サーボシステム1

 子供の頃水中を動く電気仕掛の魚が作りたくて何とかモーターの部分を水密にできないかと思い悩んだものであるが、最近では模型用のモーターですら防水の水中モーターがあると聞く。じつに有難い世の中になったものだが、近頃の子供達たるや、部品のすべての準備の整ったプラモデルでしか遊ばない。

 新幹線が超300km/hで走れるのはモーターの発達に負うところが大きい。モーターは縁の下の力持ちで、ボルトが抜け落ちてダイアが乱れるまでその存在すら忘れられている。

 モーターそのものの出力増大の発達もさりながら、同時にサーボシステムの発達が大きい。サーボシステムとは、作動監視装置と補正装置である。予定の回転速度でモーターが回転しているかどうかをチェックし、何かの理由で負荷が大きく回転が低下した場合には誤差信号が発せられ、出力を上げ回転を安定させる。逆に負荷が減って回転が上がり過ぎた場合には、出力を下げ回転を低下させる。

 この様なサーボシステムにとって、センサーが重要な働きをする。

 動物のモーターとは筋肉である。筋肉で発生する力学的作用は回転ではなく平行移動である。つまりリニアモーターである。筋肉の中でミオシンとアクチンという蛋白質が引き付け合い、スライドするために収縮し、力を発揮する。この命令は脊髄前角にあるアルファ運動ニューロンと呼ばれる大型の神経細胞が司令を出している。脳からの命令はすべてこのアルファ運動ニューロンに中継されて最終出力となる。

 さて、センサーの問題である。小枝に止まった小鳥が枝が風になびいても落ちないのは発達したセンサーがあるからである。

 センサー一般として神経機構の中で活用できるものを考えてみると、まず視覚が挙げられる。さらに体の三次元的な加速度認知装置として内耳の三半規管がある。確かにこれらは補正装置として重要な働きをしているが、小鳥のような小さな生物でもその回路は複雑すぎて補正までに時間がかかりすぎる。さらに都合の悪いことには目を開けていなければならない。眠ってしまうと木から落ちるのでは困る。

 もっと短い反応時間で作動するサーボシステムが必要である。筋肉内には筋紡錘と言うセンサーがちゃんと埋め込まれている。これは引き延ばされたときに信号を発生する装置である。この信号はグループIa神経線維と呼ばれる太い感覚神経を体の中で最も早い伝導速度で脊髄に向かって上って行く。そして脊髄の中で直接筋線維を支配しているアルファ運動ニューロンに連絡し、興奮的な信号を伝える。

※このコンテンツは、当科顧問橘滋國先生の著書である「体の反射のふしぎ学ー足がもつれないのはなぜ?」(講談社 ブルーバックス 1994年)を元に改変・編集したものです。

このサイトの監修者

亀田総合病院
脊椎脊髄外科部長 久保田 基夫

【専門分野】
脊椎脊髄疾患、末梢神経疾患の外科治療