サーボシステム2

 鳥が木で眠り込んで木が揺れても、体の傾きで筋肉が引き延ばされ、筋紡錘が同時に引き延ばされて興奮し、この信号でその引き延ばされた筋肉を支配している運動神経が興奮するので、体位を元に戻すことができる。

 現代では疑問が投げかけられているが、「個体発生は系統発生を模倣する」という概念がある。つまり、受精卵は単細胞生物から複雑な細胞分化を経て個体発生を行うが、この間に魚であったり両生類であった時代を再現しながらヒトとして誕生すると言うものである。

 この概念に則った科学的方法として胎生期の生物を調べいろいろな機構の発達過程を推測する方法がある。鳥のまだかえっていない、卵の中のヒヨコの神経機構を観察すると神経機構の発達を知ることができる。

 胎生期に一番最初に見られる運動は、Snakingと呼ばれる、ヘビの様に体を横にクネラセル運動であるという。魚は主にこの運動で泳ぐ。この運動は体側の皮膚刺激で誘発される。丁度脇腹をくすぐったときに体がよじれるのとおなじである。皮膚刺激が脊髄前角細胞に伝達され、前角細胞が興奮するには多くの介在ニューロンが間に挟まった複雑な回路が必要である。しかしこの回路は神経機構の中では原始的なものであるらしい。

 一方、筋紡錘からの情報の運動ニューロンへの連絡はモノシナプティック、すなわち間に介在ニューロンを挟まない直接的連絡であり、最も単純な神経-神経結合であるにもかかわらずその線維連絡が完成するのは胎生期の随分後のことであると言う。

 この事実が意味するものは何か。この神経機構は魚には必要ないらしい。魚と鳥の違いは何か。それは重力を背負ったか否かではないかと思われる。

 筋紡錘が系統発生のどの段階で見られるのか著者は良くしらない。しかし、この神経機構が抗重力に最も重要な作用を持つことを考えると、地上生物となって発達した機構であることは間違いなさそうである。

 キリストは人の罪を背負い生涯の最後に十字架を背負った。しかし罪深き我々地上生物は、罪はキリストが背負ってくれても卵の殻を破るか、母親のおなかから出た瞬間から我が母なる大地の絶大な重力という十字架を背負って歩かねばならないのである。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療