腱反射2

 神経細胞の興奮は非線形数学の世界でカオス的変曲点を持つ。興奮するかしないかである。生理学ではこれを「全か無かの法則」という。興奮性の情報が集積し、神経細胞の膜の電気的平衡がある一点を越すとその神経細胞は一挙に興奮へと突っ走る。この変曲点を興奮の閾値という。
 数百のIa線維の興奮性伝達の総和がこの閾値を越すと、その神経細胞は興奮しその支配筋に筋収縮を起こすような司令を発する。この筋収縮が腱反射として捉えられる。
 一個の筋肉は数十から数百の運動神経細胞(アルファ運動ニューロン)で支配されている。健常人では腱反射で興奮し発火する運動神経細胞はその筋の全運動神経の大よそ10-20%である。これは筋肉の上に電極を張り付け電気的にその筋を支配する運動神経線維の全てを刺激して得られる反応の大きさと、腱反射で得られる反応の大きさを比較することで概算できる。腱反射は白筋に比べ赤筋でより大きく記録される。すなわち、姿勢保持は瞬発力のない筋に任されている。その落差を神経機構が補っている。
 この反応は何か。これこそが小枝が揺れても眠った鳥が落ちない、姿勢制御のためのサーボシステムである。
 様々な病気の状態でこの腱反射は微妙に変化する。その変化の具合を熟練した医者は見破り、診断して行く。正にファジーの世界といえよう。しかし熟練には何万回と言う修行が必要である。
 もしも読者が不幸にして大学病院に入院する羽目となり、実習の医学生がハンマーを持ってあなたの腱を叩打しても訴えないで欲しい。次の回にはこの本を読んで勉強して行きますから。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療