腹壁浸潤膀胱がん T4,N0,M0

亀田メディカルセンターならではの日常臨床をご紹介したいと思います。

【症例】75+α歳、男性
【既往歴】#1 発作性心房細動 #2 高血圧症 #3 大動脈弁狭窄症 #4 正常圧水頭症
【手術歴】60+α歳:胃がん 
【アレルギー】抗生剤
【喫煙歴】なし

化学療法前201027img01.jpg【カンファレンス】               泌尿器科、腫瘍内科
局所浸潤がんで、遠隔転移を認めない症例。
治療戦略:局所への治療を集中させることで根治を目指したい。
    当院の進行性大腸がんで行われている化学療法+放射線照射+手術の成績がよく、
    膀胱がん化学療法に調整し治療する。

【治療経過】
201x/1 造影CT 進行膀胱癌(T4s/o)、明らかな遠隔転移なし
201x/2【TURBT】
   【病理診断】 Urothelial carcinoma, high grade,
201x/2【GC療法】×3コース 
   (Gem1600mg CDDP55mg×2:シスプラチンを分割投与し腎機能障害を最小限に抑えます)
201x/5【化学療法  +  放射線照射】
   (Gem 500mg CDDP15mg) (膀胱の病変部分へ40Gy)
201x/7【腹腔鏡下膀胱全摘+回腸導管】(尿道抜去)
   手術時間:6時間27分 出血量:710 ml(尿込み)
   (腹直筋の一部を膀胱側につけるように切除)
   術前Hb12.1 術後Hb12.2
1POD 水分開始、ドレーン抜去
3POD 食事開始 嘔気あり 絶食
4POD 食事再開
14POD 尿管ステント抜去
20POD 退院

退院後3日目に発熱があり、緊急入院となる。
急性腎盂腎炎のため抗生剤加療が行われた。

その後、トラブルなく5年以上お元気に過ごされています。

【ポイント】

  • 腫瘍内科とのカンファレンスにより患者さまに合わせた治療を選択しえた。
  • 当院外科での化学療法+放射線療法+手術療法のコンビネーション治療の実績が活かされた。
  • 放射線照射後、約6週間程度で手術することが

【ワンポイント】
T4症例を考察すると、3年再発率は75%で癌特異的死亡率66%と報告されています。1)
日本人の局所浸潤性膀胱がんの化学療法+放射線療法を用いた温存療法では疾患特異的5年生存率33.3% 2)となかなか厳しい状況と考えられます。手術に至る治療戦略を腫瘍内科と考え、個々の治療に繋げることで治療の幅が広がります。

1) The surgical management of patients with clinical stage T4 bladder cancer: A single institution experience,Moschini M, Luzzago S, Zaffuto E, Dell'Oglio P, Gandaglia G, Mattei A, Damiano R, Soria F, Klatte T, Shariat SF, Salonia A, Montorsi F, Briganti A, Gallina A, Colombo R.Eur J Surg Oncol. 2017 Apr;43(4):808-814.
2) 浸潤性膀胱癌に対する放射線化学療法―治療成績と予後予測因子としてのBcl-2 family―
阿部 豊文, 吉岡 俊昭, 佐藤 元孝, 森 直樹, 関井 謙一郎, 板谷 宏彬、日泌尿器科学会雑誌2011 年 102 巻 1 号 p. 14-22

このサイトの監修者

亀田総合病院
泌尿器科部長 安倍 弘和

【専門分野】
泌尿器疾患一般 腹腔鏡下手術