手術が当たり前に行われ、出血量や手術時間も短くなり低侵襲手術として大きな福音となりました。しかし、手術合併症がなくなったわけではありません。どんなに上手な医師や多くの症例を経験している施設であっても合併症は起こりえます。しかし、合併症に対してもしっかりとした対応や最良の処置によって以前と変わらない生活が回復する可能性があります。合併症対策をしっかり講じ、合併症の修復ができない場合はできる施設へ気軽に相談していただきたいと考えます。

医原性尿路損傷は婦人科手術・下部消化管手術の際に起こりえます。医原性尿管損傷の大多数は婦人科手術であることが報告されています。また、婦人科手術の約0.5%〜1.5%に尿管損傷が発生しています。1,2 術中に発見されるのは8.6%、術後に発見されるのが70%以上です。3 つまり手術後に骨盤内に尿がたまったり、腰背部痛や感染あるいは手術後のエコーやCTで見つかります。

手術をするということは悪い部分を取り除いたり、再建したりするわけです。1.切って、2.縫う。二つのことをしています。裁縫 のようなものですが、切るときに血管、神経、リンパ管も切れます。時には出血が起こり、その止血や、予防的に血管を縛ったりします。尿管や膀胱の損傷は出血を止める際、凝固止血(焼く)や、縫合止血(一緒に縫い込んでしまう)や、癒着(がんの浸潤や炎症など)剥離の時におこります。

手術中に損傷が確認できた際はその場で修復術が行われますが、修復術が不完全であったり、損傷に気づかれなかった場合は手術後に前述したような症状でみつかります。あるいは尿漏れ(膀胱腟ろうや尿管腟ろう)、糞尿(膀胱直腸ろう)で発見されることも少なくありません。

治療としてはまず、尿管ステントの留置が試みられます。ステントが入らない場合は腎瘻(背中から管を腎臓に留置)が造設され尿を出す経路を確保します。尿管ステント、腎瘻が入れば腎機能障害は安心できますが、ステント交換の合併症のことを考えておかなくてはなりません。尿管ステント留置により約60%の方が急性腎盂腎炎などの尿路感染症になることがわかっています。
膀胱直腸ろう、尿管腟ろう、膀胱腟ろうは尿管ステントや膀胱留置カテーテルを留置しても自然治癒することはごくごく稀です。
また、尿管ステントは膀胱尿管逆流をおこすため腎盂内圧の上昇で背部痛の原因になったり、長期では腎機能障害も懸念されるため、できればステントフリー(尿管ステントがない状態)にすることがよいと考えます。

骨盤内で損傷された尿管を膀胱につなぐ方法として行われる主な尿管膀胱新吻合は 1.Psoas hitch、2.Boari flap を併用した尿管膀胱新吻合術です。いずれかの手術ができれば、まず尿管ステントの定期的な交換がなくなります。尿管尿管再吻合を試みたくなりますが、切れた尿管の部分は何らかの癒着や、止血のため凝固されていたりすることで、血流が悪くなっている可能性が高く、再吻合しても血流障害による尿管狭窄を来しやすいため慎重にしなければなりません。基本的には尿管膀胱新吻合を選択することが多くなります。逆流防止機構を作成しない修復術もありますが、粘膜下トンネルを作成し、膀胱尿管逆流を防止する尿管膀胱新吻合術を選択すべきだと考えます。

ここでは、術中尿管損傷、膀胱損傷の修復術を他院で行った症例などを含め一例一例、尿路損傷の原因、対処方法、治療方法、治療期間などを示し、今後の治療の参考になればと思います。

1.Dowling RA, Corriere JN, Jr, Sandler CM. Iatrogenic ureteral injury. J Urol.1986;135:912-5.
2.St Lezin MA, Stoller ML. Surgical ureteral injuries. Urology. 1991;38:497-506.
3.Ostrzenski A, Radolinski B, Ostrzenska KM. A review of laparoscopic ureteral injury in pelvic surgery. Obstet Gynecol Surv. 2003;58:794-9.

201118img01.jpgPsoas hitchにてひだり尿管膀胱新吻合術

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術